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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第2話:寄り道




 放課後のチャイムが鳴った瞬間、教室の空気がふっと軽くなる。

 椅子を引く音、鞄のファスナーの音、解放された笑い声。

 今日も、何も変わらない一日が終わろうとしていた。


「今日も一日お疲れさまでした〜」


 陽菜が大げさに伸びをする。

 私は鞄を肩にかけたところで、はっと顔を上げた。


「あ!!ちょっと待って!!」


「なに、忘れ物?」

「違う!今日!!今日だから!!」


 勢いよく振り返る私に、蒼真が怪訝そうな顔をする。


「今日が何?」

「〇〇先生の最新刊発売日!!」


 一瞬の沈黙。

 次の瞬間、私は両手を合わせ、深々と頭を下げた。


「お願い致しまする〜!!

 この透、どうしても本屋へ参りたく!!」


「は?」


 陽菜がきょとんとする。


「え〜、明日でよくない?」

「ならぬ!!本は発売日に買うからこそ意味があるのでござる!!」


 私は一歩前に出て、袖をつまむ。


「ひーな殿〜、どうかこの愚かな家臣をお救いくだされ〜」


「はいはい、始まった」


 蒼真が肩を揺らして笑う。


「透の必殺技。

 土下座未満・上目遣い・うるうる目」

「それ目薬だろ」

「黒瀬、黙って」


 私は畳みかける。


「褒美は出しまする!!

 チョコクレープアイス、二段重ねにて進呈致す!!」


 陽菜の目が、分かりやすく輝いた。


「……むむ」

「揺れてるな」

「揺れてる」


 陽菜は腕を組み、少し考える素振りをしてから、ふっと笑った。


「よかろう。

 本日はこの陽菜様が、寄り道を許可してやろうぞ」


「ありがたき幸せ!!!」


 私は大げさに頭を下げる。


「では、道中の甘味も忘れるでないぞ」

「ははぁ〜!!」


 くだらない。

 でも、どうしようもなく楽しい。


「まさか本一冊で殿様ごっこが始まるとはな」

「この殿様、甘党すぎだろ」

「世が世なら国が砂糖で滅ぶ」


「失礼な!!

 甘味は心を豊かにする文化であるぞ!!」

「それ文化じゃなくて脂肪な」


 夕方の空は、まだ明るかった。

 部活帰りの生徒、自転車のベル、コンビニの明かり。


 何度も通った帰り道なのに、今日は少しだけ違って見えた。


「ねえ、透」

「なんじゃ、陽菜殿」


 陽菜は笑いながら、少しだけ声を落とす。


「こういうのさ、ずっと続けばいいのにね」


「続くに決まっておろう」


 私は、何の疑いもなく言った。


「明日も、来週も、その先も。

 当たり前じゃ」


 誰も、否定しなかった。


 

 私たちはそのまま、

 いつもより一本奥の道へ曲がった。


 昼間は、あんなに晴れていたのに、街灯の下、アスファルトはうっすらと湿っていて、

 靴底が、ほんの少しだけ音を立てた。


 でも誰も、気に留めなかった。


 寄り道なんて、よくあることだ。

 帰りが少し遅くなるだけ。


 たった、それだけのこと。


 それが、

 取り返しのつかない分かれ道になるなんて。

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