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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第34話:苺と覚悟





「で? 行こうかって言って、なぜ俺らは呑気に微睡んでる?」


 苺たっぷりのスフレパンケーキを頬張りながら、黒瀬が言う。


 真顔で。


「だな!? うぉ、黒瀬と苺たっぷりパンケーキ似合わねぇ!」


「だよね〜私もそれ思った! 真顔で食べる黒瀬はシュールだわ!」


 アリアがフォークで黒瀬を指す。


「馬鹿。口元見ろ? すこぉぉし緩んでるだろ? あれは満足してる顔だ」


「おぉ〜ほんとだ! 緩んでる!」


 透は三人を見て、小さく笑った。


「ま、まぁ……行く前に腹ごしらえ、も……いいかなぁって」


 チーズケーキを一口。


 甘さが、ゆっくり広がる。


「まぁ良いけど〜! あ! 蒼真のうんまそ! 貰いっ!」


「あ! この猿女! それは最後まで取っといた好物!」


「へへ〜ん! 大事なものは先に腹の中に納めるのが正義!」


「お前ら煩い。ちなみに俺の苺を取ったら代々まで呪う」


「こいつ目がマジだぞ!?」


「くっ……なんて恐ろしい目……! フォークがこれ以上進まないっ!美味しそうな苺が目の前にあるのにぃ! と、私少しお花摘みに行って来ますわ〜おほほ」


「ばぁか! 便所だろ!?」


「蒼真、後で殴る!」


 笑い声。


 甘い匂い。


 温かい空気。


 そして——


 アリアが席を立った瞬間。


 静寂が落ちた。


 さっきまでの喧騒が嘘のように。


 黒瀬がフォークを置く。


「で、透」


 声色が変わる。


「何か言いたいんだろ?」


 透の手が止まる。


「あ……やっぱバレちゃったか」


 苦笑い。


「アリアが行きたい場所には、必ず連れていく。それは決めてる」


 迷いはない。


「でもその前に……」


 視線が、空いた席に向く。


「なんていうか……楽しいことで、気持ちを埋めたいっていうか」


 言葉を探す。


「幸せな気持ちで、満たしてあげたいっていうか」


 沈黙。


「……ほら、場所が……あそこってことは」


 透は続けられなかった。


 あの場所に行く意味は1つしかない。


 そこに“行きたい”と言う理由。


 それが何を意味するか。


「そういう事だろ?」


 黒瀬が静かに言う。


 蒼真は何も言わない。


 ただ、透を見る。


 透は俯いたまま、小さく笑う。


「少しでも、今日が楽しかったって思えたら……」


 言葉が揺れる。


「あの場所には、それから行った方が、いいかなって」


 優しすぎる。


 黒瀬は目を閉じる。


「……お前は本当に」


 ため息。


「過保護だな」


「悪い?」


「いや」


 蒼真がぽつりと言う。


「……それが透だろ?」


 短い言葉。


 でも本音。


「ただな」


 黒瀬が低く言う。


「お前が全部背負うな」


 透が顔を上げる。


「俺らも居る」


 蒼真も頷く。


「……分かってる」


 でも。


 透の目は、どこか覚悟を宿している。


 アリアの足音が戻ってくる。


 空気がまた柔らかくなる。


「何よ暗い顔して! まさか私の悪口?」


「お前の大の話してた」


「蒼真、アンタは後で本気で殴る」


 笑い声が戻る。


 けれど。


 甘い時間は、もうすぐ終わる。


 透は思う。


 この時間を、覚えていてほしい。


 この甘さを。


 この温度を。


 ——あの場所に行く前に。


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