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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第19話:腐れ縁のなり方






 転校初日、午前中。

透の胸の奥に残った、言葉に出来ないざわめきは、

まだ消えてはいなかった。


 担任が簡単な紹介を終えると、教室の視線が一斉に澪へ集まった。


「じゃあ今日は……えっと、夏川。学校案内を頼めるか?」


「え、私ですか?」


 透は一瞬きょとんとしたが、すぐに頷いた。


「だ、大丈夫です!」


 澪は隣の席から、静かに透を見上げる。


「よろしくね。夏川さん」


 柔らかな声。

 その瞬間、胸の奥が――僅かにざわついた。


 ――やっぱり、似てる。


 声の高さも、目の形も。

 理由は分からないのに、懐かしさだけが先に来る。


 廊下に出ると、背後から足音が増えた。


「……なぁ、その案内。俺も一緒に行く」


 蒼真が腕を組みながら当然のように言う。


「え!? なんで!?」


「転校生相手に一人は不安だろ」


「不安じゃないし!」


 さらに、その少し後ろ。

 黒瀬が無言で付いてきている。


「……もぉ! 私ちゃんと案内できるし!!!」


 透が振り返って抗議すると、澪が小さく首を傾げた。


「仲良いのね?」


「え? あー……」


 透は少し照れたように笑う。


「昔からの腐れ縁だから〜。へへっ」


 ――本当は、ここにもう一人いた。


 陽菜。

 何でもない会話の中心に、いつも自然に混ざっていた存在。


 そのことを思い出して、胸の奥がちくりと痛む。


 その時、後方からぼそっと声が落ちた。


「……方向音痴が?」


「ちょっと黒瀬!?」


 澪はくすりと笑う。


「賑やかでいいね」


 その笑顔を見て、透は何故か焦ったように澪の前に立ち、両手をぎゅっと握った。


「……澪とも、腐れ縁になれると嬉しい!!!」


 一瞬、空気が止まった。


「……」


 黒瀬が深くため息をつく。


「透。お前、腐れ縁の意味分かって言ってないだろ」


「え!? えぇ!? なんで!?」


「それ、普通に誤解招くぞ」


「辞書で調べろばぁか!!!」


 そのやり取りに、透は一瞬きょとんとして――

 次の瞬間、はっとした。


 ――あ。


 この感じ。


 陽菜がいた頃と、同じだ。


「透、それ普通に“仲良くしたくない”って言ってるようなもんだぞ」


 蒼真が小さく囁く。


「ち、違っ!!!」


 透は慌てて澪に向き直った。


「違うから!!! 澪っ!!! 私が言いたかったのは!!!」


 言葉を探して空回りする透。


「……っ」


 そして。


「ぷっ……ふふ……」


 澪が口元を押さえた。


「くく……あはは……!」


 透の必死な様子を見て、澪は笑った。


 それは、何の違和感もない笑顔だった。


 陽菜に似た笑い方。

 陽菜に似た目元。

 陽菜に似た声と、仕草。


 誰も、疑わない。


 澪は、仲良くなるために――

 あえて、ここで笑った。


 別に面白いわけでもない。

 本当に仲良くなりたいわけでもない。


 それはただ、

 任務のためだった。


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