第31話:限界勇者の乱入2
想像よりも長く、彼らは戦えた。
討伐隊再編成の折、デルタン王国が可能な限りの精鋭を集めたのも大きいだろう。練度としては一流とは言えないが、十人以上の魔法使いを集めたのは小国としては称賛に値する。
魔法の援護のおかげで、ゲイル達は二時間戦えた。攻撃と防御と撤退を繰り返し。怪我をしたら神聖魔法の癒やしを受けて。必死に渡り合った。
グースの動きが早くないのも長く戦えた要因だろう。この魔物はとにかくその回復力が厄介だった。
まるで膠着状態のようだった状況。それが動きつつあった。
グースの回復力が衰えている。全身にできた長槍やバリスタの矢を打ち込まれ、魔法による傷。それらが、消えなくなっている。
「……若様。そろそろかと」
「そのようだな……っ!」
討伐隊も限界だ。むしろ、既に限界を越えている。ここで止めなければまた村や町に犠牲が出る。小国の戦力は少ない。旅の傭兵であるゲイルが主力になってしまうくらいには。
「宝剣よ! 月光の輝きを見せる時だ!」
言葉を受けて、宝剣の刀身が輝く。これまでにないほど眩しく、強く。
同時、グース目掛けて魔法と矢の雨が降り注ぐ。
事前の打ち合わせ通り、これで動きを止める。
「今です、若様っ!」
「おう! 喰らえ! 月光閃!」
刀身と引き換えに撃ち出す一撃。呪文を口にしてゲイルは大剣を振り抜いた。
まばゆい輝きの一条の閃光がグースを瞬時に貫く。
大剣と引き換えに打ち出した一撃は、魔物の腹に向こうが見える大穴を開けていた。
「若様!」
「……油断するな」
倒したと思いたいが、戦士としての感覚がそれを押し留めた。
確実に効いてはいる。今も傷口は塞がらず、その顔は苦悶に歪んでいる。
「ゲイル殿に続け! 攻撃の手を緩めるな!」
背後から、攻撃が再開する。矢の雨により、まるでハリネズミのような姿になっていくが、グースはまるで動かない。
「まさか、死んだのか?」
「普通は体に穴が空けば死ぬのですが……」
あまりの無反応にゲイル達が首をかしげた時だった。
「ル……ルォォォオオオ!」
グースが泣き叫んだ。
鼓膜どころか肌まで震えるほどの咆哮。涙と体液を撒き散らしながら、グースはいきなり暴れ出した。
まるで今、ようやく攻撃の傷に気づいたかのように。
攻撃はたしかに効果が出ているのだろう。魔物は傷の回復もろくにできず、痛みによって無軌道な動きをしている。運悪く近づいていた騎士が一人、その肉に弾き飛ばされ、動かなくなる。
驚異的な再生能力を持つ故に、怪我というものを理解できなかったのか?
そんな疑問を抱きつつも、ゲイルは付き人から予備の剣を受け取る。魔法もかかっていない、ただの剣。強化魔法を乗せれば多少は威力も上がるだろうが、宝剣に比べればいかにも頼りない。
「若様。お逃げください。私ができる限り引き受けます」
「いや、そうはいかないだろ」
自分一人なら楽に逃げることが出来るだろう。しかし、ゲイルには不思議とそんな気持ちが沸かなかった。
まだ戦える。勝機を掴むとはいわないが、せめて時間を稼ぎたい。少しばかり、死ぬ公算も高いが。
「死に場所としては悪くないな。家を追い出されて野垂れ死によりは大分マシな末路だ」
「お供します、若様」
自分に風穴を空けた者がわかるのだろう。グースは不気味なうめき声をあげながら、ゲイル達にゆっくりと迫りつつあった。涙を流しながら、笑いを浮かべる歪んだ顔は、不気味を超えたおぞましさがある。
全身と剣に強化魔法を施し、ゲイル達はその時に備える。接近した瞬間、左右に回避して攻撃を仕掛ける。近づくのが危険な相手だが、着実に打撃を与えるには機会でもある。
「るおぉぉぉぉぉ!」
グースが不気味な声を再び上げ、速度を増した時だった。
突如、後ろから飛来した光の槍に、グースの全身が貫かれた。
長く太い、まるで杭のような魔法の光の槍はあっという間に十を越えた。次々と魔物の体を、まるで地面に縫い留めるかのように容赦なく貫いていく。
「!? 誰の魔法だ!」
この場にこんな強力な魔法の使い手はいなかったはず。そう思い、振り返ろうとするも、お付の声が響いた。
「若様! 前を!」
その声は、何故か喜色を帯びていた。
いつの間にか、自分たちとグースの間に人がいた。
ありふれた、それこそ田舎町の住民がちょっと頑張った程度の装備を身につけた若者。
しかし、その背中を、ゲイルはよく知っていた。確実に、この場の誰よりも。
「馬鹿な……」
自分よりも小柄な男が構えた長剣。強力な魔法が込められた武器の刃が青く輝き、細く長い刃を形作る。
ゲイルはその剣も知っていた。幼馴染の神官の家で見たことがあるし、物語の中で何度も活躍する場面を読んだ。
天まで掲げられた、青く細長い光の刃をその男は無言で縦に振り抜いた。
光が走り、グースを頭から両断する。
「…………ッ!」
悲鳴すらあがらなかった。ゲイル達が命がけで戦っていた魔物は、目の前であっさりと二つに別れその場で動きを止めた。
「…………若様」
「…………」
涙を浮かべるお付にゲイルを頷く。しかし、言葉は出さない。自分には喜ぶことも、声をかける資格もないのだから。
「間に合って良かった。頑張ったな、ゲイル」
絶対にこの場にいないはずの元勇者が、こちらを見て少し歪な笑みを浮かべてそう語りかけてきた。




