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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第33話:澪って感じ






――透視点


 あの日、陽菜の墓参りから、何かがおかしい。


 ――いや、正確に言えば。

 何もおかしくはない。


 授業はいつも通り。

 放課後の教室も、変わらない。

 澪も、いつも通りそこにいる。


 なのに。


 澪の纏う空気が違う、と言うのか。

 雰囲気が変わった、と言うのか。

 仕草……なのかもしれないし、そうでもないのかもしれない。


 はっきりした違いはない。

 けれど、確かに「何か」が違う。


 以前と変わらない日常。

 その中に、ほんの少しだけ、説明のつかないずれがある。


 澪が転校してきて、もう一ヶ月と少しが過ぎた。


 ――まだ、一ヶ月。


 そう思った瞬間、少しだけ驚いた。

 もっと前から、ずっと一緒にいたような気がしていたから。


 ここに、陽菜もいればよかったな。

 ふと、そんなことを考える。


 きっと二人は、すぐ仲良くなっただろう。

 同じ「朝霧」という苗字をからかわれて、

 そのたびに揃って怒る姿が、簡単に想像できる。


 そこまで考えて、ふっと思考が止まる。


 陽菜がいなくなって空いた心の隙間が、

 埋まったわけじゃない。


 それでも。

 陽菜のことを思い出しても、

 以前ほど胸が苦しくならない自分に、少しだけ苦笑する。


 ……そんなことを考えながら、

 私は、澪を見ていた。


 窓の外を、ぼんやりと眺める横顔。


 前は、よく似ていると思っていた。

 陽菜と。


 でも、こうして見ると、全然似ていない。


 笑い方。

 相槌の打ち方。

 仕草。


 似ていると思っていた部分は、確かにあった。

 けれど最近は、そう思わなくなった。


 なんて言えばいいんだろう。


 陽菜の笑い方とは、違う。


 本当の笑い方を知った後みたいに笑う。

 そんな言い方の方が、しっくりくる。


 くしゃっと崩れるような笑い方を、

 初めて見た時は、可愛いな、なんて思った。


 ――この方が、ずっと澪らしい。


「透?」


 視線に気づいたのか、声をかけられる。


「あ、ごめんごめん〜」

「なんでも……な、くはないけど……ここ、教えて?」


 誤魔化すように、英語の教科書を開いた。


 陽菜は英語が苦手で、

 二人でよく四苦八苦していた。


 でも、澪は意外と英語が得意だった。


 そのことを知った時、

 澪は少し困ったように笑った。


 ……知っちゃダメだったのかな。

 そんな疑問が、ふと頭をよぎる。


 それに。

 ここだけの話だけど、

 澪は将来、海外に行って通訳の仕事がしたいらしい。


「透? 聞いてる?」


 ひらひらと手を振られて、はっとする。


「もぉ〜、ちゃんと聞いてないでしょ?」


「あ、ごめんごめん」


「ちょっと休憩する?」


 その言葉に、へへっと笑った。


 そんな私を見て、

 澪は困ったような顔をしてから、

 思い出したように口を開く。


「そういえば……聞きたいことがあったんだ」


「え? なになに?」


「ん〜とね、全然意味はないんだけど

私の苗字、知ってるよね?」


「え? う、うん。朝霧だよね?」


 意外なほどすんなり口から出てきた。

 ……あ、大丈夫だ。


「ん、ほら……

透、最初から私のこと澪って呼んでたから

やっぱり、陽菜さんのことがあるから?

今でも、私の苗字呼ぶの嫌かなって思って……」


「ん〜、正直言うと

最初は、そうだった」


 陽菜を思い出して苦しくなるから、

 わざと呼ばなかった。


「……やっぱり」


 澪が、小さく呟く。


「でも、今は……苦しくない」


 言葉を選びながら、続けた。


「朝霧って聞いても、

声に出しても、苦しくないよ?」


「……そっか」


 少し間を置いてから、澪が言う。


「じゃ、私のことも……

あ、朝霧さんって……呼ぶ?」


 まだ一ヶ月くらいしか経ってないし。

 そう言って、俯く澪。


 それを見て、思わず言った。


「本気で言ってる?

怒るよ」


 ぱっと顔を上げる澪。


「ん〜、澪はね

なんて言うのかな……

澪って感じがする!!!」


 その言葉に、

 澪の目が、ほんの一瞬揺れたことに、

 私は気づかなかった。


 朝霧という苗字は、

 組織が与えた名前。


 澪という名前だけが、

 彼女の、本当の名前だった。


 ――いつか。

 本当の苗字も、透に伝えたい。


 そう、澪は思っていた。


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