第9話:限界勇者の買い物とお仕事2
ツインヘッドパイソン。名前の通り、二つの頭を持つ巨大なヘビだ。性格は非常に凶暴で、人間どころか動物全てに襲いかかる。
俺とエンネが気になったのは、こいつらの習性だ。
ツインヘッドパイソンは群れを作りやすい。仲間同士で移動するのだ。ネーアさんが言った通り、個体差も大きい。毒を持っているのは当然で、火を吐いたり魔法めいたこと出来るケースもある。
一説によるとヒュドラの下位種ともされていて、たまに首が多めの大型個体なども発生する。
生命力は旺盛で、最低限、首を両方落とさなければ殺せない。運が悪いと首から尻尾が生えてくることもある。
倒した後に火で燃やし尽くすのが推奨されている魔物だ。
こいつが滅ぼした町は一つや二つじゃ済まない。とにかく厄介な存在なのは間違いない。
「まさか、魔族界の嫌われ者にこっちで対処することになるとはのう」
「向こうでも嫌われてるのか……」
「たまたま魔族界に群れがついてきてしまってのう。繁殖してるんじゃ。ゴブリンの集落とか食い尽くしたりしておった。話ができんから害獣扱いじゃ」
「どこにいっても面倒な奴らだな」
「唯一の救いは、テリトリーからあんまり出ないことなんじゃがな」
ツインヘッドパイソンは巣から余り出ない。たまに増えすぎて、新たな縄張りを求めた個体が発生する程度だ。おかげで危険性の割に遭遇率が低い。
「群れで来てなければいいけど……」
「うむ……。バリオン達が心配じゃな」
五日後。俺達は帰ってこないバリオンさん達を探すため、西に向かって走っていた。昼も夜もなく、全力だ。魔法使いの割に、エンネの身体能力は高く、しっかり俺について来ている。
「もしかして、意外と近接戦闘とかもできるのか?」
「一通りはのう。さすがにお主と正面からやりあうのは無理じゃよ……」
「見つけた」
「む……」
ホヨラの町の西に広がる森林を進むと、岩が目立つ山々にぶつかる。その境目に人がいた。数は二。つけている装備からして人間。冒険者だろう。
「バリオンさんの仲間だ。本人はいない」
「倒れておるな……。お主、神聖魔法は使えるな?」
「一応は。解毒くらいはできる」
倒れているのは怪我か毒によるもの。バリオンさんのパーティーは四人。ここにいないなら、怪我をした仲間のために囮にでもなったか。もう戦えない状態か……。
幸い、俺は神聖魔法を使うことが出来る。運命神の魔法はトリッキーなものが多いけど、基本的な回復と解毒は存在する。
「大丈夫ですか?」
「や、薬草取り……なんでここに?」
近づくと、やはりバリオンさんの仲間だった。少し口は悪いが、彼をよく慕っている。
見れば、二人とも全身傷だらけで、腕や足に噛み跡がある。
「ツインヘッドパイソンは群れじゃったか……」
「ただの群れだったらこんなにならねぇ。一匹、首が三本あったんだ」
「なるほどのう……」
二人とも、何とか喋れるようだ。見た目より元気。毒を受けているはずだけど。
ともかく、回復だな。
「運命を司る神よ。ここに浄化の奇跡をもたらしたまえ……」
神聖魔法は、自分の信仰する神の名を唱えることで行使できる。二人とも、俺が運命神に祈ったのを見て驚いている。……割と珍しいからね。運命神。
「お前、神聖魔法使えたのか……」
「一応は。そんなでもないんですけどね」
謙遜ではなく事実だ。加護貰ったりしているけど、蘇生みたいな強力な奇跡は使えない。これは、自分が天界に昇る資格を得た影響らしい。神に近づくほど、その力を借りにくくなるそうだ。
「バリオン達はどこにいるのじゃ?」
「少し先の山の方だ。俺達は先に撤退するよう言われてきた」
二人ともボロボロだしな。想定より、強い群れだったか。バリオンさんは仲間と二人。ここにいいないのは神官の人だ。すると、かなり持ちこたえられるはず。
「バリオンさんを助けてすぐに戻ってきます。少し待っていてください」
「あ、あぁ……」
二人の冒険者を残して、俺達は更に山の方へと向かった。
バリオンさん達はすぐに見つかった。足元の悪い山の麓にある岩場。
そこで、自分の身の丈よりも大きいな、三つ首の蛇を相手にしていた。足元には沢山のツインヘッドパイソンの死骸。田舎の冒険者とは思えない、大善戦だ。
「あそこまで大きくなると、ちょっとしたヒュドラじゃな」
エンネの呟きに無言で頷く。三つ首、いうなればトリプルヘッドパイソンは本当に大きい。鎌首をもたげた状態で二メートル以上の高さがあり、全体を見れば十メートル以上の長さがあるだろう。
首の一本は妙にぬめっており、地面に一個巨大な首が横たわっていた。バリオンさんが一度落として、再生したんだろう。
「首を落として燃やすのが正攻法だな」
「火はワシが担当しよう」
エンネも無属性魔法しか使えないわけじゃない。属性魔法もかなりのものだ。
薄曇りの嫌な天気の中、巨大な蛇による攻撃をどうにかいなすバリオンさん。限界が近そうだ。ボロボロだし、一緒にいる神官さんは今にも倒れそうだ。
俺は家から持ち出してきた草刈り鎌を構えて前に出る。全身だけでなく、武器にもしっかり魔力を回す。
「バリオンさん! 下がってください!」
わざと目立つように大声をあげて、戦いに乱入する。幸い、トリプルヘッドパイソンは俺達の存在にギリギリまで気づかなかった。……それだけ、バリオンさん達が善戦してたってことだ。
素早く後ろに回り、巨大な首を一つ、一撃で落とす。
家庭用の草刈り鎌だけど、その実態は女神ユーネルマの用意した総ミスリル製の一品。並の武器より余程切れる。
「……燃えろっ」
エンネの声が聞こえると、頭側と胴体側、双方の切り口が燃え上がった。精妙なコントロールによる攻撃魔法。見事なものだ。
「ギシャァァア!!」
耳障りな叫び声が響く。いきなり首を落とされた魔物は、敵意を全開にして俺の方を向く。
「うおおおおお!」
そこを見逃さないベテラン冒険者がここにいる。バリオンさんの武器はハルバード。恐らく、今回の討伐用に用意したものだろう。それが魔物の腹に深々と突き刺さった。
見れば、槍部分が淡く光っている。神聖魔法の加護もかけてあるようだ。
「ギィィイイイ!!!」
「ふたつめ!」
痛みにのたうつ瞬間を逃さず、更に一本首を落とす。すかさず、エンネが魔法で傷口を焼く。
俺達の到着ですぐに頭を二つ失ったトリプルヘッドパイソンの判断は迅速だった。
「ジャジャッ!」
逃走。本能によるものか、死を前にした決断は早かった。体をのたうち飛ぶような動作で距離を取りにかかる。
「させんのじゃ! 炎の矢よ!」
エンネの手の中で練り上げられた魔力が炎の矢となって飛び出す。それは魔物の体を打ち抜き、確実に動きを止めた。
「よし、最後だ!」
その隙を逃さず、俺は最後の首を落とした。
「…………グッ!」
短い断末魔を残し、トリプルヘッドパイソンの頭と身体は地面に落ちた。
「すぐ焼かないと復活するかもな……」
「うむ。徹底的にやるのじゃ」
駆け寄ってきたエンネと共に、火の魔法で頭も身体を焼き尽くしていく。ついでに、その辺に転がっているツインヘッドパイソンの死体も焼く。
この数を相手に戦えるのは相当な腕前だ。素直にそう思う。大国の騎士団に仕官できるレベルだろう。
「やっぱり、強かったんだな。お前ら……」
バリオンさんが来て、一言そう言った。
「やっぱりって、どこでそう判断をしたんですか?」
意外だ。できるだけ隠してるつもりだったのに。
俺の問いかけに、バリオンさんだけでなく、隣の神官さんまで呆れ顔になった。
「異常な勢いで採取依頼をこなしてただろ。新人でも駆け出しでもできることじゃない。ああ、あと、ついでに言っておくか……」
バリオンさんがエンネを指差す。
「魔族なんだろ? 何代目なのかはわからんが、たまに角が見えてた」
「……むっ。頑張って隠してたつもりなんじゃが」
エンネの頭の角は小さいので髪型で隠して貰っていた。純粋な魔族は魔族界に送ったが、人間との混血は世界中に少なくない数がいる。魔王戦の時、人に味方した魔族もわずかにいた名残だ。
「何もするつもりはねぇ。俺もだからよ。大分血は薄いけどな。訳アリだと思って黙ってた」
そう言うと、バリオンさんは地面に座り込んだ。神官さんも同様だ。二人とも、限界だったらしい。
「とにかく、礼を言う。助かった」
思わぬカミングアウトに驚く俺達を尻目に、バリオンさんは深く頭を下げた。
「これ、ワシらも報酬もらっていいのかのう?」
エンネが場違いなことを口にした。もう少しで服を買うお金、溜まりそうだからね……。




