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第32話:首輪の形
夜。
家のリビングは静かで、電気の光だけが壁を淡く照らしていた。
澪は椅子に腰掛け、端末を開く。
今日、墓参りから帰ったばかり。
任務は終わっていない。
――だが、直後に回収はできなかった。
指先は自然に動き、報告書の文面を打つ。
淡々と、正確に。
感情は入れない。
誤解も恐れない。
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《対象者夏川透の親友の位置を確保》
《親友の位置確保により、今後の業務効率向上》
《血液回収は今回見送り、本人自発的提供を誘導》
送信ボタンを押す。
端末の画面に「送信完了」の文字。
長い沈黙のあと、確認通知が届く。
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《判断:了承》
《提案内容を採用》
《次回回収は対象者自発提供を優先》
《経過を逐次報告せよ》
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澪は端末をそっと閉じる。
目は画面の先に一点を見つめたまま。
心は冷静。
頭は合理的。
でも、胸の奥では何かが静かに軋む。
――これで、もう少しだけ。
彼女のそばにいられる。
それが、どんな首輪なのか。
澪はまだ、完全には理解していなかった。




