83. 4th DARK the decisive battle ③
――長井邸の一部を爆破するだと!?
敷地内には入った青山だったが、どうにか邸内に入れないものかと周りの探索を始めていた。
邸内からのダークの声は聞こえた。
早く大広間に行かないと、このままでは爆破に巻き込まれるかもしれない……!
これは、強行手段を使うしかない。
建物の周りをぐるりと走って、青山は2階のバルコニーのある場所に立った。すぐ側に木がある。
青山は息を吐いて、手首を回した。
そして木をよじ登り、バルコニーへと飛び移った。――運動神経がずば抜けて高い青山にしかできない芸当だ。
窓ガラスは当然鍵が掛かっている。
……怒られるかもしれないが、ダークが侵入しているのは確実なので後で言い訳出来るだろう。
と心の中で言い訳して、青山は窓ガラスの鍵の近くを光線銃で撃ち抜いた。
ガラスに熱で穴が空く。指を慎重に入れ、鍵を開けた。
部屋の中に侵入しても、防犯ブザーは鳴らない。これはダークのハッカーのお陰だろう。
青山は早足で大広間に向かった。
【22時58分――予告時間2分前】
なんとか、間に合った。
少し息を切らせて大広間に辿り着いた青山は、扉を少しだけ静かに開けて中を見る。
数人の使用人と、既にダーク――糸原が大広間の中央に立っているではないか。
ここで、動画を配信する気か。
どうする? 今確保すべきか? 奴が事を起こすまでは待ちたい所だが、爆破は阻止せねば――。
しかし、一体何が目的だ?
長井邸を一部爆破するだけじゃ、何の埒も明かないだろうに。
それに見たところ、大広間内に長井はいない。公開殺人ではなさそうなので、そこはホッとしているが。
では、糸原高俊は今ここで何を成そうとしているのか?
父親の復讐……殺しでなければ――。
ふと、青山はファミレスでの会話を思い出した。
『……驚かないのか?』
『驚いてる』
『いや、思ったよりリアクション薄かったから……』
……冷静だった。父親が無実の罪で濡れ衣を着させられているという事実を、明かした割には。
まさか。あの時既に糸原は、国会事件の真相を知っていた……?
そして今しようとしているのは、全世界に向けての
動画配信――。
「……!!」
青山は、糸原が今からやろうとしている事を唐突に理解した。
そして……、全てが終わるまで静観すべきだと、悟った。
青山も志は同じだ。今青山が糸原を妨害する理由は、ない。
___________
――さぁ。いよいよだ。
【22時57分――予告時間3分前】
予告時間前ではあるが(予告時間は動画配信の開始時刻だ)俺――仮面を被ったダークは長井邸大広間に足を踏み入れた。
かつてパーティ会場だった華やかさはなく、ただ大理石の白い空間。
その真ん中に巨大なモニターが置かれているのが目に入ったが……別にあっておかしいモノではない。気にも留めなかった。
中には既に先ほどの放送で集まった使用人が、10人程。
見た限り、長井はいない。同居している筈の夫人も……いない。
夫人までこの時間に不在か。ただの外出だと良いのだが。少しだけ胸がざわついたが……杞憂であって欲しい。
使用人達は俺を見て、戦々恐々としているのか――壁際に立ちすくみ誰も近寄って来ない。
俺は大広間の中央に堂々と立った。
ポケットから、手のひらサイズの小型ドローンを取り出し、スイッチを入れる。
手から離れると、空中で静止した――いわば三脚の要らないカメラだ。
俺は使用人たちに聞こえないように、小声で無線に声をかける。
「エリンギ、空撮は?」
「準備出来てるヨ」
エリンギはドローンで長井邸の爆破を空撮する。
リアルタイムでの爆破で、野次馬達にこの配信が本物のダークである事を証拠づける為だ。
そして動画の配信担当もエリンギだ(まさかりさんはハッカーとしての役割でオーバーワークだ)。
「それよりタカ、動画部屋の待機人数が、凄いことニ……!」
【22時58分――予告時間2分前】
俺はエリンギの言葉で、腕時計式の小さなタブレットで動画部屋を確認した。
思わず、笑った。
既に、5,000万人。
しかも、物凄い速度でまだまだ増え続けている。
「ス、すごイ……! タカの言ってた1,000万どころじゃないヨ……!」
「すごい! タカ、本当に凄いよ!? 世界的なアーティストでも、こんな数集まらないよ!?」
「過去3回の活躍が功を奏したのぅ……!」
「す、すげー! これ1億人行くんじゃね!?」
2074年。世界の人口は約100億人。
幼子以外は貧困地域でも一人一台、何かしらの通信機器を持つ時代だ。
ダークの存在は、世界中の人間が知っている。
そして一つの娯楽として、俺たちの命懸けの闘いを見物する。
――まさかこれから、とある事件の証人になるとは知らずに。
【22時59分――予告時間1分前】
8,000万人を超えた。
このペースだと、あと1分で本当に1億人を超える。
「フフフ……ッ」
俺は思わず、顔を押さえて腹を抱えた。
「アハハ……ッ、アッハハハハハ!!」
これが、笑わずにいられるか!?
ここまで、長井からは何の妨害もない。
全てが面白い程作戦通りだ。
もう、動画の配信自体は妨害出来ない。
仮に運営サイト側で強制終了させられたとしても、すぐに別の部屋で配信を再開し、視聴者もそのままスライドさせる準備はして来ている。
勝ち確だ。
武者震いすらしてくる。
あの日、全てに絶望したあの日から、1年と3ヶ月。
一介の地方の高校生だった俺が、国の暴挙を相手にここまでやったぞ。
長かった。本当にここまで来るのに四苦八苦した。だけど俺の苦しみを、絶望を、悲憤を、ようやっと世間に叫ぶ事が出来る。
皆が親父の悲運に胸を詰まらせ共感してくれる。きっとこれで、俺も報われる。もう誰にも、優しかった親父の事を殺人犯なんて呼ばせない。
本当に裏切り者が俺たちの味方について、偽の作戦を長井にリークしてくれたようだ。
アイツらを信じて、良かった。
【予告40秒前――】
「1億! 超えタ!!」
「おおおおお!!」
4人の歓声があがると、俺の気持ちも昂る。
――上から見てろ、親父。
終わりだ長井。お前の息の根を、今止める。
【予告30秒前――】
「タカ! 30秒前! 準備ヲ――」
次の瞬間――。
カウントダウンが始まっていた動画の画面が、突然切り替わった。
広告だ。
『政府広報です』




