第20話:この指とまれ
昼休みの教室は、いつもより少しだけ騒がしかった。
「ねぇ朝霧さん、前の学校どんなとこだったの?」
「部活とかやってた?」
澪の机の周りには、自然と人が集まっていた。
「……うん。普通の学校だよ」
「部活は、特に」
短い返事なのに、拒絶はない。
それが逆に、話しかけやすかった。
「クールだね〜」
「でも声かわいくない?」
澪は困ったように笑う。
それだけで、場の空気がふっと和らぐ。
少し離れた席から、透はその様子を眺めていた。
――溶けてる。
昨日まで“転校生”だったはずなのに、
もう、そこにいるのが当たり前みたいだった。
「朝霧、数学のプリントどこ?」
「……これ」
「ありがと!」
自然なやり取り。
誰も、何も疑わない。
透の胸の奥に、ほっとしたような感覚が広がる。
――よかった。
ちゃんと、馴染めてる。
その時だった。
「よぉぉぉし!!!」
教室の後ろから、やたらと通る声が響いた。
「朝霧歓迎会しよぉ!!!」
ざわっ、と空気が跳ねる。
「なにそれ!?」
「急すぎ!」
「いつも唐突〜!ブーブー」
当の本人は、机の上に立つ勢いで叫ぶ。
「うっせ〜強制じゃねぇ!!!
来れるやつだけ――この指と〜ま〜れ!!!」
片手を天井に突き上げる。
「俺ん家、カラオケはうす!!!
歌い放題だぁ!!!」
「うおおおお!!」
「マジかよ!」
「ちなみに!!!」
「飲み物!食い物!持参な!!!」
「そこは奢れよ!!」
「却下ぁ!!!」
教室が一気に笑いに包まれる。
澪は、その光景を少し驚いたように見ていた。
「……すごいね」
ぽつりと零れた言葉に、透が振り向く。
「うん。うちのクラス、基本うるさい」
「歓迎会とか、好きだよね」
「好きっていうか……理由作って集まりたいだけかな」
澪は、くすっと小さく笑った。
その笑顔に、透の胸がほんの少し温かくなる。
「朝霧も、来る?」
透がそう言った瞬間、
「あ、朝霧は当人だから強制参加な?」
どこからともなく声が飛ぶ。
「ちょっ!?」
透は慌てて振り向いた。
「強制はダメでしょ!
何か用事あるかもしれないのに……!」
必死に止める透に、澪は首を横に振った。
「大丈夫」
そう言って、澪は透を見る。
「……夏川さんも、来る?」
柔らかくて、少しだけ無防備な聞き方。
――その仕草が、あまりにも。
「っ……」
透は一瞬、言葉に詰まった。
――そんな顔で言われたら。
「……断れないよぉ……」
苦笑しながら、肩をすくめる。
「もちろん参加で!!!」
「よっしゃー!!」
「新メンバー確保!!」
また歓声が上がる。
誰も疑わない。
誰も、警戒しない。
朝霧澪は、
もう――“クラスの一員”だった。
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