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駄菓子屋まるふくより  作者: ゆめのあと
3章 決戦!地下研究所!編
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41話 不穏

青白い蛍光灯の下、長方形の黒曜石のテーブルを囲むように七つの影が座っていた。


 ――ヘリオス製薬、幹部会議。


 そこは、存在しない最深部。

 床は無機質な金属で覆われ、壁には誰が描いたのかも知れない抽象的な人体模型が浮かび上がっている。全員が発言を控え、沈黙の中で時が流れていた。


 やがて、自動ドアが静かに開き、一人の女が歩み入る。


 黒いセミロングの髪。無表情な顔。淡いスーツに身を包んだ女、サイレンス。


 「呼ばれて出てきてみれば、この面子か……。隠し事の相談には丁度いい顔ぶれだな」


 皮肉めいた口調に、向かい側の眼鏡をかけた男、ガルダが冷ややかな視線を返す。


 「君が先日の作戦で、ダスクを処理したという報告が入っている」


 「処理? そうだな、“処理”だ。黙って燃やしてくれと言わんばかりの人形だった」


 「命令なしに幹部を殺したことが問題だと、理解できないのか?」


 割り込むように言葉を差し込んだのは、フーガだった。涼しげな笑みを浮かべながらも、目はまるで硝子のように冷たい。


 「メディア操作には手間がかかった。君が勝手に動いたせいで、いくつかの隠蔽ラインが破綻しかけた」


 「知らんな。私は“爆弾”の暴走を止めただけだ。ここの連中が、何も制御できないまま放った玩具を片付けただけだろう」


 「ほぅ……相変わらず可愛げがないわねぇ」


 カリュプスが紫煙を吐きながら、肩をすくめた。艶のある指先で煙管を弄びながら、サイレンスの顔を見つめている。


 「アンタ、分かっててやったんでしょう? あの子、ダスクの特異個体だったのよ? うふふ……今頃、焼け跡からどんな細胞片が回収されるか、楽しみだわぁ」


 サイレンスは無言でカリュプスを睨んだ。

 その視線には、怒りでも、恐怖でもない――ただ、深く乾いた静寂があった。


 「……処分を要請する」


 それまで黙っていたアモンが口を開いた。

 冷徹な顔、分析眼のような瞳。


 「行動規範を無視し、幹部を排除した。サイレンスはこの組織にとって制御不能な存在になりつつある」


 「異議なし」


 「異議なし」


 次々と幹部たちの声が重なる。

 最後に、一番奥の男が俯いたまま手元の書類をめくり――震える声で言った。


 「……命令を下します。サイレンス、君を……ここで処分する」


 直後、部屋の四隅が暗転した。


 黒い扉が開き、無音のまま数人の私兵が入り込む。

 どれもヴィスケラの部隊。冷気すら漂う無表情の男たちが、銃と電撃棒を構えていた。


 サイレンスは一歩、踏み出した。


 「……そうか。やっぱり、ここも地獄だったか」


 次の瞬間、彼女の足元にあった椅子が音を立てて砕けた。

 衝撃波――否、音波。


 可聴域を超えた波動が一瞬にして部屋を揺るがせ、照明が破裂する。

 兵士たちの耳から鮮血が噴き出し、ひとり、またひとりと倒れていく。


 「下らない連中に、未来を託す気はない」


 「おい、止め――」


 遮るようにサイレンスの指が弾かれた。


 光速の音。

 次の瞬間、壁面が爆裂し、吹き飛ぶ瓦礫の中をサイレンスの姿が消えた。


 「追え! 逃がすなッ!」


 ガルダが即座に指示を飛ばす。

 警報が鳴り響き、廊下に無数の足音が駆け出す。


 だがサイレンスの影は、すでにその気配を断っていた。


 “音を操る者”が、一度逃げの体勢に入ったなら、探知も追撃も不可能に近い。


 「……やはり、あの女は危険だ」


 アモンのつぶやきに、フーガが指を鳴らす。


 「次の会議では、失ったリソースの補填も検討すべきだな。CAINの残党も、生き残っているかもしれない」


 「……ええ、捜索部隊を強化しましょう。ついでに、彼女の“家”の方もね」


 カリュプスの目が、鈍く光った。


 会議室には再び静寂が戻った。


 だがその沈黙は、もはや“支配”ではなかった。

 誰もが理解していた。ひとつの異物が、確かにこの巨大な組織の歯車を狂わせたのだと――。


 そして、音なき反逆は、まだ始まったばかりだった。

 

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