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C型血の少女は、誰も救わないと決めた  作者: くじら


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第22話:「大丈夫」の意味

 父は、いつも通りだった。


 高層マンションの一室。

 広すぎるリビングの中央で、彼は紅茶を口に運び、穏やかに微笑んでいる。


 ――まるで、普通の父親みたいに。


「最近ね、忙しくてさ」


 雑談の口調。

 天気の話でもするような軽さ。


「黒瀬のところとも、正式に話がまとまって」


 正式に。

 その一言で分かる。


 水面下は終わった。

 もう、後戻りはない。


「お互い、目障りな組織も片付いたし、これからは、協力関係ってやつかな」


 人の命を、ゴミみたいに言う。


 アリアは黙って父を見ていた。


「そうそう」


 父は、ふと思い出したように言った。


「透って、賢い子だよね」


 胸の奥が、僅かに軋む。


「方法は問わない、どうやるかも聞かない。

 自分の日常さえ守れればいい、って」


 楽しそうに笑う。


「あれ、すごく助かったんだ」


 ――やっぱり。


 透は、一度血を差し出している。

 契約として。取引として。


「それでね」


 父はカップを置いた。


 音は、やけに静かだった。


「研究を、再開しようと思うんだ」


 一拍。


「アリアたんの血と、透の血で」


 相談じゃない。

 確認でもない。


 ただの、宣告。


「……そう」


 アリアは、それだけ答えた。


 驚きも、怒りもない。

 慣れている。


 父は、満足そうに頷いた。


「あ、それとね」


 その言い方が、嫌だった。


 “ついで”みたいな口調。


「もう一つ、お願いがあるんだよ」


 嫌な予感が、胸の奥で鳴る。


「小さな塵虫は始末できたと思うんだけどさ、それとは別の小国が動き出しててさ


軍事力は大したことないんだけど」


 だから、何だ。


「めんどくさい事にね


他の血の所有者を使ってるみたいなんだ」


 指先が、ほんの少しだけ強張る。


 父は、それに気付かない。


 いや――

 気付いた上で、無視している。


「正直、処理が面倒でさ」


父は、両手を軽く広げた。


何か小さなものを包むように。


そして、


ぎゅっ


と、何の躊躇もなく掌を重ねた。


「こんな感じでさ、アリィの血を使って、一掃しようと思うんだ」


 ――笑顔で。


 冗談みたいに。


「……」


 使えば使うほど、思考が削れる。

 人格が幼くなる。

 壊れていく。



それが、私の代償。


 それを、この男は知っている。


「もちろん、副作用は分かってるよ?」


 楽しそうに言う。


「でも、アリィは良い子だから分かってくれるね?」


 分かっていて、言っている。


「でも、大丈夫」


 その一言が、最悪だった。


「透ちゃんの血を研究してるし、ちゃんと、アリィは助かるはずだから」


 ――はず。


 アリアは、ゆっくり息を吐いた。


「……それ、本気で言ってる?」


 低い声。


 父は、一瞬も迷わなかった。


「うん」


 即答。


 “父親の顔”で。


 そして次の瞬間、

 完全に“研究者”の目になる。


 アリアは理解した。


 この人は、私の父親だ。

 血の繋がった、実の父だ。


 そして――

 最後まで、私を“娘”としては見なかった人だ。


 胸の奥で、何かが静かに音を立てて崩れた。


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