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駄菓子屋まるふくより  作者: ゆめのあと
3章 決戦!地下研究所!編
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37話 Dead End, Green Light

風が鳴っていた。

鉄骨のきしみ、コンクリ壁の軋み、風圧で揺れる照明灯の音が、廃ビルの屋上に不吉なリズムを刻む。


その中央に、男がいた。

ノクターン。

黒いコートをひらつかせ、薄く笑ったまま背を向けている。


追い詰めたのは、ヘッドライト。

タクシー運転手の仮面を脱ぎ捨て、戦闘班の最後のひとりとして銃を手に立つ。


「逃げ場はねぇぞ、ノクターン……お前には聞きたいことが山ほどある」


ノクターンは肩越しに振り返った。サングラスの奥、死んだような目で微笑む。


「問いに答える理由が、僕にあるか」


言葉と同時、ノクターンが跳ねた。仕込んだ小型手榴弾が爆ぜ、煙幕が広がる。

視界を遮る白煙。そのなかから撃ち出される銃声。


「随分と軽いな、裏切りってのはよ」


ヘッドライトは舌打ちしながら身体を横にずらし、反撃の弾を撃ち込む。

だがノクターンの動きは予想以上だった。

盲目でありながら、音の反響と足音で戦場の全てを読み、殺意だけを正確に感知する。

ただ、今は盲目ではなくその目で見ている。


「僕は、ただ選んだだけだ。視える世界をね」


「言い訳は墓の中でしろ!」


二人の撃ち合いは火花を撒きながら続く。だがその戦場に、新たな気配が混ざった。

風の中に混ざる、血と鉄の臭い。


「……やれやれ、また死人が出そうだなぁ」


コートを翻して現れたのは、ヘリオス製薬幹部──アモン。

感情の欠落した顔。軍服のような漆黒のスーツ。まるで鋼鉄が人の形を取ったかのよう。


「CAINの残党と、盲目の密告者。いい標本だ」


「誰だてめぇ」


「神無アモン。正す者さ」


ヘッドライトは即座に銃を構え、引き金を引いた。

しかし弾丸はアモンの手前で弾かれ、空気中で霧散する。


「能力者……か」


ノクターンは静かに手のひらを広げた。

「俺の役目は終わりだ。あとは、おまえだ、アモン」


「理解が早いな。下がっていろ」


ヘッドライトは唇を噛み、ジャケットの内側から金属片を取り出す。

小型爆弾。しかも複数。


「……どうせ死ぬなら、最後くらい吠えさせろや」


アモンは一歩ずつ歩を進める。手を動かす様子もないのに、空気が歪み、屋上の床がねじれていく。


「戦術が旧時代的だ。だが、そこが人間らしいな」


「うるせぇッ!!」


ヘッドライトは手榴弾のピンをすべて抜き、自身のベルトに括りつけた。

そして、走る。


「これが……CAINだッ!!」


爆発。

屋上を照らす閃光。吹き上がる火炎。

ノクターンは爆風に煽られ壁際まで吹き飛ばされる。


だが──


炎の中心に立っていたのは、アモン。

黒焦げたコートの下、傷ひとつない肉体。


「哀れだな。力なき正義が最も愚かだ」


風が止み、煙が晴れていく。

そこに、ヘッドライトの姿はなかった。


ただ焦げた床に転がるのは、ひとつのタクシードライバーのバッジ。

皮肉にも、乗客を送り届けることのない“最後の業務”を終えた証だった。


ノクターンは立ち上がり、崩れた壁に手をかけたまま、ひとつ深く息をつく。


「……音が、消えた」


アモンは振り向かずに言う。


「予定通り。グールも、ダスクも、役目を終えた。残るは実験台の回収と、データの消去だ」


「サイレンスは?」


「放っておけ。ボスが連絡済みだ。」


「……そうか」


ノクターンの目元がわずかに揺れる。かつての戦友たちが消えていく音だけが、耳に残る。


「君もいずれ──消える」


アモンのその言葉に、ノクターンは答えなかった。


風が再び、廃墟の鉄骨を鳴らす。

それは、英雄の最期を弔うにはあまりにも無機質な音だった。

 

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