表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駄菓子屋まるふくより  作者: ゆめのあと
第2章 襲撃〜地下闘技場編
19/44

18話 作戦会議/影と影

 

「……じゃあ、俺が先にリングに上がる」


 控えめな光を放つ作戦室。

 その中で、コードネーム:ヘッドライトが、低く短く告げた。


 「向こうが一般人を好むなら、俺みたいな中年が出れば目立たず済む。勝ち抜けば興味を持たれる。“上”と繋がるチャンスができるかもしれねぇ」


 「筋肉量的に、戦闘力はトップですしね……」


 グリッチが肩をすくめた。


 「おっさんが主役になる日も、たまにはあっていいよかもね。戦うジジイってのは、映画じゃ人気あるし」


 「ジジイじゃねえ」


 「ハイハイ、“40代のミドルイケおじ”ね」


 そのやりとりに、場が少しだけ和んだ。

 だが、シルエットの表情は変わらない。


 「……その次は俺が行く。

 できれば、観戦エリアに上がれる手段も欲しい。グリッチ、外部との中継はどこまでいける?」


 「現地の通信網は割れてるんだよね。地下では電波制御がかけられてるけど、ルートを一本確保してみたね。会場の監視カメラと繋いで、僕のほうで“観察者”の動きは監視できるはずだね」


 「よし。準備が整ったら即行動だ」


 


 ヴァンプは腕を組みながら、ふと問いかけた。


 「……ノクターンには、連絡しておく?」


 シルエットが小さく首を振る。


 「いや。今は──信じられない」


 


──


 


 彼らが作戦を立てるその日の夜。

 とある高層ビルの最上階。


 都市の明かりがガラスに滲んでいる。

 静かな音楽が流れる応接室に、その男は立っていた。


 ノクターン。


 盲目のスナイパー。

 ピアノ調律師の顔を持つ彼は、いま、黒いスーツで立っている。


 「……約束の時間、ですね」


 部屋の奥から現れたのは、丸太のような腕を持つ異様な巨体の男。

 顔は見えない。だが、存在感が常軌を逸している。


 「報告書は確かに。地下構造、CAINの動き、ユウナの覚醒の兆候……」


 低く響く声。


 「おまえの“忠誠”は信用に値する。では──報酬を与えよう」


 次の瞬間。

 男が差し出した注射器が、ノクターンの手に渡る。


 「これは……?」


 「試作版《視覚再生セラム》。ラプスを流用して作ったものだ。長くは持たん。だが、おまえの求めていた“光”だ」


 ノクターンはしばし沈黙した。


 袖をまくり、ベルトを外し、注射器を使用する。

 それから、ゆっくりとサングラスを外す。

 白濁していた瞳に、静かに涙が浮かんだ。


 「……こんなにも、眩しかったとは」


 巨人の男は何も言わなかった。ただ、背後の壁に消えていく。


 「約束は果たした。次はお前の番だ」


 その瞬間。

 ノクターンの表情からは、感情がすっと消えていた。


 「……CAINの動きは予定通り“穴”に導かれる。

 私の任務は、ここからが本番だ」


 見開かれたその瞳には、微かな光と──深い暗闇が、共に映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ