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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第63話:踏み抜いた先の線で

蒼真の手の中で、透の指が滑った。


「っ……待て、透……!」


強く引く。


引き戻す。


それでも——止まらない。


腕に力を込める。


関節が軋む。


それでも、透の身体は前に進み続ける。


まるで、


見えない何かに引かれているみたいに。


「ふざけんな……!」


歯を食いしばる。


足を踏ん張る。


だが、その抵抗すら意味をなさない。


ずるり、と。


透の手が、指先から抜け落ちた。


「……っ!」


「とー?」


アリアも、必死に手を伸ばした。



その瞳は涙で潤み、透も指を伸ばす。だが——あと一歩、届かない。



「ふっぎゃぁ!」


 


次の瞬間、アリアは泣き出した。


アリアを宥めながら、蒼真は透の後を追う。



「透!!」


 


叫ぶ。


 


届かない。


 


透の背中は、そのまま人混みの中へと吸い込まれていく。


 


「くそっ……どけっ!」


 


肩で人を押しのける。


ぶつかる。


舌打ちされる。


それでも構わない。


 


「通してくれっ……!」


 


必死に前へ出る。


 


なのに——


 


「……なんでだよ……」


 


透だけが、異様だった。


 


誰にも、ぶつからない。


 


自然に、人が避けていく。


 


まるで最初から、


そこに“触れてはいけないもの”があるみたいに。


 


「……は……?」


 


理解が追いつかない。


 


だが、違和感だけは確信に変わっていく。


 


これは——


 


ただの異常じゃない。


 


「……能力……か……?」


 


その瞬間、


透の姿が、人混みの奥でわずかに揺れた。


 


細い、暗い通路。



透は迷いなく足を踏み入れていく。


 


「待て……っ!」


 


反射的に手を伸ばす。


 


届かない。


 


距離が、離れる。


 


「透!!」


 


迷う暇なんて、なかった。


 


蒼真は人混みを押しのけ、


そのまま——


 


暗い通路へと、踏み込んだ。


 


 


——空気が、変わる。


 


 


一歩入った瞬間、


外の喧騒が嘘みたいに消えた。


 


静かすぎる。


 


耳鳴りがするほどに。


 アリアがエグエグと泣きながら、辺りを見渡す。


透を探して必死で呼ぶ。


「……とー?」


「……なんだよ、ここ……」


 そして


 


奥に、二つの影が見えた。


 


透と——


 


もう一人。


 


前髪で目を隠した、小柄な少年。


 アリアも気付いたのか、大きな声で透に呼び掛ける。



「とー!」


「蒼真、アリア?」


「抱っこぉ」


「あぁ抱っこして貰おうな?」


「……うん!」


透を発見し、少し機嫌がもどったアリアは、蒼真の腕の中で、降りたいと胸を叩く。


だけど、降ろして大丈夫なのか分からない。


危険はないのか——判断できない。



「お、おいかけて来た……」


肩を震わせながら、男が指を組む。


「こ、困る」


そして、透へと手を伸ばす。

 


「……おい」


 


低く、声が漏れる。


 


男の動きが、一瞬止まった。


 


ゆっくりと、


こちらを見る。


 「透こっちに来い」


透に向かい声を投げかけるも、透は顔を振る。


「無理だよ……



足が動かないっ」



泣きそうな目をして透が上半身だけ動かす。


男は相変わらず怯えたまま、視線を彷徨わせ、呟く。


 「む、無駄だよ。」


そう言いながら、その手がまた動き出す。


 


「……やめろ」


 


一歩、踏み出す。


 


床に違和感。


 


視線を落とす。


 


何もないはずの床に、“線”が見えた気がした。



——違う。ある。



点と点を繋いだ、赤い線。


不自然な模様が、脈打つように点滅している。


 


「……っ」


 背筋が冷える。



理解する。


 


透は——


 


これに、動かされてる。


 


「やめろって言ってんだろ!!」


 


怒鳴る。


 


一気に距離を詰める。


 


その瞬間——


 


男が、震えながら口を開いた。


 


「……ご、ごめ……」


 


か細い声。


 


今にも泣き出しそうな顔。


 


だけど。


 


「……やらないと……」


 


手が、伸びる。


 


透へ。


 

蒼真の声とアリアの声が重なり響き渡る。


「っ——させるかよ!!」


「とぉ〜!」


蒼真が踏み込む。


 


その一歩が、




——“線”を、踏み抜いた。



バチン、と。


何かが弾けた。


「……っ!?」


空気が、歪む。


足元の赤い線が、一瞬だけ乱れた。



——だが、消えない。


 ズキン、と。


足の裏に、焼けるような、嫌な痛みが走った。


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