第22話:守られる理由
朝の光が差し込む教室。
昨日のカラオケでの夜を引きずるように、透の胸は少しざわついていた。
――澪と、ちゃんと友達になれたのかもしれない。いや、もっと仲良くなりたい。
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その日の体育の授業。
透目掛けて、ボールが勢いよく飛んできた。
「……透、危ないっ!!!」
次の瞬間、透の肩に直撃するはずだったそのボールを、澪が咄嗟に庇った。
「っ……!」
鼻血が少し滲む。澪は咳き込みながらも、透を守る手を離さない。
「澪っ!? 大丈夫!?」
透は慌てて澪の顔を覗き込む。と、顔には痛々しい傷の跡。
その瞬間、真っ青になる透。
胸の奥には、罪悪感がギュッと詰まった。
「……大丈夫、ちょっとだけ」
クラスメイトの視線が集まる中、澪は平然と微笑む。
その笑顔に、透は心の奥が温かくなり、同時に胸が痛む。
ーー自分の所為で怪我をさせてしまった罪悪感。
でも、同時に信頼の芽も、少しずつ育っていた。
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調理実習の時間。
罪悪感を抱えたまま、透と澪は三角巾とエプロンを着け調理実習室へ向かう。
「私、実は料理....苦手なんだ」
だから洗い物担当ね!!!そう言って、澪は苦笑いする。
透は思わず呟く。
――一緒.......陽菜と........
料理が苦手だと言って陽菜は澪と同じように洗い物をしていた。
じんわりと胸を熱くしながら陽菜との思い出に浸って居た透。
すると突然
火がボォッと立ち上がる。
油に引火しかけたその瞬間、透の手元が危険に晒される。
「っ……透」
澪が咄嗟に身を乗り出し、火から透を庇った。
「熱っ……!」
軽く焼けどを負う澪の掌が赤く染まる。透は自分の不注意で澪を危険に晒してしまった自己嫌悪と罪悪感に胸が締めつけられる。
ぼんやりと、陽菜の事を思い出してた透の不注意が招いた結果だった。
「……ごめん……私が……」
「違う、違うよ!」
澪は軽く笑い、透を安心させるように手を振った。
その笑顔に、透の胸が温かくなる。
――この人は、自分を守ろうとしてくれた。
もう、単なる“転校生”じゃない。
「澪!!!私に、できる事ならなんでもするから....」
自然と言葉が出てしまった透に澪は一瞬考え視線を向け、にっこり笑った。
「じゃぁ......今日の放課後、付き合ってくれる?」
その言葉は予想外のモノだった。
透は瞳をパチクリさせる。
そんな透を見て澪は悪戯っ子のように笑う。
「なんでも、してくれるんでしょ?」
ニヤリと笑うその姿は陽菜とは全く似てなく、それでも透は「うん!!!」と勢い良く返事をしていた。
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その日の放課後・屋上
屋上に二つの影。
蒼真と黒瀬が少し離れた場所から見下ろしていた先は、仲良くはしゃぐ透と澪。
肩を寄せ、笑い合う姿は自然で、微笑ましい。
その姿を見ながら蒼真が黒瀬に声を掛ける
「なぁ、あれどう思う?」
「......」
黒瀬は無言。視線は二人に注がれたまま。
「俺さ、最初、透の血を狙うなんかだとか思ってたわ」
「.....」
「まぁ、すっげぇ怪しかったし、名前も朝霧って.....
もう黒だろって思ってたけど、あれは違うと思ってよくねぇか?」
蒼真がぽつり。
黒瀬は無言。
視線は二人に注がれたまま。
「なんか透がすっげぇ嬉しそうに今日は一緒に帰れねぇとか言いやがって....
あれ、見てたらやっぱ....陽菜と被るわ」
黒瀬は小さく頷き、黙って聞く。
「透、陽菜の名前、全然出さねぇし....」
その透が久しぶりに本当に楽しそうだと、蒼真は心の中で思う。
――陽菜の代わりじゃない。
でも、大切な人だ。とか思ってそうだ。
「陽菜の代わりに……いや、ごめん....なんでもない」
蒼真は呟き、黙る。
少しだけ、自分の胸のもやもやを澄ませたかったのだ。
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夜風が吹き、街灯に照らされる二人の笑顔。
透の隣にいる澪は、もう転校生ではなく、信頼できる友達になっていた。
黒瀬と蒼真の視線は、少し安心と、少しの警戒を残したまま、遠くから見守っている。




