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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第33話:嵐の前の約束





 ピンポーン。


 自動ドアの軽い電子音と同時に、店内の空気が一瞬ざわついた。


「何であんたらが居るのよ! 私は透と約束してるんだから!」


 入口から響く声。


 透は思わず額に手を当てた。


 来た。


「だから、それに俺らも付いて行くって言っただろ! わからず屋!」


「2人とも煩い」


 低い声が割って入る。


 ギャアギャア言い合いながら、3人がファミレスへ雪崩れ込んできた。


 近くの席の客がちらりと3人を見る。


「さ、3名様ご予約でしょうか……?」


 困惑気味の店員に、


「あぁ、待ち合わせです」


 黒瀬が穏やかに微笑む。


「だから! 俺ら込みじゃねぇと許さん!」


「へへん! 許さなくていいもんっ、ばーか!」


「この猿女! キーキーうっせぇ!」


「2人とも煩い。店の方が困惑する。少し黙れ」


「てめぇはなんで冷静なんだよ! 少しは俺の味方しろ!」


「俺はどっちの味方でもない」


 その瞬間。


 アリアが勝ち誇った顔をした。


「ほら見なさい」


「裏切り者!」


 蒼真が黒瀬を睨む。


「あぁ、すみません。気にしないでください。2人ともアホなんで」


 にこやかに言う黒瀬。


「そ、そうですか……」


 店員は完全に対応に困っていた。


 ――と。


「あ、いた!」


 アリアの視線が透を捉える。


「とおるぅぅ!」


「ちょ、走らない!」


 止める間もなく、アリアは一直線に駆け寄り、透の隣へ滑り込むように座った。ぴたりと腕にくっつく。


「透! あの二人追い払って〜!」


「追い返しません」


 即答。


「まず店内では走らない。それと騒がない」


「へっ、怒られてやんの」


「それと蒼真も」


「……はい」


 透の一言で、蒼真が素直に黙る。


「黒瀬も」


「俺は何も」


「煽らない」


「……了解」


 三人が揃って静かになる。


 店内がようやく平穏を取り戻した。


 蒼真がそっとアリアに耳打ちする。


「透をあんま怒らせるなよ? 滅多に怒らねぇけど、怒らせると厄介だ」


 一瞬だけ、蒼真の視線が透に向く。


 その目は、ほんの僅かに硬い。


 アリアはそれに気づいた。


 にやりとも笑わず、ただ小さく頷く。


(……やっぱり、データは書き直しね)


「なんか言った?」


「何も言ってない!」


 即答するアリア。


 透は少し怪しみつつも話を戻した。


「待ち合わせ場所変えたの、ちゃんと話したかったから」


 三人の視線が集まる。


「行く前に、約束してほしいことがある」


 アリアと蒼真が同時に「えー」と顔に出す。


「そこ! えーって顔しない!」


 二人が顔を見合わせる。


 妙に気が合っている。


 黒瀬が小さく息を吐いた。


「俺は問題ない」


「うん、黒瀬は安定の冷静。でも面白がってるでしょ?」


 黒瀬が一瞬だけ目を逸らす。


「なぜ分かったって顔しない! 何年幼馴染してると思ってるの」


 場の空気が少しだけ柔らぐ。


 けれど、透の目は真剣だった。


「喧嘩はしないこと」


 蒼真とアリアが同時に視線を逸らす。


「それともう一つ」


 透はアリアを見る。


「絶対に能力を使わないって約束して」


 空気が、わずかに変わる。


「何かあったら、遠慮せず私達を頼って」


 “私達”という言葉。


「それぞれ思うことはあると思う。でも今日は、私の言うことを聞いてほしい」


 静寂。


 アリアが黒瀬を見る。


 黒瀬は蒼真を見る。


 蒼真は、一瞬だけ視線を落とした。


「……わかった。気に入らねぇけど、俺は我慢する。言っとくけど俺はお前が嫌いだ。透が言うから仕方なくだ」


「あら奇遇ね? 私もアンタが嫌いよ? あ、透は大好きだけど」


「俺は大丈夫だろ……」


「「お前が一番信用ならねぇ」」


 蒼真とアリアの声が重なる。


 黒瀬の目が、蒼真を捉えた。


 お前に言われたくないとその表情が物語る。


 それを、横目にアリアが背もたれに寄りかかり、静かに言う。


「《《全員》》関係者なんだから、私の能力のことは知ってるわよね?」


 空気が止まる。


 “全員”。


 蒼真の指先が、わずかに強張った。


 黒瀬の視線が動く。


 透は気づかない。


「……当然だろ」


 蒼真は軽く笑う。


 ほんの少しだけ、作り物の笑み。


 黒瀬は何も言わない。


 ただ


 違和感を感じ取る。


 透はそんな空気に気づかず、小さく笑った。


「じゃあ、行こっか」


 嵐の前の、静かな決意。


 まだ誰も知らない。


 この日が、それぞれの立場を揺らす日になることを。

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