表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

120/140

第41話:世界を敵に回す覚悟





夜は静かだった。


あれだけ世界が軋んだのに、

何も起きなかったみたいに静かだった。


透は、小さな体を抱いて歩く。


その顔は涙でグチャグチャだった


だけど、声を出しては居なかった


とても静かな泣き顔


軽い存在をその胸に抱き


その存在が、とても重く感じる透


さっきまで自分と同じ目線で、

自分よりずっと遠いところを見ていた少女が、


今は腕の中で、自分の事を不思議そうに見上げる


その顔を見るだけで涙が混み上がってくる。


血の匂いがまだ肩に残っている。


けれど痛みは感じない。


感じる余裕がない。


『……ちゃんと、生きてね』


あの言葉が、耳から離れない。


透は立ち止まる。


街灯の下。


自分の影に重なるように小さな影が重なる


ひとつは、自分。


ひとつは——どこで間違ったのか幼くなったアリア


「……私、間違ってしまった?」



ここに連れて来ない方が良かった?


それとも最初から間違えてた?


問いは、誰にも届かない。


アリアの小さな手が、

無意識に透の服を掴む。


きゅ、と。


その弱さが、重い。


透の喉が震える。


「私の……馬鹿」


涙が、落ちる。


「止められなかった.....凄く会いたいって.....私の声も届かなかった」



アリアはきっと分かってた


どうなるか


それでも母に会いたくて


世界に抵抗して


死を無かったことにしたかった。


そして代償を払った。


透はぎゅっと抱き直す。


私には何も出来なかった。


いや、させて貰えなかった。


なら、出来ないことはするべきじゃない?


もう何もしない方が良い?


陽菜も、澪も.....アリアも


みんな救えなかった。


誰も救えない。


それなら一層の事


最初から救わない方が良い


でも。


目の前のこの子だけは。


「……もう、使わせない」


能力も。


選択も。


絶望も。


「私が全部、持つ」


それは宣言じゃない。


呪いみたいな誓い。


そう誓ったその瞬間


月が雲に隠れ、辺りが一段と漆黒に包まれ静寂する中


砂利を踏む音が響き渡る。


規則的な、迷いのない足取り。


そして、雲から月が顔を出したその時、大きな影がその姿を表す。


「やぁ、透」


穏やかな声。


場違いなほど柔らかい声だった。


「故人との話しは終わったみたいだね?」


透の指が、わずかに強く幼子を抱きしめる。


ゆっくり顔を上げる。


そこに立っていたのは——

黒瀬父。


夜に溶ける黒いコート。


黒い目の奥で、すべてを見透かすような光。


その一歩後ろ。


無言で立つ幼馴染達


「黒瀬.....蒼真......」


そして、視線を逸らせないまま2人は透を見つめる


透は静かに黒瀬父ーーー黒瀬和久に視線を向ける


「……知ってた……んですね」


責めるでもない。


怒りでもない。


ただ確認。


黒瀬父は小さく笑う。


「もちろん」


即答。


「君がここに来ることも


彼女が願うことも


そして——叶わないことも


全部知ってた」


透の瞳が冷える。


「……何か方法はなかったんですか?」


「う〜ん、そうだね......止める事も出来たし、傷つかないようにする事も出来ただろうね」


あっさり認める。


「なら何故っ......」


そうしなかったと声には出来なかった。


夜風が吹く。


「あぁ、誤解しないで欲しいんだけど、これはその子の父親も知ってる事だよ」


幼子が小さく身じろぐ。


黒瀬父の視線が、その小さな存在に落ちる。


興味深そうに。


「へぇ〜やっぱり思考の退行だけじゃなかったか


身体まで持っていくとは……実に興味深い」


透の足元の砂利が、わずかに軋む。


「見るな」


低い声。


今までにない温度。


黒瀬父は肩をすくめる。


「怒らないでくれ。観察は我々の仕事だ」


蒼真が一歩出かける。


けれど黒瀬が腕を掴んで止める。


静かな制止。


透はまっすぐ黒瀬父を見る。


「……最初から、こうなるって分かってて


私に、連れて来させたんですか」


黒瀬父は少しだけ考えるふりをして、


微笑む。


「嫌な役をやらせたね」


その言葉が、重い。


「能力とは常に選択が付きまとうものだ


代償もまた、必然だ


だけど、これで証明された


透、君も......もう分かってるだろ?」


透の声が震える。


怒りじゃない。


理解してしまう震え。


「……分かりません」


「いいや、分かってる筈だ」


即答。


「彼女はもうボロボロだったろ?もう能力も使えなかった。だけど見てご覧?今はこんなに幼い......これがどう言う意味か.....」


「......嫌っ」


一歩、距離を詰める。


「嫌?おかしな事を言う」


透の呼吸が止まる。


「ここからまた始まる」


黒瀬父は、幼子を見る。


そして微笑む。


「彼女はまた使えるように成長する」


最悪の答え。


透の腕の中の存在が、ただの幼子ではなくなる瞬間。


「返してもらうよ」


静かに告げる。


「その子は、こちらで管理する」


空気が変わる。


透の赤い瞳が、わずかに光を帯びる。


「……嫌です」


即答。


黒瀬が目を見開く。


蒼真が息を呑む。


黒瀬父だけが、面白そうに笑う。


「ほう?」


透は一歩下がる。


守る姿勢。


小さな体を隠すように。


「この子はもう、あなた達の観測対象じゃない」


声が震えている。


でも逃げない。


「私が持つって、決めました」


沈黙。


長い、数秒。


やがて黒瀬父は、ゆっくり目を細める。


「……それはどう言う意味かな?」


透は答えない。


ただ、これだけはわかる


彼女を渡してはいけない。


月が反射し透の眼が光を帯びる。


墓石の影が伸びる。


「いいだろう」


黒瀬父は踵を返す。


「実に面白い」


数歩進み、振り向かずに続ける。


「だが覚えておきなさい、透


君たちC型の血は——世界を歪める


決して放置は出来ない存在なんだよ?」


歩き出す黒瀬父。


その後に黒瀬と蒼真も続く。


「守ると言うなら、世界ごと敵に回す覚悟をしなさい」


去り際、蒼真が一瞬だけ透を見る。


言葉はない。


でも、その目は揺れている。


やがて足音が消える。


静寂。


透はその場に立ち尽くす。


腕の中の幼子が、眠ったまま小さく息を立てる。


透は額を寄せる。


「……絶対、渡さない」


それは誓い。


誰も救わないと決めた少女が、


初めて“守る”と決めた瞬間だった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ