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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第30話:逃げ道を選ばなかった日







 放課後の空は、少しだけ高かった。

 雲が薄く流れて、風も穏やかで、季節がひとつ進んだことを教えてくる。


 帰り道。

 透と澪は並んで歩いていた。


 特別な会話はない。

 今日の授業のこと、次のテストのこと、どうでもいい話題をいくつか交わすだけ。


 それなのに、透は何度も言葉を飲み込んでいた。


 ――今じゃない?

 ――でも、いつならいいの?


 何度も胸の奥で繰り返して、足先が少しだけもつれる。


「……澪」


「なに?」


 澪は、自然に足を止めた。

 透の方を見る、その仕草があまりにも当たり前で。


 透は、一瞬だけ視線を泳がせてから、小さく息を吸う。


「あのさ……」


 言葉にすると、途端に重くなる。

 それでも、引き返すことは出来なかった。


 透は、しばらく言葉を探していた。


「……前に、話したよね」


 澪を見る。


「陽菜って子がいて……大切な幼馴染だったって」


 澪は、黙って頷いた。


 透は、少しだけ視線を落とす。


「その時さ……全部は、言わなかった」


 指先が、ぎゅっと絡む。


「言えなかった、って言うか……」


 一度、息を吸う。


「澪と、ちゃんと仲良くなってからにしたかった」


 顔が、ほんのり赤くなる。


「……陽菜がね、眠ってる場所があるの」


 澪の目が、わずかに揺れる。


「そこに……澪を連れて行きたいなって」


 透は、恥ずかしそうに笑った。


「陽菜と同じくらい……大切な友達が、できたよって」


 その言葉は、重くて、優しくて。


 風が、二人の間を抜ける。


「同じ名前で、同じ苗字で……正直、最初はびっくりしたし……怖かった」


 透は苦笑した。


「でもね。澪と一緒にいると、陽菜のこと思い出すのに……苦しくないんだ」


 それは、ずっと言えなかったこと。


 澪は黙って聞いている。

 表情は読めない。


 透は指先をぎゅっと握った。


「私……」


 一瞬、ためらって。

 それでも、言葉は止まらなかった。


「澪を、陽菜に紹介したいなって思って」


 顔が熱くなる。


「へ、変だよね。もう居ないのに、とか……勝手だし……」


 言い訳みたいに言葉が重なる。


「でも……」


 透は、澪を見る。


「陽菜と同じくらい……だ、大切な友達だから」


 最後の方は、ほとんど声になっていなかった。


 恥ずかしさに、視線を逸らす。

 今さら、言い過ぎたかもしれない、と思いながら。


しかも二回も大切な友達だと言ってしまった。


 沈黙。


 その数秒が、やけに長い。


 澪は、すぐには答えなかった。


 墓参り。

 その言葉が、胸の奥に静かに沈む。


 ――今じゃない。


 それだけが、先に浮かんだ。


 血の回収は、いつでもできる。

 むしろ――


 人の少ない場所。

 感情が揺れる日。

 警戒が、完全に解ける瞬間。


 合理的だった。


 だから。


 澪は、その判断に名前をつけなかった。


 それが“延期”だと、分かっていながら。


 そして――


「……一緒に」


 澪の声は、低く、静かだった。


 透が顔を上げる。


「一緒に、墓参り行かない?」


 透の瞳が、揺れる。


「……いいの?」


 澪は、小さく頷いた。


「連れて行って。……その人に」


 透の表情が、ぱっと明るくなる。


「……ほんと!?」


 声が弾む。


「ありがとう……! きっと、陽菜も喜ぶと思う!」


 澪は、少しだけ口元を緩めた。


「……そうだと、いいね」


 その言葉の奥に、何があるのか。

 透は、知らない。


 澪の胸の内で、何かが静かに軋んでいた。


 ――最悪のタイミング。


 血を採る直前。

 過去に触れられ、信頼を託される。


 それでも。


 澪は、断らなかった。


 断れなかった。


「じゃあ……今度の休み、行こう!」


 透の声は、どこまでも明るい。


「うん」


 澪は、短く答える。


 それが、どんな意味を持つか――

 自分が一番、分かっているのに。


 夕暮れの道を、二人は並んで歩く。


 過去と、現在と。

 そして、まだ知らない未来へ。


 逃げ道は、もう塞がれていた。




最後まで読んでくれてありがとうございます!!!

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