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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第37話:守るための裏切り





夜は一瞬でやって来た。


さっきまで赤く滲んでいた空が、墨を流したように黒へと沈む。街灯がひとつ、またひとつと白く灯り始める。


「こっちだ!」


黒瀬が角を曲がる。


蒼真が舌打ちしながら続いた。


背後でコンクリートが砕ける音が響く。重い足音。一定のリズム。迷いのない追跡。


逃げる途中で人数は確認している。


大半は透側へ向かった。


本命は透。


自分たちは陽動。


分断。


合流させない為の壁。


「チッ……」


蒼真の舌打ちと、黒瀬のそれが重なる。


「なんでお前がこっちに居る」


「それはこっちの台詞だ! どっちかが透に付くべきだっただろ……っ」


息が荒い。


「仲良くお前と逃げるとか最悪なんだよ!」


敵の思う壺じゃねぇか。


二人は同時にスマホを取り出す。


圏外。


黒瀬の専用回線も沈黙。


「……妨害だな」


低い声。


蒼真の顔色が変わる。


「どこだ。どこが動いてる」


黒瀬は一瞬、蒼真を見る。


そして小さく息を吐いた。


「今のため息はなんだよ」


「敵の見当はつく。だが言って、お前が理解出来るか?」


「バカにすんな」


段差を飛び越えながら蒼真が睨む。


黒瀬は前を向いたまま言った。


「そもそも」


「なんだよ! 俺には言わねぇつもりか?」


風を裂く怒声。


黒瀬の声は冷えている。


「お前も、俺に言ってないことがあるだろ」


その瞬間。


蒼真の足が、わずかに鈍った。


黒瀬は見逃さない。


「俺が知らないとでも思ったか?」


沈黙。


それが答えだった。


蒼真の顔が歪む。


「仕方なかったんだ……」


掠れた声。


黒瀬が低く言う。


「......仕方ない.....か」


「俺は何も知らないガキだった。だが、お前は違うだろ」


蒼真は言い返しかけた。


——お前もだろ。


——俺も全部知ってる。


その言葉に黒瀬は言い返せなかった。


互いに知っている。


互いに隠している。


同じ穴の狢。


だからアリアは笑ったのだ。


――嘘つきばっか。


黒瀬が吐き出す。


「最初、透が苦手だったな」


蒼真の瞳が揺れる。


「嫌いだった、の方が正しいか?」


その言葉に蒼真が掴みかかろうとした瞬間、背後の壁が爆ぜた。


二人は同時に飛び退く。


瓦礫が降る。


鼓動が耳の奥で暴れる。


「お前に何がわかる!」


蒼真の叫びが夜を裂いた。


「仲良くなれって急かされる気持ちがわかるか!? 俺、五歳だぞ!? 何も分かってねぇガキだったんだ!」


声が震える。


怒りだけじゃない。


恐怖が混ざっている。


「そうしないと……」


言葉が切れる。


蒼真は歯を食いしばる。


「……あの時、俺は選べなかった」


走りながら蒼真は黒瀬を見つめる



「だけど、お前は選んだ結果だろ?」


その言葉に返すように黒瀬が続ける。


「俺は守れると思っていた。

透に知られずに、全部終わらせられると」


「だから売ったのかよ」


「売ってない」


即答。


「条件を付けた」


「条件?」


「透を守る代わりに差し出せるものなんて一つだ」


蒼真の顔が凍る。


「結果はどうだ」


返す言葉がない。


また背後で衝撃。


「まじしつけぇな」


二人は坂を駆け上がる。


息が焼ける。


喉が血の味になる。


蒼真が笑う。


壊れたような、乾いた笑い。


「笑えねぇな」


黒瀬も薄く笑う。


「透は気づいたかな」


雑音の中、不思議と互いの声だけは届く。


「どっちにしてもアリアが言うだろ」


「……あの猿女」


本気でやり直したい、という響きが滲む。


蒼真が言う。


「俺が言ってやろうか? ガキの頃から監視してましたって」


風が強く吹き抜ける。


「なら俺もチクる」


黒瀬が苦く笑う。


「残念。透は知ってる」


「……は?」


「気づいてる。でも言わない。俺が自分で言うのを待ってる」


黒瀬の表情が崩れる。


泣きそうな顔。


「なんだよ、それ……」


沈黙。


やがて蒼真が呟く。


「……透ってバカだよな」


「……あぁ」


だけど。


そのバカさに、何度も救われた。


「最初は報告だけだった」


蒼真の声が低くなる。


「それが監視に変わった。能力の兆候、体調、小さな変化まで全部言えって。まじなんだよって.....」


拳が白くなる。


「で、途中でやめた」


「情が移ったか」


「うるせぇ」


即答。


「最初は命令だった。でも今は違う」


その時。


地面が砕ける。


影が迫る。


「上だ!」


石段が見える。


暗い、長い階段。


人気のない高台。


門の影。


二人は駆け上がる。


鉄柵を押し開ける。


軋む音。


中へ飛び込む。


月明かり。


整然と並ぶ白い石。


刻まれた無数の名。


冷たい静寂。


蒼真が息を呑む。


「……ここは」


黒瀬が答える。


「アリアの目的地だ」


背後で影が門を越える。


その時――


聞き慣れた声が響いた。


二人の足が止まる。


「はぁ〜危なかったねぇ」


視線の先。


少し離れた場所に透とアリア。


口を開きかけた瞬間、


「しっ……今、とってもいい所だから」


愉快そうな声。


黒瀬の目が細くなる。


「……クソ親父」




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