第24話:もう、使えない
地下研究施設。
光の届かない白い部屋で、
アリアは一生懸命なにかを作ってた。
せっせと作ってたのはブロックで積み上げた城
「ねぇ、見てぇ!!!おしろ〜これはアリィのおしろなのぉ〜.....」
機嫌よく喋る姿は2、3歳児のよう
かと思えば急に黙り込み
「だぁ〜」
キョトンとしながらつい先程作ったばかりの城を壊しキャッキャッと笑う
「ぶぅ〜!」
そして両手をペタリと床に付け四足歩行
その姿はハイハイをする赤子
まさに異様。
と、思った次の瞬間
「うわぁぁぁん!アリィのおしろが壊れてる!だれが壊したの!?ぱぱぁ!」
――何も話せない赤子になったかと思えば2、3歳児になり、もはやアリア本人にも制御不能だった。
「……くそ」
低く、苛立った声が漏れる。
「何がダメなんだ……?」
白衣の男――アリアの父は、モニターを睨みつけていた。
「データは完璧だったろ……?
透の血も、条件も、投与量も……
それなのに何故戻らない?」
苛立ちが、声に滲む。
「……アリアに、約束したんだ」
大丈夫だ、と。
救える、と。
だが。
現実は残酷だった。
透の血を投与すれば、一時的に思考は16歳のアリア本人へと戻る。
目が合い、言葉を理解し、人格が、ほんの短時間だけ浮上する。
そして――
数時間も経たず
再び、幼児へ。
赤子へ。
それを、何度も。
何度も。
何度も。
繰り返した。
「……これじゃ……」
アリアの父は、唇を歪めた。
「もう、使えない」
その瞬間。
研究室の扉が、静かに開いた。
「上手くいってないみたいだねぇ〜」
柔らかい声。
振り返ると、そこに立っていたのは――
黒瀬一族当主、黒瀬和久の姿。
「……何の用だ」
アリアの父は、不機嫌そうに言った。
「今、構ってる余裕はない」
「へぇ〜」
当主は、楽しそうに笑う。
「君がそんな顔するの、珍しい
いつもの余裕な笑顔が見えない」
「ハッ……お前は相変わらずだな」
吐き捨てるように。
「娘が、あの状態なんだ」
チラリと泣きじゃくるアリアを見つめる眼差しには疲労を蓄積して見えた。
「君が命令した結果なのに?」
即答。
一切の感情を乗せず。
「……そうだな」
一瞬の沈黙。
「だが、想定外だ」
「どうせ血にしか興味ないくせに、今更、悲しいフリ?心配してるフリ?」
「悲しいフリだと?相変わらず、失礼な奴だな」
アリア父は、鼻で笑った。
「確かに血は大事だ。どんな命よりも大事な血液だ......
だが、娘に情が無いわけじゃない」
「でも、情より血でしょ?」
「……何を当たり前のことを」
苛立ちを隠さず、言い放つ。
「アリアが使えなくなったら、大損害を被るのは俺だぞ!!!」
「うわぁ〜」
黒瀬和久は、肩をすくめた。
「出た、本音~
嫌だ嫌だ、こんな父親にはなりたくないねぇ
ねぇ、そんな父親を世間では父親失格って言うんだって」
「お前に言われたくないな」
「で、どうするの?」
軽い口調。
「もう、血が切れかかってる」
「あらら」
「なんで大事に使わない?」
「仕方ねぇだろ?」
苛立ったように舌打ち。
「どこぞの国の馬鹿な女が、
美容のために寄越せって言いやがる」
「……で、あげちゃったんだ」
「俺らの金庫の一つだぞ?
止められたら、たまったもんじゃない」
「ま、仕方ないか〜僕が都合してあげようか?」
「ハッ、遠慮しとく。何を要求されるかわかったもんじゃない」
アリアの父は、淡々と続ける。
「ババァが若さを求めるのは、常に正常な思考だ。老い先短いババァなんて、勝手にくたばってりゃ良いものを.....金が無かったらぶっ殺してるところだ」
「お〜こわっ。昔の癖が出てる出てる~口悪くなってるよ?まぁ~透の血は万能だからねぇ」
どこか愉快そうに言葉を続ける。
「老化、たるみ、シミ、シワ?男の俺には、よく分からないけど、女性の美の追求は凄まじいから.....」
一拍。
声が、少しだけ低くなる。
「でも、気をつけないと。
そのババァに定期的に血を差し出すのか、自分の娘に使うのか」
静かに、告げる。
「……間違えたら」
にこり。
「即死案件だよ」
アリア父は、言葉を失った。
当主は、去り際に振り返る。
「――間違っても、透に害が及ばないようにしてね」
柔らかな声。
「そうしないと僕が動くことになっちゃう」
それが、
命令なのか、
警告なのか。
アリアの父には、分からなかった。
白い部屋には、泣き疲れたのか、赤子の寝息だけが残る。
誰にも理解されないまま、 “使えなくなった”少女が、 そこにいた。




