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駄菓子屋まるふくより  作者: ゆめのあと
3章 決戦!地下研究所!編
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31話 Soundless Judgement

再開します。

静寂だった。


 地下研究所の通路。

 先ほどまで戦闘の轟音が響いていた空間に、いまは異様なまでの“静けさ”が漂っている。


 《サイレンス》と《ダスク》──

 音と重力、沈黙と支配。


 二人の異能が、互いの存在を探るように対峙していた。


 「……あなたの力。おそらく空間そのものを捻じ曲げてる。重力か、圧力か、それとも──」


 「分析の早さは評価しよう。だが、音で世界を壊せると思うな」


 「私は世界を壊したいんじゃない。……音の届く距離を、守りたいだけ」


 サイレンスの両手が、わずかに振動した。


 次の瞬間、彼女の指先が宙を弾いた。


 「──《共鳴震域》」


 空間が揺れる。


 目に見えない波動が、ダスクの周囲に収束したかと思うと──爆発的な音圧が床を砕いた。


 「っ……!!」


 ダスクが跳ぶ。


 振動波を躱し、天井近くの梁を蹴って距離を取る。


 「音を……“点”で狙ってくるのか。神経質な力だ」


 「耳を塞いでも無駄よ。これは“空気”じゃなく、“物体”を伝って響くから」


 


 ダスクの手が宙を切る。


 次の瞬間、足元の床が抜けた。


 重力が反転したかのように、サイレンスの身体が持ち上げられる。


 


 「重力圧縮……!」


 


 空間ごと握り潰すような力が襲う。

 骨が軋み、肺が押し潰される。


 だが──


 「……甘い」


 サイレンスの瞳が光った。


 目が赤く発光し、圧縮された空気を“内側から”共振させる。


 「──《内部破砕》!」


 

 不可視の振動が、ダスクの操る空間圧に亀裂を走らせた。


 「……!」


 パキィンッ!


 音を伴って、重力場が崩壊する。


 サイレンスは空中で一回転し、無傷で着地した。


 「やるな。だが……」


 ダスクが指を弾く。


 研究所の壁に埋め込まれたスピーカーが、すべて同時に赤く点滅した。


 「情報は音を伝い、音は支配される。──これは、“静寂の檻”だ」


 サイレンスの身体が硬直する。


 “聞こえない”。


 世界から音が消えた。


 「……! これ……!」


 彼女の世界が無音になる。


 完全な音の遮断。

 まるで鼓膜を剥がされたような感覚が、脳を襲った。


 「音を操る者にとって、沈黙は死と同義。……この空間において、お前はもう“ただの女”だ」


 ダスクが歩を進める。

 彼の能力は重力操作ではなく、空間そのものを支配する力。サイレンスの周囲の空間を支配し、音を消した。


 「このまま黙って……終われるなら、楽だったのに」


 サイレンスは、ふらつきながらも足を踏み出した。


 「けどね。私の名は──《サイレンス》。……音が消えた時こそ、真価を発揮するの」


 彼女の目が淡く発光する。


 “自己共鳴”。


 彼女は、自らの骨伝導を通じて、体内で音を反響させた。音は増幅し、彼女自身を通じて空間全体が振動する。


 「────《無響斬》!!」


 その一撃は、拳から放たれた震動波。


 無音のまま、壁を、空間を、ダスクの制御場を──引き裂いた。


 「な……!」


 ダスクが弾き飛ばされる。

 空間制御が完全に解除され、天井まで叩きつけられる。


 サイレンスは息を荒げたまま、前へ出た。


 「あなたに勝ったところで、何も変わらない。……でも、止めなきゃいけない」



 「ノクターンが……あの人が、もう誰も撃たずに済むように」

 

 ダスクのマスクが、わずかにひび割れた。


 「……“あの男”の名を口にするとはな。……なるほど。貴様は、あの女か」


 「ええ。あの時、ラボの片隅で泣いていた子供。兄を守り一人ぼっちになった妹。でもその子供はもういない。今はもう、彼を恨んでる少女が1人そこにいるだけ」


 彼女の言葉に、ダスクは口元を歪めた。


 


 「感情に生きる者は、必ず敗れる。だが──」


 


 体を起こし、立ち上がる。


 


 「──その音、記録しておこう。……貴様が死んだ時、再生してやる」


 


 「ご自由に。でも、再生する暇なんて与えない」


 


 サイレンスが構える。


 


 空気は震え、だが音はない。


 


 沈黙こそが、彼女の強さ。


「私今、ちょっぴり腹が立ってるの。でもこれは八つ当たりじゃあない。正当な反逆よ。」

 

 そして戦場は、再び──

 無音のまま、燃え上がった。

 

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