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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第57話:中にいるもの



肺が焼けるように痛い。


 浅い呼吸を何度も繰り返しながら、俺は公園のベンチに崩れ落ちた。


「はぁ……はぁ……チッ、なんだよこの身体……」


 細い腕。頼りない脚。

 少し走っただけでこの有様だ。


「使えねぇ……ほんと、ボロいな」


 舌打ちをひとつ。


 視線を落とせば、白く整った指先。

 鏡がなくても分かる。顔も整っているのだろう。


「……まぁ、見た目は悪くねぇのか?」


 口角が歪む。


 ――C型。


 だからこそ、捨てるには惜しい。


 でなければ、とっくに壊して次に乗り換えている。


「けどなぁ……この燃費の悪さはいただけねぇ」


 小さく笑い、背もたれに体を預ける。


 その時だった。


 視界の端に、ひとりの男が映る。


 スマホを見ながら、間抜け面で歩いている中年男。


 一瞬の沈黙。


 次の瞬間、口元が吊り上がった。


「……獲物、はっけーん」


 立ち上がる。ふらつく足取りを、あえて弱々しく見せる。


 距離を詰めて、声をかけた。


「あの〜、すみません……ちょっとお尋ねしてもいいですか?」


 にこり、と笑う。


(いいねぇ、この顔)


 男の視線が一瞬で変わる。

 分かりやすく、頬が緩んだ。


(うわ、気持ち悪ぃな)


 内心で吐き捨てながら、さらに一歩距離を詰める。


「道に迷っちゃって……よかったら、少しだけ付き合ってもらえませんか?」


 男は二つ返事だった。


 ――ほんと、簡単だ。



 薄暗いホテルの一室。


 淡いオレンジと紫が混じった光が空間を包む。


 存在感を主張する大きなベッドの上には、動かなくなった男の身体。


「……ほんと、バカみたいに引っかかるな」


 俺は鏡の前に立ち、軽く髪をかき上げた。


 映るのは、整った顔立ちの少女。


「やっぱ顔はいいな、この身体」


 くく、と喉の奥で笑う。


 振り返り、ベッドの上の死体を見る。


「ほんと分かりやすいよな、男って」


 しゃがみ込み、ポケットを漁る。


 財布を抜き取り、中身を確認する。


「……チッ、しけてやがる」


 紙幣はわずか。

 免許証と家族写真が目に入る。


「……へぇ、妻子持ちか」


 一瞬、静寂。


「娘と同じくらいのガキに引っかかるとか……」


 小さく鼻で笑った。


「やっぱ殺して正解だったな」


 財布を放り、再び鏡へと視線を戻す。


 その顔は、やはりどこまでも“綺麗”だった。


 


 ――その時。


 ふと、脳裏に蘇る。


 


 あの瞬間。


 


 建物を出て、角を曲がった直後。


 


 ――声がした。


 


「――それは、返してもらおうか」


 


 振り返る間もなかった。


 次の瞬間、意識が落ちた。


 


「……チッ」


 舌打ちが漏れる。


 目を覚ました時には、奪ったはずの財布が消えていた。


「誰だ……あれ」


 あの二人じゃない。



 “あれ”は、明らかに別格だった。


 


「……面倒なのに目ぇつけられたな」


 小さく笑う。


 だが、その目は笑っていない。


 そして、この身体に入る前に出会った一人の人物を思い出す。


「アイツ……と同格の匂いがした」


思い出す度、段々と怒りが込み上がる。



「もう少しで死ぬとこだった……あの野郎……くそっ



あんなに良くしたのに……



やっぱ最初に殺しとけば良かった」


 

本当に死ぬ所だった。



 事実だ。


 ほんの一瞬、あのまま終わっていてもおかしくなかった。


 


「……やっぱ、殺すか」


 


 鏡の中の自分に向かって呟く。


 


「でも、あいつの能力……厄介だな」


 


 考える。


 どう殺すか。


 


 そして――


 


「あぁ、そうだ」


 


 ふと思い出したように、口角が上がる。


 


「……一匹、いいのがいたな」


 


 誰かの顔が脳裏をよぎる。


 


「俺の力と、あいつの力……組み合わせりゃ――」


 


 言葉は、そこで止まる。


 


 にやり、と笑った。


 


「面白くなりそうだ」


 


 舌で唇をなぞる。


 


「……ゼロ」


 


 低く、名を呼ぶ。


 


「待ってろよ」


 


 その声には、はっきりとした殺意が滲んでいた。


 


 ドアノブに手をかける。


 


 外は夜。


 


 狩りの時間は、まだ終わらない。


 


「さて……」


 


 小さく息を吐き、


 


「次は――どれにすっかな」


 


 扉が、静かに閉まった。


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