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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第54話:二十五歳の壁





扉が静かに閉まった。


蒼真と透の足音が、廊下の向こうへ遠ざかっていく。


部屋に残されたのは二人だけだった。


黒瀬と——父。


 


黒瀬はゆっくりと拳を握る。


視線は父から外さない。


 


「……殴るのかな?まぁ、簡単に殴られはしないけど」


 


父は軽く肩をすくめた。


 


「まぁ、1回くらいなら構わないよ。


ただ、話を聞いた後でも遅くはないと思うけど?」


 


黒瀬の眉がぴくりと動く。


 

「何から話そうか?研究の事となるとワクワクする」


「回りくどい」


 


低い声。


 


「要点だけ話せ」


 


父は楽しそうに小さく笑った。


 


「そう急ぐな」


 


机の端に腰を預け、腕を組む。


 


「C型という呼び方が定着したのは最近だ。


だが……まぁ、我々の研究者の間では前から知られていた」


 


黒瀬の視線が鋭くなる。


 


父は続ける。


 


「この研究には、ある人物も関わっている」


 


一拍。


 


「アリアの父親だ」


 


黒瀬の表情がわずかに変わる。


 


「彼はC型研究の第一人者でね」


「大学時代の同期なんだ」


 


父は懐かしむように目を細めた。


 


「最近また共同研究を始めた」


 


黒瀬は舌打ちする。


 


「……それが何だ」


 


父は少しだけ口角を上げた。


 


「今確認されているC型は七人」


 


静かな声だった。


 


「もちろん世界にはまだ居るかもしれない」


 


「あるいは、もう死んでいるかもしれない」


 


黒瀬の胸の奥に、妙なざわめきが生まれる。


 


父は楽しそうに続けた。


 


「C型には興味深い共通点がある」


 


黒瀬は睨みつけた。


 


「……なんだ」


 


父は少しだけ首を傾ける。


 


そして、まるで世間話でもするように言った。


 


「短命なんだ」


 


空気が止まった。


 


黒瀬の思考が一瞬、止まる。


 


父は淡々と続けた。


 


「二十五歳を超えた例は


 


記録上、確認されていない」


 


黒瀬の顔色が変わる。


 


「……は?」


 


父は小さく笑った。


 



「気が狂って死ぬ者もいる。



ある日突然、心臓が止まる者もいる。



死に方は様々で、原因もまだ不明だ。」


 


黒瀬の拳が震えた。


 


父は楽しそうに言う。


 


「特別な血を持った者の宿命というやつかな




「可哀想だよね。個人の代償もある。しかも短命だ。


……実に可哀想だ」


 


 


透の顔が頭に浮かぶ。


 


いつも平然としていて。


 


何でもないように笑っていて。


 


 


——短命。


 


その言葉が頭の中で何度も反響する。


 


 


父は続けた。


 


「だから彼女は貴重なんだ。研究材料としてね」


 


黒瀬の視線が鋭くなる。


 


父は笑った。


 


「夏川透


 


彼女のおかげで研究は大きく進んだ」


 


黒瀬の拳がさらに強く握られる。


 


父は楽しそうに言った。


 


「だから、もう解放してあげてもいい」


 


 


黒瀬の目が細くなる。


 


「……何?」


 


 


父は肩をすくめた。


 


「研究対象としての保護を外す


 


 


つまり——自由だ」


 


 


黒瀬は黙ったまま父を見つめる。


 


 


父は、ふっと笑った。


 


 


「まぁ


 


 


それと同時に


 


 


保護も無くなるけどね」


 


 


黒瀬の眉が動く。


 


 


父は静かに言った。


 


 


「君たちに


 


 


彼女を守れるかな?


 


残り時間がどれだけあるか分からないが」


 


沈黙。


 


 


黒瀬は何も言わなかった。


 


 


ただ父を睨みつける。


 


 


そして——


 


踵を返した。


 


 


扉を開ける。


 


 


廊下の光が差し込む。


 


 


そのまま部屋を出る。


 


 


蒼真と透が待っていた。


 


 


蒼真が声をかける。


 


 


「黒瀬?」


 


 


黒瀬は答えない。


 


 


顔色が、青白い。


 


 


透が不思議そうに眉をひそめた。


 


 


「……何言われたんだ?」


 


 


黒瀬は一瞬だけ透を見る。


 


 


その瞬間。


 


 


父の言葉が頭の中で響く。


 


 


——二十五歳を超えた例は確認されていない。


 


 


黒瀬は視線を逸らした。


 


 


「……別に」


 


 


低く呟く。


 


 


「くだらねぇ研究の話だ」


 


 


透は少しだけ首を傾げたが、それ以上は聞かなかった。


 


 


黒瀬は拳を握る。


 


 


誰にも気づかれないように。


 


 


強く。


 


 


爪が手のひらに食い込む。


 


 


——言えない。


 


 


そんなこと。


 


 


透には。


 


 


絶対に。


 


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