第27話:取引
父と話した後の行動は早かった。
彼が収容されている部屋は、私の部屋と変わらないくらい無機質だった。
白い壁。
強化ガラス。
床に固定された椅子。
そして――鎖。
扉を開けた瞬間だった。
ゼロの目の色が変わる。
「――ッ!!」
次の瞬間、彼は獣のように跳ねた。
手枷と足枷が激しく鳴り、鎖が限界まで引き伸ばされる。滴る血をものともせず飛び掛らんとするその姿
「mdisvbs!sn.o*nd!」
ガチャン、ガチャン。
彼からしたら私は、目と鼻の先にいる憎悪の対象。
国を滅ぼし、人々を残虐に殺した張本人。
――私が。
彼の友人も、知人も、家族も。
すべてを、たった一人の少女に奪われた存在。それが彼。
そして、彼だけが生き残った。
歯を食いしばり、殺意を隠そうともせず睨みつけてくる。
「そんなに睨みつけても無駄よ」
「naowny!? maipns?」
何を言っているのか、分からない。
通訳の男が、震える声で言葉を拾う。
「……彼は、“何しに来た”と聞いています」
「そう。父が、あなたの力を使いたがってるって伝えて」
通訳が言葉を返すと、彼は低く唸った。
――正直、面倒。
こんなやり取りをせずとも、力を使えば早い。
そう思わなかったわけじゃない。
でも父は、彼が自我を失うことなく、何かを聞き出したいらしい。
そのためには、彼の意識が必要だと。
(……彼の能力、聞いておけば良かった)
通訳の男が、ちらりと私を見る。
そして、口を閉ざした。
「何? 言いたいことがあるなら言いなさい」
青ざめた顔のまま、男はゆっくり口を開いた。
「……彼は、アナタの未来を予言すると彼は.....その、“見えた”と……」
「あなたはいずれ消える、と」
「それから……自分も死ぬ運命だと。この施設は、三日後には跡形もなく無くなると……」
ククク、と笑う彼。
通訳は、もう限界だった。
「わ、私は失礼します! 国に帰らせてください!」
逃げるように部屋を出ていく。
静寂。
「今さらね」
私が消えることなんて、知っている。
だから、動揺もしない。
「オ前ラ、全員イカれてル」
突然、片言の日本語。
驚いたけれど、顔には出さない。
「日本語、話せたのね」
「ダったら何だ。オ前らハ何も知らナイ」
「知らなくて結構よ」
私は微笑む。
「あなたが協力してくれれば、組織は助かる。私は、欲しいものを手に入れれる
拒否してもいいわ。その場合、力を使うだけ」
「アの男……俺に何をさせタイ?
情報か? 能力か? 二つ持ちの話か?どちらにしても話すつもりは無い」
簡単に口を割ると思うな、とでも言いたげな目。
私は、にこりと笑った。
「でもね。私には、それができるの」
指先にナイフを走らせる。
血。
彼が反射的に口元を覆うが、もう遅い。
「……話して。と、その前に――今まさに私達は監視されてるの....」
正直、邪魔なのよ―――。
そう言って監視カメラの配線を引き抜くアリア。
そして、盗聴マイクをコップに沈める。
「これでいいわ。扉のロックも書き換えた
もう誰も、簡単には入って来られない」
これは――保険。
父ほど信用ならない存在はいない。
「さぁ、まずは名前から」
「……俺の名前……」
ーーー
ーー
ー
「その話しは本当なの?」
「.....はい、神に誓って」
虚ろな目は血による洗脳が上手くいってる証
彼が語った情報は、私の想像を遥かに超えていた。
これを果たして父に話していいものか
父はこれが聞きたかったのね
だから彼を生かした。
でも、簡単に話せない。
話せる事と言えば
まず、彼の能力だが血を媒介に、自分を分散させる能力。だが、これは組織も把握してる事だろう。
「なら、なぜ今すぐ血を使わないの?」
彼の能力ならば簡単に脱出もできる事だろう
「……できない。何度も試した」
おそらく組織が何らかの方法で封じてるんだろうが私の知ったことではない。
「あぁ。だから、傷だらけなのね」
治りきらない傷跡が痛々しい。
「で、あなたは何体目?本体?コピー?」
私は彼がどちらでも構わなかった。
聞いた所で、状況は何も変わらないから。
「……分からない」
実に、父が欲しがりそうな能力。
その時。
コンコン。
ノック。
「……早いな」
私は彼を見る。
「ねぇ。アナタはどうしたい?」
「まだ生きたい?それとも死を望む?」
私なら、今すぐ解放できる。
彼の目に、わずかに光が戻る。
外が、騒がしくなる。
「アリア、開けなさい」
父の声。
「タイムリミットよ?今しか出来ない。どうする?」
私の言葉に彼は、迷わなかった。
ロックを解除した瞬間、彼は崩れ落ちる。
研究者たち。
そして、父。
慌てて入って来る
そして床でピクリとも動かなくなった彼に駆け寄っていく。
「アリア……これは許されない」
私は微笑む。
「私には、許されることよ。パパ?」
情報はすべて、私の中にある。
「取引しましょ?約束通り、地名を教えて」
担架で運ばれていく彼を見ながら、父が言う。
「なぜ、殺した?」
「それが、彼の願いだったから」




