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限界勇者のスローライフ~追放気味に田舎暮らしに突入したけど、元魔王やら魔族の子と出会って何だか幸せに暮らせています~  作者: みなかみしょう


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第20話:限界勇者と仲間達

 新しい生活が始まった。

 まず、朝起床。朝食はエンネが大体一人で作る。たまに俺やマイサも手伝う。

 朝食後、俺とエンネは交代でマイサを連れて運命神の神殿へ。週に二日、子供向けの教室をしていて、そちらがあれば参加。そうでなければ神殿の手伝いだ。俺が運命神の神聖魔法使いだと説明したら、すぐ受け入れてくれた。


 マイサが神殿に行っている間、俺とエンネは畑の世話をしてから作業に入る。

 今優先しているのは公共事業。それぞれ鍬を持って地面をひたすら掘り進める。


「ふんふんふんふんふんふん!」

「ほいほいほいほいほいほい!」


 二人がかりで一心不乱に掘る。ちなみに草刈りは二日で終わった。時折、属性魔法で補強を入れつつ、幅二メートルほどの水路がかなりの早さで出来ていく。

 途中で昼休憩をしっかりとる。昼食をちゃんと食べていないと、マイサに怒られるので忘れないようにしなければいけない。一度忘れたら、弁当製作者のエンネ以上にマイサが怒っていた。


 本音を言えば、ひたすら土木工事をしたいところだけど、冒険者組合の仕事も忘れてはいけない。

 俺とエンネのどちらかがマイサを送りがてら依頼をチェックして、必要なら採取依頼もこなす。安全そうならマイサもこちらに同行する。


 仕事は夕方まで続ける。ホヨラの町では、朝昼夕の三回、鐘が鳴らされる。夕方の鐘がなったらマイサを迎えに行くことになる。


 一度、「なんだか子育てしてるみたいだな」とエンネにいったら「そのまんま子育てじゃろう」と言われた。前世の同僚が子供のお迎えに行ったりしていたのを思い出した。仕事と折り合いがつかなくてすぐ辞めたっけなぁ。


 夜は夕食と入浴後、自由時間になる。大体、やることがないのでマイサに魔法を教えている。主にエンネが。

 一度、夜間工事に出ようと思ったんだけど、止められた。全員家にいるのが大事らしい。

 この地域でも大抵の人は夜は早く寝る。明かりのための燃料費が高く付くためだ。我が家は俺とエンネが魔法で明かりを作れるため、その辺りは関係ない。

 マイサが眠そうになったら就寝。それで一日が終わる。


 スローライフではないかもしれないけど、落ち着いた安定した日々だ。以前より休憩時間が増えているけど、特に不安にならない。ここに来たばかりの頃は、動かないと不安な気持ちがあった。

 エンネと不眠不休で工事をすればあっという間に終わったであろう水路作り。それが日常生活と共に、ゆっくりと確実に進んでいくのが心地良い。端から見たら異常な速度らしいけど。


 作業開始から十日あまり。その日のお迎えは、俺の番だった。

 神殿からの帰り道。人通りの少なめの道をマイサと一緒に歩く。道端では軽食を提供する店なんかも出ていて、割と賑やかだ。

 

「あ、いい匂い」

「何か食べたいものがあれば買おうか? エンネには秘密だよ」


 最近わかったことだけど、マイサは割と食べる方だ。それが昼から夕方まで食べ物を口にしていないので、この時間帯は空腹を覚えるようだった。孤児院だと遠慮せざるを得なかっっただろうけど、我が家ならそれはいらない。エンネの作る夕食を食べれるなら、間食くらいはいいと俺は思う。


「いいの? あ、でもお金」

「子供がそんな心配しなくていい。それに、これくらい大丈夫だよ」

「じゃあ、あのミートパイを」


 言われるまま、籠に入れて売られているミートパイを買った。焼き立てなのか、良い匂いがしたので自分の分も。


「これで共犯だね。エンネには秘密だよ」

「わかった! あっつ!」


 やっぱり焼き立てだったらしい。苦戦しながら食べるマイサを眺めていると、何故か穏やかな気持ちになった。

 のんびり歩きながら見守っていると、ふと目に入るものがあった。

 路上の新聞売り。この世界でも活版印刷が実現して、徐々に増えている情報媒体だ。まだ、ページも内容も薄いけれど、ゴシップ系は割と人気がある。


「その新聞一部ください」

「はいよ。あんた、お硬いやつを読むねぇ」


 銀貨と引き換えに買ったのは、王都方面で発行している政治や経済のニュースをよく扱う新聞だ。冒険者組合で、ここの情報は遅いけど信頼できると聞いたことがある。


「どうしたの?」

「ちょっと気になる記事があったんだ」


 一面の端の方に書かれている、『ルーンハイト王国、ライドル家で騒動。当主変わる』だ。 

 ライドル家というのは、勇者会議の一人、ゲイルの家の名だ。どうやら、俺が勇者を辞めた責任をとって、妹と当主を変わることになったらしい。記事によると、元々の素行の悪さもあり、速やかに当主交代が進んだとか。


 ようやくあるべき形になったのかもしれない。一瞬、そんな感想が浮かぶ。


「どの記事?」

「帰ったら話すよ。もう俺には関係のないことだけどね」


 新聞を折りたたみ、鞄に詰めてから改めて出来立てのミートパイと向き合うことにした。

 あの国で何が起ころうと、もう俺とは無関係なのだ。


 ◯◯◯


 ルーンハイト王国王都郊外。かつて辺境の貴族が王都で滞在するために建てたという小さな屋敷に、二人の男がいた。

 一人が執務用の机に向かい、もう一人は扉の前に立っている。


「ククク……。社交界では貴方の話題で持ちきりですよ、ゲイル」

「だろうな。勇者を失い、妹に追い落とされた……。俺、そっちで人間扱いされているか?」


 貴族然とした服装をしているのは勇者会議の賢者スランド。

 軽装ながら鎧を身につけた上、帯剣までしているのは同じく勇者会議の戦士ゲイルだった。

 共にあの日、クウトが勇者を辞めるまで、彼を使い倒していたと知られる男達である。


「どうでしょう。妹さんは優秀ですからね。どちらかというと、そちらへの擦り寄りが目に余ります」

「だろうな。できれば、このまま俺は忘れてくれるといい」

 

 椅子に座ればとスランドが勧めるも、ゲイルは首を横に振った。


「ここでいい。長居できないしな。家を追われた敗北者だ」

「ククク……まさしくその通りです。もうこの国に貴方の居場所はありません」

「ああ……全て、計画通りだ」


 ゲイルのどこか満足げな言葉に、スランドは口元を歪める。この賢者は常に薄く笑っている。それは、楽しい時も、辛い時も同様だ。

 その事実は、ゲイルを始めとした数人しか知らないことだが。


「今でも、もっと穏便な方法もあったと思うのですが」

「いや、これが一番いい。勇者クウトが自発的に神剣を捨てる。この事実がどうしても必要だった」

「それはわかっていますが……」


 勇者クウトに神剣を捨てさせる。彼らが勇者会議の場に出た時、密かに決まった方針だった。

 大事なのは、クウトが勇者の称号だけでなく、神剣まで失うことだ。

 勇者が勇者たる力の象徴を失わなければ、彼は自由になれないだろうから。


「勇者が人間同士の戦争に関わることはあってはならない」


 スランドがゲイルから何度も聞いてきた言葉だ。

 人間界の魔族を送還し終えた後、勇者クウトが人間同士の争いに駆り出される可能性は高い。

 そうなれば、勇者の称号が虐殺者のものになってしまう。


 世界を救い、その後も百年以上戦い続けた男に、そんな仕打ちはあんまりだ。


 ゲイルはそう考え、スランドと計画を立案し、実行した。

 とにかくクウトに冷たい対応を取り、彼が勇者を辞め神剣を捨てるように仕向ける。

 思ったより時間はかかったが、どうにか上手く行った。


「クウト様はミスラート王国ホヨラの町で滞在。日々を穏やかに過ごしているようですよ」

「ヴィフレア様の所なら安心だ。あの人が一番心配していたからな」


 あの女王すらも、彼らの真意は知らない。もし知っていれば、ゲイルに何らかの救いの手を差し伸べ、台無しにしてしまうかもしれないからだ。

 自分が原因で、勇者を失った。その罪を背負う覚悟がなければ、これほどまでに上手くいかなかっただろう。


「これから、どうするのですか? 妹さんは国外に居場所を用意していたようですが」

「断った。傭兵なり冒険者なりをする。一度やってみたかったんだ。お目付け役をつけられたけどな」


 おどけて言う彼の後ろに、ローブを羽織った女性が一人付き従っているのが見えた。ゲイル一人で旅立たせると、そのまま責任をとりかねない。彼の妹はそう思ったのだろう。


「悪いけど。フィラーシャのことは頼む」

「あいつは神殿内の出世が目的だから何とかなるだろう。任されたよ」


 この場にいない勇者会議の最後の一人。神官フィラーシャ。彼女はこの企みに無関係だった。あの光の神の神官は自分の地位向上のために何をするかわからない所があり、計画を持ちかけられなかった。


「じゃあな。もう会うこともないだろう」

「でしょうね。……旅の無事を祈ります」


 短く、簡素な別れの挨拶を交わすと、ゲイルは音も立てず、その場を去っていった。

 先祖に負けるとも劣らない戦いの技能は、今後の彼の行く先で役立つだろう。そうであって欲しい。

 スランドはそう願わずにはいられなかった。


「ククク……寂しくなりますね」


 周囲に「何か企んでいる」と思われがちな笑いを漏らしつつ、スランドは部下が集めた報告書を手に取る。


「しかしまあ、誰も彼も不器用なものですね。これは私の頑張りどころです……」

 

 思いつく手はできる限り打っておきましょう。

 笑いを噛み殺しながら、賢者の子孫はそう決断した。

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