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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第14話:知らされる日





透は窓際の席に座り、外の景色をぼんやり眺めていた。

冬の青空。冷たい空気が少し開いた窓から入り、髪を揺らす。肩先に、ひんやりとした感触が残る。


「……寒いなぁ」


心の中で呟く。

けれどそれ以上に、胸の奥に、何とも言えない違和感があった。

昨日まで、こんな感覚はなかったのに――。


そんな時、教室のドアがそっと開く音がした。

振り返ると、蒼真が入ってきていた。

その目は、いつも通りの軽やかさの裏に、何か緊張を隠しているようだった。


「あ〜蒼真! その顔は黒瀬と喧嘩したでしょ〜」


しょうがないなぁ、と透は苦笑する。

――実はここから見えてたんだけど。

そう思いながらも、それは言わなかった。


「もぉ〜、私が黒瀬に言ってあげるから仲直りしよぉ」


昔から変わらない屈託のない笑顔。

それを見て、蒼真の決心が一瞬、揺らぎそうになる。


「ん? どうしたの、蒼真。変な顔して〜」


蒼真は視線を彷徨わせ、一呼吸置いてから、ゆっくり口を開く。


「えっと……あの……その……」


言葉が、途中で切れる。


「いや、ちが……いや、なんでも……」


口を開いては閉じる。その動作を、何度も繰り返す。


透は首をかしげながらも、まだ笑っていた。

「ふふ、どうしたの? 今日は変だよ」


蒼真は深く息を吸い、もう一度、言葉を紡ごうとする。


「あ……あぁ……その……」


「ん?」


透が顔を覗き込む。

その距離の近さに、蒼真は思わず口をつぐんだ。

目の前にある温かな笑顔に、胸の奥がきゅっと締め付けられる。


――普通に生きていける。


黒瀬の言葉が、脳裏をよぎる。


そんな蒼真の様子に、透の心も、少しざわついた。


それでも蒼真は意を決し、真剣な眼差しで透を見つめる。

一つ一つ、子供に言い聞かせるように、ゆっくりと。


「透……」


「ん?」


慎重に、言葉を選びながら。


「あのな……」


「……」


「……聞いてほしい」


「うん、聞いてる」


「……透の血なんだけど」


「……」


「特別なんだ……俺も、黒瀬も知ってる」


「……ふふ……何、それ……意味、わかんない……」


引きつりそうになる頬に、笑え、と自分に言い聞かせる。


「ほんと……意味、わかんない……」


「透っ!!」


その瞬間、不意に胸の奥へ、ほんのりと温かさが流れ込んだ。

体が軽くなるような感覚。

それなのに、違和感だけが、はっきりと残る。


次の瞬間、記憶が弾けた。


――陽菜が倒れた日。


青空の下、耳を裂く叫び声。

時間が止まったように感じた、あの瞬間。

胸を貫く痛み。伸ばした手が、届かなかった現実。


そして、重なるように思い出す。


あの日、助けた犬。

血まみれで倒れていたのに、少しずつ体を起こし、四本の脚で立ち上がり、闇の中へ消えていった姿。


透の目に、涙が滲む。

胸の奥には、まだ、あの温かさが残っていた。


「……私……人間じゃないの……?」


小さな声が、凍った教室の空気に溶ける。

自分でも驚くほど、震えていた。


窓の外の青空は、何も変わらない。

けれど透の胸の中では、何か大きな扉が、確かに開いていた。


蒼真は黙ったまま、透の顔を見つめている。


言葉は、もう必要なかった。

ただ、そこにいることだけで、十分だった。



教室の入口に、いつからいたのか分からない影があった。


黒瀬だった。


扉に背を預け、腕を組んだまま、何も言わずにこちらを見ている。

その視線は冷静で――それでも、透から逸れることはなかった。


蒼真は気づき、息を呑む。

透は、まだ気づかない。


黒瀬は何も言わない。

ただ、そこに立っているだけだった。


――もう、戻れない。

そう告げるように。


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