88. 4th DARK the decisive battle ⑧
皆の視線が一斉にひかるに集まる。
ひかるは長井から目を逸らした。
タカが糸原高成の息子だって事、本名を隠していた理由、そして本当の目的――お父さんを操った黒幕を捕まえる事……。
ここで本当のことを全部言えば、少なくとも3人からは、タカが裏切り者だと言う疑惑は晴れるはずだ。
だけどそれが長井にバレるとどうなるか、ひかるには分からない。たぶんタカに不利になる気がする。
それに――。昨日、タカはひかるにこう言った。
『ちゃんと俺の口から説明して、今まで偽名を名乗ってたこと、本当のことを隠してたこと……謝りたい。だから、お前の口からは黙っててくれるか』
タカと、約束したんだ……。
おれからは、言えない……。言っちゃダメだ。
ひかるは奥歯を噛んだ。
長井はその様子を見て、鼻から息を吐いた。
「……言わないか。まぁいいだろう。彼がここに来たら直接尋問するまでだ」
「尋問……!?」
「君達の手で聞き出してもいいし、君達の手で――」
長井は、光線銃を取り出した。
「彼を殺しても良い」
「!?」
「どの道彼が裏切れば、君達が殺されていた。やり返せばいい。そして今後4人とも私の計画に協力してくれると約束すれば、君達はお咎めなしとするよ」
4人は、どうする事も出来ず震えていた。
〜♪
谷田貝の携帯が鳴った。舌打ちして応答する。
「何だよ、今イイトコだってのによォ! ……アァ? ニュースを見ろ? 何が……、ハァァァァァ!?」
谷田貝が大きな声で叫ぶと、長井がしかめ面で言う。
「何だ谷田貝、騒々しいぞ」
「総理。これはかなーり予想外の展開だぜ……? 全員ニュース見ろよ。トップニュースだ」
谷田貝が苦笑いして言うと、皆怪訝な顔でニュースを見始めた。
ひかる達もエリンギの端末を囲んでニュースを見始め、その内容に驚愕する。
「な……、何じゃこれは!」
「どういう事だよ……」
「うそ……」
「何デ……?」
どこの局も、臨時ニュースだった。
画面の女性レポーターが、早口で喋る。
その背景は、長井邸。
「……はい、繰り返します。
こちら首相公邸、3日23時18分、怪盗ダークが現行犯逮捕されました」
静まりかえる工場内。
誰も言葉を発することが出来ずに、ただ画面に釘付けになっていた。
「情報によりますと、ダークの正体は18歳の少年だそうです」
「18歳ですか!?」
「はい、少年法に基づき18歳は特定少年とされ、現時点では氏名は非公開とされていますが……。
関係者の話によりますと、DKが現れ少年に何か薬物を投与し、少年は現在意識がないということです」
「その薬物とは、まだ何か分かっていないんですか?」
「はい、現在調査中ということですが……。あ、今、少年が運ばれてきました!」
報道陣や警官がぎゅうぎゅうにひしめき合っている中に、担架が運ばれて来た。
担架の上にいる人物の全身は布で隠されていたが、ひかるたちはタカだと確信した。
大量のフラッシュを浴びながら、タカは救急車に運ばれて行った。一緒に青山が乗り込むのも見えた。
「しかしDKはどこに行ったのでしょう?」
「現在逃走中とのことで、警察が全力で捜査をしています。目撃者に情報を呼びかけていますが、そのような不審人物は報告されていません」
「今総理はどちらに?」
「当時長井総理は外出中で、現在××市で公務中ということですが……」
~♪
その長井の携帯が鳴った。
「もしもし、あぁ私だ。……そうか、奴の本名が分かったか」
ハッとして、4人は長井を見る。
電話でダークの本名を聞いた長井は、手で顔を覆い笑った。
「ハハハ……、ハハハハハッ! そういう事か! 全部理解した。合点もいった。分かった、ありがとう。そちらは任せる」
通話を切った長井は、満面の笑みで4人に向き直った。
「喜べ。全部分かったぞ。彼の正体も、成し得たい事も」
「え……」
「教えてやろう。奴は国会事件の犯人の、実の息子だ」
「!?」
3人は、言葉を失った。
ひかるは何も言えず、俯くしかなかった。
「成程、それなら事件の動画を持っていた事も合点がいく。父親が犯行に及ぶ事を知っていたんだな?
だが父親は私を殺す事を失敗した……。最終的な目的は復讐か? あの動画を流した後、父親の意志を継いでどうにか私を殺そうとしていたのだな!?」
「ち……」
ひかるは『違う』と言いかけて止めた。ここで否定すれば、長井は全力で聞き出してくるだろう。
黒幕の存在を、自分の口から明かして良いのか……。それはひかるでは判断がつかなかった。タカとの約束もある。
「君達は本当に哀れだな。純粋に世界を変えたいという気持ちは、ただ彼に利用されていただけなんだよ!
私を殺す、そのために……!」
「そんナ……」
「フフフ、面白くなってきた。ずっと知りたかったんだよ、国会事件を起こした糸原高成の動機を。それを聞くまで、彼は死なせられないな」
長井は踵を返し、出口の方へ歩き出した。
「彼がここに来れないなら、解散だ。今日の所は帰りなさい。だが、私はいつでも君たちのことを見ている。逃げようとは思うな。
平野の始末の計画が出来次第指示を出す。それと、警察に君達がダークであると露見しないようにはしておきなさい」
「おいおい待てよ、総理」
長井の背中を呼び止めたのは、意外にも谷田貝だった。
「確かに糸原はもうここには来れねぇ。だが二時間経ってもここに来なければこいつらを殺すと、あんた言ったよなぁ?」
谷田貝はヘラヘラとしながら長井に近づいた。
ひかるたちは恐怖に怯えた。
「例えDKに糸原が殺されたとしても、とまで付け加えた。約束は守らねーとなぁ? 憎たらしい糸原クンになめられるぜ」
「だがもう奴は檻の中。私の手中にいる」
「甘いな。糸原は過去三度もダークを成功させたんだぜぇ? こいつらがいなくなれば、さすがの糸原も手の打ちようがない。
平野が云々よりも、不安要素は早急に消しておくのが得策だと思うけどなぁ、オレは」
「……」
2人は暫く睨み合った。
「谷田貝、君は暴力団だが、人を殺したことがあるかな?」
「あ?」
谷田貝は、少し躊躇った。
「……間接的になら、あるぜ」
「そうか、だが私は一般人。君のような血も涙もない暴力団とは違う。私には大して恨みもないような、それも4人もまとめて殺す度胸はない」
「……既に2人も手にかけているのにか?」
「あれは正当防衛だ。天谷を撃ってしまったのは誤射だ。私だって自分のやった事に、心を痛めているよ」
長井は谷田貝の横をすり抜けて歩き出す。
「……誤射、ねぇ」
平然と言う長井に、谷田貝は苦笑いした。
「で? 糸原高成の動機を聞き出した後は、息子の方は処刑かぁ?」
「さぁね……、ここに来たら彼は秘密裏に処分する筈だったが、ダークとして公的に逮捕されてしまった……。私は先程配信で『ダークを支持する』旨発言してしまったからね。
父親の時と違って考える時間は幾らでもある。安直に死刑にはしない」
長井は、ほくそ笑んだ。
「だが彼はもう既に私の掌の上。どう使い倒してから捨てるか……処分についてはじっくり検討するよ」
長井は廃工場から去った。
谷田貝は何か不満げに舌打ちした。
「おい、帰るぞ」
そして谷田貝も部下を引き連れ、出て行った。
残されたひかるたちは、暫く呆然としていた。
「ひかる……」
エリンギが震えた声で尋ねた。
「知ってたラ教えテ……。タカの、本当の名前……」
「っ……」
ひかるの声も、震えた。
そして彼の名を、恐る恐る口に出した。
「たかとし……。糸原、高俊」
「ウゥ……ッ」
エリンギは泣き崩れた。
ゴツンと鈍い音を立てて、まさかりさんは額を床にぶつけて絶叫した。
「畜生ぉ! ふざけんなーッ!!」
じーさんは俯いて顔を覆ったまま、動かなかった。
4人は暫く、各々啜り泣いた。




