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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第44話:泣かない子には、絶対させない。







「ふっぎゃぁぁぁ!」


泣く姿は小さな怪獣みたいだった。


狭い車内に反響する声。


まさに泣きっ面に蜂だ。


あやす傍からアリアは顔を真っ赤にして泣きわめく。


あの後車に乗り込んで出発したところまでは良かった。


だけど、その15分後


事態は思わぬ方向へ進んでいた。


泣く子はよく育つと言うが、その言葉を信じたくなるほどの泣きっぷりだった。


「ちょっと透さん、私があやします」


そう言ってアリアをその腕で抱き締めるエリス



だが、それがいけなかった。



「ふっぎゃぁぁぁ!!!うわぁぁぁんわぁん!」


さらに声を張り上げ、いっそう激しく泣き始めるアリア


キーンと鼓膜が振動し、エリスの鉄壁の顔面も崩壊寸前


以前、アリアを幼少期から育てたと言っていた。


だから赤子の世話には慣れているはずなのに――


それなのに


アリアは身体全体を使って拒絶反応を見せる。


海老反りしながら顔を真っ赤に染め


小さな手を透に向け伸ばす。



とうとう、お手上げ状態で車が停止するまで時間は掛からなかった。


透はアリアを抱き締めたまま、車の周りをウロウロする。


「よしよ〜し、どうちたのかなぁ?」


自分の言葉が幼児語になってる事にも気付かずアリアの背中をトントンと優しく叩く。


そのおかげか、少し落ち着いたアリアは指を咥えたまま透の顔を見つめる。


そんな2人を見ながらエリスは、口元の形だけを整えた。


「……私との時間は、無意味だったようですね」


その顔は、寸分の狂いもなかった。


「私がお育てした時はとてもいい子で、困らせる事など皆無でしたのに……」


「赤ちゃんは泣くのが仕事です」


これは以前、保育士をしてた母親の言葉だ。


「泣くのが仕事?ふっ、アリアには当てはまりませんね」


「……そんな筈……」


「ない」と言いたかった。


だけど――


エリスに育てられた以前のアリアなら、想像出来てしまう。


窓一つ無い部屋のベビーベッド。


寝かされたまま、いつしか泣くことに疲れ、泣かなくなったアリア。


抱き締められることもなく、


ただ静かに成長していくアリア。


小さなアリアが、ベビーベッドに捕まり立ちしながら、

誰も居ない部屋で、ぽつんとドアを見つめている姿。



扉が開くたびに喜ぶ姿を想像し、透は思わずアリアを抱き締めた。



「透さんも、いずれ分かりますよ。“静かな子”がどれほど楽か、じきに実感するでしょう」



そんな実感などしたくない、と唇を噛み締める。


「あぁ、でも本当に嫉妬します。私がお育てしましたのに……簡単に忘れるなんて、薄情ですね」


透さんも、そう思いませんか?



形だけの笑み。

それは、笑顔と言うより、


人の顔の形をした、何か。




透は、改めて思う。


この人達には、渡せない。


渡してはいけない。


だが、知識も経験もない。



赤ちゃんに触れる機会など、ほとんど無かった。

何が正解なのかも、何が必要なのかも分からない。


そう考え、ふと思う。


必要なもの……



もしかしてお腹すいてる?



だからさっき、あんなに泣いた?お腹すいたって言って……


ミルクってどうやって作る?水?他に何か入れる?



他にも何かあるはずだ。



その予想は、当たっていた。



少し時間はかかったが、両手に大量の荷物を持ち、透はふぅ〜と息を吐き出す。




あの後、車はすぐに方向を変えた。



大型スーパーで買えるものを、ありったけ買い、車に乗り込んだのは、墓地を出発して2時間後の事だった。


何が必要かも分からないまま、必死に目に付いた物を片端からカゴに放り込んだ透。



エリスは、必要な物を知っているはずなのに、口を開かなかった。





今、アリアは哺乳瓶を咥え、小さく喉を鳴らしながら満足そうに目を細めている。



本当に、腹が空いていただけだった。



透はポチポチとスマホを操作し、アリアを肩に抱き直す。


そしてトントンと背中を叩きながら小さな声で呟く。


「背中を叩いてゲップを出す……これで合ってるかな……」



そんな透をエリスは黙って見つめる。



そうこうするうちに、車は目的地へと滑り込んだ。



「……着きました」


透は大きな鞄を肩に掛け、アリアをもう片手に抱き締め、



一歩、踏み出す。





――泣かない子には、絶対させない。








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