第20話:裏切り者は、すぐそばに
玄関先。
夜の空気は、思ったより冷たかった。
「……で?話って何」
アリアは、靴を履きながら言った。
「何を企んでる?
透の母親に、近付くな」
蒼真の声は低い。
感情を抑えきれない、不器用な音。
「ハッ……バカバカしい」
アリアは、鼻で笑う。
「好きで近付いたんじゃない」
「だったら、何でお前があそこに居た?」
問い詰めるような視線。
その視線が、ふと――
アリアの手首で止まった。
「……お前、それ」
ミサンガ。
「あぁ、これ?」
わざとらしく、持ち上げる。
「貰った」
口元を歪める。
「やっぱ、日本人って甘いよね。
私が誰かも知らないくせにさ」
軽く、肩をすくめる。
「日本の母親って、皆あぁなの?
無防備で、疑いもしなくて」
蒼真は、答えなかった。
――答えられなかった。
自分には、母親の記憶がない。
正確に言えば、母親と過した記憶が無い。
だからこそ、透の母親を見て知った。
世の中の“母親”という存在が、
ああいうものなのだと。
おそらく、黒瀬も同じだ。
透の母親は、
俺にとっても――家族みたいなものだ。
だから。
「……近付くな」
思った以上に、低い声が出た。
「ハッ」
アリアが、笑う。
「何度も近付くなか.....言われなくても、近付かない」
一拍。
「あんな、甘くて――
すぐ騙せそうな馬鹿……」
その言葉の途中で。
ブチッ。
鈍い音。
アリアは、ミサンガを引きちぎった。
そして、それを蒼真に投げる。
足元に、落ちる。
横を通り過ぎざま、
低く、言い放った。
「私たちはね」
一歩。
「壊そうと思えば、
すぐに壊せるんだ」
立ち止まらない。
「……じゃあ、なんでしなかったと思う?」
蒼真が、歯を食いしばる。
「透と、契約したからだよ」
「……だから、なんだよ」
アリアは、振り返らないまま笑った。
「ふ……」
そして。
「その内容にね。
アンタのことも、含まれてたんだ」
空気が、凍る。
「透は……母親似の甘ちゃんだよね。守ってるつもりらしい」
夜に溶けるような声。
「こんなにすぐ近くに、
裏切り者が居るってことにすら、
気付きもしない」
一拍。
「……まぁ、仕方ないか」
夜に溶けるような声で、続ける。
「子供の頃だもんね。
“大人に言われて近付いた”だけだし」
蒼真の呼吸が、止まる。
「――それを裏切りって呼ぶかどうかは、
本人次第だけど」
小さく、呟く。
「私が、知らないとでも?
安心して。
透は……アンタのこと、
本気で“友達”だと思ってるから」
ーーー透の馬鹿な優しさに免じてバラさないでおいてやるから感謝するんだね。
それだけ言い残し、アリアは歩き出した。
その背中を蒼真は追えなかった。
ーーーその会話を誰かが聞いてるなど二人とも気付きもしなかった。
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