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駄菓子屋まるふくより  作者: ゆめのあと
3章 決戦!地下研究所!編
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35話 Apocalypse of the Behemoth

異形の咆哮が、コンクリートの天井を揺らした。

 あたり一帯を覆う硝煙と薬品の臭気の中、巨大な生物兵器ベヒモスがその巨体を起こす。変質した肉体は人間の面影をほとんど残さず、ただ“戦うための塊”と化していた。


「さて……これで少しは“話せる”ようになったかな?」


 口腔器官らしき部位が震えると、空気が震えた。

 それでも、シルエット──黒糖は眉一つ動かさず、右手のポケットから一本の棒を取り出した。


 パチン。


 それはキャンディ型の特殊警棒ラムネ・クラッカー。握った瞬間、刃が瞬時に伸び、青白い電流が走る。駄菓子屋の店主が持つにはあまりに物騒な逸品だ。


「お前みてぇな化け物に、おやつなんざくれてやる義理はねぇ」


「ハッ……いいねぇ、その眼。まるで狩人だ。けどな」


 ベヒモスは地を砕く勢いで踏み込み、巨大な腕を振り下ろした。

 床が爆ぜ、壁が割れる。爆風とともに粉塵が渦を巻いた。


 だが、その一撃は空を切る。シルエットはすでに間合いを詰め、懐に潜り込んでいた。


「狩るのはこっちだ」


 電撃のこもった一撃がベヒモスの胸部を切り裂く。肉が焼け、火花が散った。

 しかし、ベヒモスは呻くどころか、笑った。


「く、くくっ……いいねえ、痛みってのは生きてる証だ。お前のおかげで“人間”に戻れそうだ」


「悪いがそっちには付き合えねえ。……戻るべき場所があったらな」


 再び雷光が走り、刃が唸った。ベヒモスも応じるように両腕を振り回し、コンクリートの柱を破壊する。

 二人の戦いは、研究所の構造すら破壊しかねない激烈なものだった。


 ──その最中。


「……ッ、ベヒモス様。応答を。先ほど本社研究室に侵入者を確認。研究室にて、非登録個体二名の行動を確認。確認された個体は──」


「──ああ、聞こえてる。映像送れ」


 ベヒモスの背面に装着された通信ユニットが一瞬発光し、情報が視覚へと直接流れ込む。


「……ふぅん。医者と……女狐か。こりゃまた派手に潜ったもんだ」


「……何だと?」


 シルエットの表情が僅かに変わった。その声を聞いたベヒモスが不敵に笑う。


「安心しなよ、まだ殺しちゃいないさ。でもまあ、あの医者がこの研究所で何を知っちまうか、俺も楽しみでね……」


「……!そうか、ヘリオス、親玉ってわけか!」


 怒りに任せて飛び込むその瞬間、シルエットは手首の通信端末を叩いた。


 ──通信、接続中。

 ──接続失敗。

 ──対象:PATCHWORK、応答なし。


 「……チッ」


 再度、別のチャンネルを開く。今度は「VAMP」の名前が表示された。


 ──応答あり。


『……出たわよ。どうしたの、甘党店主さん』


 声はいつものように艶っぽく、しかし──どこか、妙に静かだった。


「パッチワークは……一緒か?」


『……いないわ』


 短い沈黙。


『さっきまでいたけど。いまは……もう、いない』


 脳の裏をナイフで裂かれたような感覚が走った。


「……確認したのか?」


『血の匂いがしたの。濃くて、鉄臭くて、……あたし、知ってるのよ。彼の血の匂い』


 シルエットは拳を握った。

 静かに、だが確実に、怒りが体の芯を熱く染めていく。


『でもあたし、まだ信じたくない。だからあなた、暴れてきなさい。そっちの怪物、倒して……証明して。』


「……ああ。必ずだ」


 通信が切れる。


 ベヒモスはおかしそうに笑っていた。


「どうした。仲間が死んだってのに……顔色ひとつ変えねぇな」


「……こっちはな、子供たちの前じゃ笑ってなきゃいけねぇ職業なんだよ」


 その瞬間、雷鳴のような音が鳴った。


 《ラムネ・クラッカー》の電撃は最大出力。

 刃の先端から伸びる光が、今度こそベヒモスの肉を深く断ち切った。


「覚悟しろよ、化け物。お前の遊び場は……ここで終わりだ」


 怒りと冷静が共存する声で、シルエットは告げた。


 ベヒモスは、面白そうに笑った。


「いいねぇ……そいつが聞きたかった」


 ──終幕へと向かう地獄の幕が、今、切って落とされた。

 

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