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84. 4th DARK the decisive battle ④



「……は?」


 政府広報。

 それは女性の声で、穏やかに語りかけてきた。


『近頃、特定の個人を攻撃する内容のフェイク動画が出回っています。

 嘘偽りを流し、無実の人物を犯罪者に仕立て上げ、大衆に晒し社会的に抹殺する事が目的です。

 これから一部流すのは、その代表的な精巧に作られたフェイク動画です』


 画面が切り替わった。

 国会事件の動画だ。ただし、モザイクがかかっている。

 顔面モザイクのかかった長井が、モザイクのかかった親父を撃つ瞬間が数秒――いや、一瞬流れた。

 一瞬でも人が殺される瞬間は、強烈なインパクトを残した。


「……何だこれは」


 俺はそれを、唖然として見ていた。


『このようにあたかも実際あったかのように事実を湾曲し、特定の無実の人を陥れる行為は名誉毀損罪に処される可能性があり、刑事告訴されれば害刑制度を通し罰せられます。例え匿名での拡散でも、警察は貴方の携帯端末を簡単に探知することができ――』


「何だこれはッ!?」


 突如不意打ちのように流れた、政府の広告。

 対岸の火事として傍観していた野次馬達に、突如『これを見た事でお前も共犯になるぞ』という、脅迫まがいの文言。

 こうして彼等の口を塞ごうと言う魂胆か。


 ……いや、この広告の意図はそれだけではない……。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という事に、意義がある。


 俺は狼狽え、怒鳴る事しかできなかった。

 これは……、こんなモノが、ダークの動画の前に流れたという事は――。


「タカ!? この広告が終わったらすぐ配信になル! どうすル!?」

「ッ……!」

「タカ!」

「高英!」


 エリンギとまさかりさんが叫んだ。

 ちょっと待て。こんなモノが流れた後に、ダークが国会事件の動画を流したらどうなる!?

 あの動画を、“フェイク動画”と何度も……!


『国民の皆さんは、このような誤った情報に惑わされ、気付かぬ間に犯罪に加担してしまわないよう、気をつけましょう』


「タカ! 流れるヨ!?」


 こんな……っ、こんな一瞬で判断なんて……!


『以上、政府広報でした』


 広告が終わった。

 すぐさま配信が始まり、1億人超の視聴者の前に、ダークの――動揺している俺が映った。


「っ……!」


 俺は、慌てて小型ドローンを手で覆った。

 画面は暗闇に包まれる。


「……止めろ」

「タカ……」

「止めろ!」


 配信が、止まった。


 ……。

 

「はぁ……、はぁ……ッ」


 静まり返った大広間内に、動悸が激しくなる俺の息遣いだけが響く。


 ……頭が、真っ白だ。

 配信を止めて良かったのか? あのまま国会事件の動画を流していたら、どうなった?

 それすらもすぐに判断がつかない。


 そんな事よりも、明確な事実がある。


 長井に、先手を打たれた。

 これは、つまり、


 裏切り者が、また裏切った。


 ……何だったんだ。

 ちゃぶ台を囲んで、5分間、思いの丈を語り合って、涙流して、硬く手を重ね合って。

 皆が強く「タカに協力する」と言ってくれて。

 あの時間は、何だったのか。

 あれ程完璧なまでに表情に出さず、嘘に嘘を重ねた狡猾な人間があの中にいるというのか。


 俺は、心の底から、アイツらのことを信じていたのに。


 ……本当に、人間不信になる。


「きゃあッ!!」


 無線から、ひかるの悲鳴が響いた。


「ひかる……!?」

「タカ! マズい! わしらの場所が――」


 じーさんの声が、途中で途切れた。


「おいっ、じーさん!!」


 そして一瞬間を置いて、無線から声がした。


「よぉ。久しぶりぃ、ダークのリーダー」


 ……谷田貝。


 あぁ、そうか。もう。

 この作戦も、俺たちの場所も、何もかも。

 奴等に筒抜けだ。


「ククク、まさかミミズちゃんを2度も拉致る事になるとはよぉ……。あ、じーさんもな。数奇な運命だ。この後また会えるのを楽しみにしてるぜぇ?

 あとオレの部下達が、金太郎とマイケルも迎えに行ってるぜ」

「っ……! まさかりさん! エリンギッ!」

「やべぇ、囲まれたッ!」


 2人はパーキングの車内にいる。

 無線からまさかりさんの焦燥した声と、エリンギの泣き声が聞こえる。ガンガンと、何かを叩く音も。


「窓ガラスが破られる……! 高英! 今すぐそこから逃げろッ! オレのPCが落ちたら、無線も爆弾も、乗っ取ってるセキュリティシステムも全部解除される! お前も逃げられなくなる!」

「っ……!」

「早く! 高ふ――」


 無線の電源が落ちた。

 何も聞こえなくなった。


 邸内の防犯ブザーの音がけたたましく鳴る。


 俺は、息も忘れて立ちすくんだ。

 政府広報が流れて、僅か1分。瞬きする程の一瞬の内に、気づけば四面楚歌となっていた。


 ――本当に、1人になった。


 無線が何も聞こえない。

 作戦決行下で、当然だがそんな事は初めてだ。

 ワチャワチャと緊張感のない会話が、あんなに煩いと思っていたのに。こんなに……静かな事が不安になるなんて。

 1人という事実に、心臓が激しく波打つ。嫌な汗が止まらない。


 ……どうする?

 俺まで捕まってしまえば、4人を助けるのに交渉の術すら無くなる。

 まさかりさんの援護なしで逃げられるか分からないが、一か八か――。


 その時。大広間の中央のモニターの電源がついた。

 先程のダークの動画部屋だ。何も配信されずに1分が経過し、視聴者数は3,000万人程まで減っていた。

 その動画に、突如、和やかな長井の顔が映った。


「……!?」


『皆さん、こんばんは。内閣総理大臣・長井敏朗です。皆さんダークの活劇に期待を寄せて集まられたと思いますが、何かしらトラブルがあったようです。

 その際は()()()()()()()()()()()()()使()()()()()と言われています。

 折角大勢の方にお集まり頂いているので、この場を借りて私からお話をさせて頂きます』


 ――とんでもない嘘を吐き出した。

 あぁ、折角これだけの人が集まっているのに、長井としても何もしない訳がない。


 この動画は、録画だろう。

 俺は何も出来ず、呆然とそれを見た。


 視聴者数の減少が止まった。


『ダークは今の日本の行き先を憂う皆様の、希望の光であったでしょう。彼は皆様の悲鳴を具現化した存在であった。

 それは我々政治家の怠慢が招いた結果です。皆様の生活を不安にさせている事、深くお詫び申し上げます』


 動画内の長井は、深く頭を下げた。

 ……何なんだコイツは。ダークの配信する筈だった場所で、何をしようとしている?


『私はダークのやり方――盗みを犯す事には感心はしませんが、困っている皆さんを救いたいという姿勢には、強く共感し支持します。

 そこでその意を汲んで、今後長井政権は、大規模な減税の政策を行う事をお約束します』


「な……っ」


 ダークが敵だと明言していた長井が、ダークに共感する者達の前で、ダークに『共感し支持』する。

 愚鈍な者は、ただ減税の響きに躍らされるだけだろうが。

 長井を嫌う者には、長井がイメージアップの為に言っているとしか思えないだろう。

 しかもここは、ダークが配信する筈だった動画内。長井は自分の発言を『ダークに許可を得ている』とまで(当然嘘だが)宣言した。

 つまりダークは長井の為の、客寄せパンダにされた。アンチ長井の人々は、自分は何を見せられているんだと憤る。


 ダークは長井の“犬”となった。

 長井を嫌う者にとって、ダークを希望の星だと思っていた者にとって、これは最大の裏切りだ。

 今後、彼等はダークの言う事に耳を貸さなくなる。

 もう二度と、1億人もダークの配信に人は集まらない。


「……」


 ……ここまで、叩きのめされるとは。

 今後、立ち直る脚すら折られたようだ。

 完膚なき、敗北、か。


 その後長井はにこやかに挨拶を終え、配信は終了した。

 しかしその直後、大広間のモニターに再び長井が映った。


「初めまして。木谷高英くん」



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