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95.相応しい刑罰

 


 2074年3月19日


 タカが起訴されてからは、とんとん拍子に事が運んだ。

 ダーク事件から約2週間、異例の早さでタカの処遇が決まる。


 “害刑制度”の告示は、かつての裁判所で、裁判官によって告げられる。

 有罪判決である事は確定だろう。長井が決めた罪状も、同じタイミングで言い渡される。


 今回被告が特定少年で顔と名前が非公開とされ、この様子は一般傍聴は許可されなかった。

 ただし既に顔を知るひかるたちは、傍聴が可能だった。他には一部マスコミと警察関係者。


「なぁ……、ホントに大丈夫なのかよ」


 裁判所の法廷。

 傍聴席で、まさかりさんが小声でひかるに尋ねる。


「ガチで何も用意してねーけど。このままあいつが処刑されちまったら、オレたちの今までの苦労は……」

「大丈夫。大丈夫だって!」


 そう言うひかるの声も、少し震えている。

 タカが面会の時出した指のサイン……、まさか間違えたんじゃないかと、不安もあった。

 でもそんなひかるの心情を察して、タカは強く「俺を信じろ」と言った。……きっと何か、ひかる達の想像を超えた打開策を見つけている筈だ。


「まさかり。今は彼を信じよう」

「信じられねーから言ってるんですけど」

「じーさん……、手を握っテ……」


 エリンギの手が震えている。

 望み通り、じーさんはエリンギの手を握った。


「ど、どうしよウ……。泣きそうだヨ……」

「お前さんは、心配性じゃのぅ……」


 そう言うじーさんも、緊張してふぅと一呼吸ついた。


 まず最初に、長井が検察側の席に着く。

 直後、手錠と腰縄を着けたタカが法廷に入ってきた。


「タ……、糸原くん……」


 3人にとっては、約2週間ぶりとなるタカの姿だった。

 タカはひかるたちの方ではなく、長井の方をチラリと一瞥した。そして物怖じすることなく、所定の位置に立った。


「被告人。貴方の罪は窃盗罪や住居侵入罪のみに留まらず、原告人を陥れ無実の罪を擦り付けようとした、名誉毀損の罪でも問われています。分かっていますね」

「……。はい」


 タカは静かに答えた。

 ひかるは拳を強く握った。


 ――『無実の罪を擦り付けようとした』

 これを肯定する事は、タカにとって屈辱であっただろう。一瞬、苦虫を噛み潰した様な顔をした。


 何で……、そもそもタカがこんな目に。

 タカはただ、お父さんの為に行動を起こしただけなのに。


「貴方の刑の決定人の長井敏郎氏は、貴方の罪に相応しい刑罰を与えました」

「……」


 裁判官は、ガサゴソと紙を開き読んだ。


「糸原高俊を、死刑に処す」

「え……っ」


 ひかるたちは、思わず声を漏らす。

 タカは裁判官をじっと見つめたまま、動かなかった。


 しかし動揺したのは、傍聴席のひかる達だけの様だった。

 ……いや、そもそもこれが当然の結果か。ここにいる人達は、長井が3日で父親の高成を処刑した事を分かっている。同じ判断を下したに過ぎない。


「なん……、何なんだよ! おいっ!」

「まさかりっ」

「この馬鹿野郎ッ! お前が信じろって言ったから……!」

「まさかり、今は静かに……!」

「ウワァァァア……ッ」


 まさかりさんが身を乗り出して激しくタカを罵倒する。エリンギも慟哭し始めた。

 ひかるは激しい動悸を感じ、泣き叫びたいのを必死に堪えていた。


 しかしタカは、こちらを向かなかった。


「また裏切るのかよオレたちを!? このまま死に逃げなんてしたらブッ殺す!」

「傍聴人は静粛に」

「お前! オレ達を何だと思って、もがッ」


 じーさんが無理矢理まさかりさんの口を塞いだ。


「続けてください」


 タカは抑揚をつけずに裁判官に言った。


「え……、『続けて』って……」

「但し」


 場は再び静まり返った。


「執行猶予5ヶ月を加える」

「はぁ!?」


 そして場は先程以上に騒然とした。

 ひかるたちは体の力が抜けてへたり込む。


「執行猶予っテ、つまリ……」

「5ヶ月大人しくしておれば、彼の罪は帳消しになるということじゃ……」

「つまり、釈放……?」


 裁判官は続ける。


「被告はまだ若く、更生の余地があります。今までの怪盗事件で、最大の事件の間隔は約5ヶ月でした。よってそれ以上の間隔を開ければ、更生したと見なす。

 ……との長井氏の判断です」

「り、理由になってないような……」

「でモ、これで糸原くんは帰ってくル……!」


 ひかるはタカを見た。

 タカは口角を上げて、静かにほくそ笑んでいた。


 タカは、最初からこうなることが分かって……!

 どういう訳か知らないけど、これもタカの思惑通りなんだ。


 裁判官が席を立ち上がると、タカは一礼する。

 その間、長井はずっとタカを睨みつけていた。


 ――2人の間に何かあったのかもしれない。おれたちが知らない間に……。


 退廷する際、タカはひかる達をちらりと一瞥した。

 ひかる達が唖然としたままタカを見ていると、タカは……フッと笑った。








___________







 時は数日遡り――。

 2074年3月8日(長井との面会日)


「聞きたくないか? 糸原高成が“12月の国会事件”を起こした理由、動機を」


 面会室。

 ガラス一枚挟んで余裕綽々としている俺に、長井は少し驚いた様だった。


「フフ。まさにそれこそ、今日私が一番聞きたかった事だよ。まさか君の方から教えてくれるなんてね」

「しかし忠告はしておく。これを聞けば、今日からゆっくり眠れなくなるぞ?」

「ん? アッハハハハ!」


 長井は高笑いした。


「それ程面白い動機という事かな? 良いだろう、覚悟は出来てるよ」

「あの事件、黒幕がいる」

「……うん?」

「親父は俺を人質に国会事件を『起こさせられた』。親父自身はあんたに対してこれっぽっちも殺意なんて無かったんだよ。

 本当にあんたを殺したい人間は別にいて、しかもソイツは今度俺にあんたを殺させようとしていた」

「……」


 流石の長井からも、笑みが消えた。


「だが俺はそれを拒絶した。親父と同じ轍を踏むのはゴメンだからな。だから俺はダークという周りくどい手段を取ってあんたを陥れ、コンドルの正体を割り出そうとした……が、失敗した。

 つまり黒幕――コンドルは、俺までダメだったとなれば、今度はどうすると思う?」

「……」

「いい加減自分であんたを殺しに行く。しかも俺の見立てが正しければ、もうコンドルはあんたの喉元に手が届くところにいる」


 長井は苦笑いして、椅子から立ち上がった。

 少しは動揺しているようだ。


「ハハ、よく出来た作り話だ」

「証拠ならある、俺の実家に」

「嘘をつくな。既に君の実家もガサ入れしているが、そんな報告は入っていない」

「そんな易々と見つかる場所に置く訳がないだろ。2階のタンスの下、更に畳の下をめくれ。警察でも何でも使って今すぐ調べさせろ」


 事実だ。

 そこに親父がコンドルとやり取りしていたメールアドレスと、俺宛の封書がある。


「その話が本当だとして。誰なんだ? その黒幕というのは」


 俺は、ほくそ笑んだ。


「分からないか? これが交渉だというのが」

「ほう?」

「そもそもコンドルが親父を脅さなければ、国会事件なんて起きなかった。俺はコンドルを恨んでいるし、捕まえたい。

 そうなれば不本意だが、必然的にあんたを守る事にもなる。利害関係は一致するな?」

「つまり、私の力で君を釈放しろと?」

「害刑制度を使えば何も難しくはないだろ」

「そうしなければ、この場で黒幕の名前を言うつもりはないと」

「くどいな。それが交渉だと言っている」


 長井は舌打ちをして、再び笑みを作り、俺との境界線のガラスに強く手を突いた。


「この私に交渉をしてくるとは、腹立たしい餓鬼だな。本当は今すぐ死刑台に送ってやりたいよ」

「俺はあんたが殺されない様に、配慮してやってるんだが? ハッ、一体どちらが犯罪者なんだか……」

「良いだろう。君の家に黒幕がいるという確かな証拠があれば、事実上の釈放をしよう。その後、君から黒幕の正体を聞き出す方法は……幾らでもある」


 長井は不敵な笑みを浮かべ、面会室から出て行った。


 奴が俺を釈放する手筈はこれで整った。

 だがその後、長井は力づくで俺の口を割りに来る。


 ……勿論、俺も無策では無い。



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