81. 4th DARK the decisive battle ①
『the decisive battle』はダークと警察の視点分けはしません。
2074年3月3日
21時過ぎ
さくら号
支度は全て整った。
荷物をレンタカーに詰め込み終え、エリンギがふぅと息を吐く。
本隊と撹乱隊で2台だ。
ちなみにレンタカーの入手手口は、前回と同様である。
「……つーか。何で軽借りたんだよ」
車の中を見て、まさかりさんが眉を顰めた。
思ったより荷物が場所を取っている。
今回宝石を盗む訳ではないので、ダークに利益はない。むしろ小道具の用意で赤字なのだ。
経費は、5人で割り勘になる。
前回一人300万貰ってる訳だから、それくらい許せよ。と俺が言うのに、まさかりさんは渋々従った。
「準備出来たヨ」
さくら号の玄関に、全員が集った。
俺は腕時計を見る。
「行こう」
「ア、その前二。いつもノ、やってないよネ」
エリンギが口を挟んだ。
「おぉ。そうじゃの」
「んじゃ、気合い入れやりますか!」
5人は肩を組んで円陣を作った。
4回目。もう……違和感や羞恥心は感じない。あまりに自然に円陣に組み込まれて、俺は苦笑いした。
「えーっト。掛け声ハ……」
「順番的には、タカかひかるじゃの」
俺とひかるは顔を見合うと、ひかるは拳を出した。
「じゃんけんしよ。勝った方が言う」
「……ガキか?」
「良いじゃん。緊張ほぐれるし」
「じゃあ俺は、グーを出す」
俺がニヤリと笑うと、ひかるも笑い返した。
「分かった。いくよ〜……。じゃんけんポン!」
俺がグー。ひかるがパー。
「やったー!」
「ひかる、大人げね〜」
「おれまだ17歳だもんね〜。大人じゃないもん」
皆が笑うと、少し緊張がほぐれた。
さくら号の玄関は、いつもの芳香剤の香りがする。この変わらない香りが少しだけ、俺の緊張を和らげた。
ひかるは天を仰ぎ、その空気を吸って、吐いた。そして何かを決意したように、円陣の中央に向き直る。
「……じゃあ、言います。おれは正直、裏切り者の存在がまだ信じられない。信じられないけど……、でも。タカの言うことは正しいと思う」
「……」
4人は静かに聞いていた。
「だからそれからずっとおれ、みんなのこと人間観察してたんだ。……ごめんね、観察とか言って……」
「まぁ……、仕方ねーよな」
まさかりさんがうんうんと頷いた。
「オレも高英の言葉聞いて、お前らのこと、全く疑わなかった訳じゃねーし……」
じーさんとエリンギは唇を噛んで下を向いていた。
でも、とひかるが続ける。
「だから分かった。この中に、タカが言った後者の酷薄な裏切り者はいないって」
「……!」
「だからみんな自信を持って! このダークは絶対に成功する。駄目だと思ったら、負けだよ」
「ひかる……」
もちろん、ひかるの言ったことは根拠のないことだ。しかし皆、ひかるの心遣いをちゃんと感じ取った。
俺は4人の顔を見た。皆、穏やかな顔をしている。
……大丈夫だ。
「成功率は50%も、も、あるんじゃ。高確率じゃないか」
「そうだネ。ボクは全然心配してないヨ」
「嘘つけ、おめーが一番ビビりだろ」
まさかりさんの悪態に、皆が笑みをこぼす。
「じゃあ……、掛け声行くよ」
「うン」
ひかるは息を吸って吐いて、更に大きく吸った。
「行くぞーーー!!」
「おおーッ!!」
「お? 何か急に男勝りになったような」
「はは……、なんか部活のテンションが出て来ちゃって」
「青春じゃのぅ……」
俺たちは談笑しながら、各々2台の車に乗り込んだ。
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……その様子を、青山は遠く離れた場所から双眼鏡で眺めていた。
ダークの予告時間の約1時間半前。しかも5人同時の外出。中々良い時間だ。
「これは本当に大当たりかもな……」
青山はニヤけながら、5人が車に乗り込むのを見届ける。その瞬間の写真も収めた。
2台に分かれたが、元より青山の狙いは糸原。彼が乗った方を記憶した。
彼らの車が発進してから、青山は冷静に自分の車に乗り込む。そして助手席に置いたパソコンの画面を覗き込んだ。
青山は彼らの車に、彼らの目を盗んで発信機をつけていたのだ。だから焦って尾行することはない。むしろ尾行がバレるのは避けたい。
「さて……、どこに行くかな」
発信機から送られて来る情報は、青山の期待を裏切らなかった。
糸原の乗った車は長井邸の方面へ、もう一台はイエロージュエリーの方向へ向かっている。
「やっぱり、長井邸か……」
捜査本部に連絡を入れるのは、奴が尻尾を出してからだ。
パソコンの画面をもう一度一瞥して、青山はゆっくりと長井邸の方へアクセルを踏んだ。
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俺・まさかりさん・エリンギが乗る本隊の車。
俺たちはマスクと帽子を深く被っている。前回のイエロージュエリーの時もそうだが、車の移動の時の基本だ。
警察は道路の監視カメラで車内の人間の顔をチェックできる。後々アリバイを証明する時に、こうして顔が割れないよう予防しておくと役立つ。
「……なぁ、高英」
後部座席で俺の隣に座るまさかりさんが、口を開いた。
運転席のエリンギと、無線でひかるとじーさんにも聞こえている。
「もし……、もしだけどよ。本当に裏切り者が裏切ったら……、その時はどうする?」
「……今それ聞くか?」
「いや……だってよ……」
俺は失笑した。
本当は皆、ずっと聞きたかった事だろう。だけど誰もそれを聞かなかった。それは、限りなく作戦の失敗を意味するから。怖くて聞けなかった、のだろう。
「杞憂だ、心配するな。この作戦は失敗しない」
「……」
「裏切り者は裏切らない、だろ? 俺もお前らを信じてる」
……そうではない。
裏切り者が裏切ったなら、この作戦は長井に筒抜けである。そうであれば、長井は必ず対策を練ってくる。
そうなってしまえば、ハッキリ言って打つ手無しだ。少数精鋭の俺たちに出来ることは、奇襲しかない。
でもそれをここで言って、皆の不安を煽るべきではない。
「珍しいのぅ、まさかりが弱音を吐くなんて」
無線の先でじーさんが少し笑って言った。
「そうだよ……。大丈夫だよ」
「悪ぃ、弱気発言して……。けどエリンギ、お前の方が大丈夫か?」
運転してるエリンギは、ずっと黙っている。
「手が震えてるぜ。事故んなよ」
「今事故したら洒落にならないぞ」
「わ、分かってるヨ……。けど、緊張しすぎテ……」
「エリンギ、わしの方が手が震えとる。実は車の運転5年ぶりくらいなんじゃ」
「えぇ!? 怖いよじーさん! 聞かなきゃ良かった!」
同乗するひかるが悲鳴をあげると、皆が笑った。
突然、まさかりさんが俺の肩を組んで言った。
「オレもお前の事信頼してるからな。相棒」
「は? いつから相棒になったんだ? 最近距離感の詰め方おかしくないか?」
「うるせーよ。お前の事ちょっと好きになっちまったんだよ」
「はぁ!? 気色悪いな! 離れろ!」
「いーじゃねーか、緊張ほぐさせろよ相棒!」
「イイなぁ……、ボクも混ぜてそのワチャワチャ」
「まさかりさん? あまりタカにくっつかないでね?」
「ほはほ、そっちのチームは程よい緊張感でいいのぅ……」
俺とまさかりさんが後部座席で戯れていると、エリンギが苦笑いで言った。
「タカ、まさかりさん。もう着くヨ、長井邸」
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【22時23分――予告時間まであと37分】
長井邸近くのコインパーキング。
俺だけ荷物を持って降り、まさかりさんとエリンギは待機だ。
「タカ、頑張っテ」
エリンギが拳を突き出す。
「は?」
「グータッチだヨ」
「そういうの恥ずかしい」
「いーかラ」
エリンギは俺の腕を掴んで、半ば強引に拳をぶつけた。
「じゃあオレも」
そのまま俺とエリンギの拳に、まさかりさんも拳を突き合わせる。
「……じゃあ、作戦通りに」
「おう」
「いってらっしゃイ」
俺は長井邸の塀に向かって小走りで行く。
前回侵入した場所と、ほぼ同じ場所。
「防犯カメラとセキュリティシステム、乗っ取り完了。高英、侵入できるぜ」
「分かった」
さすがまさかりさん、仕事が早い。
俺は巡回している警官がいないのを確認して、フックを使って塀をよじ登り、荷物を慎重に運び出した。
庭を突っ切り、非常口のロックもまさかりさんが解除し、悠々と邸内に侵入する。
……簡単すぎる。前回と同じ手口なのに。
どっちだ。『本当に作戦がバレてない』のか、『敢えて侵入し易くしてくれてる』のか……。
邸内の人間と出会わないように、監視カメラをまさかりさんが見ながら指示をくれる。俺はその通りに走った。
しかしそもそも邸内にいる人間が少ない。時間帯のせいだとは思うが。
目的の手洗い場に辿り着いた。
その便所の一つに、小型爆弾を仕掛ける。
……今いる邸内の西側のみ、吹き飛ばす威力だ。
「まさかりさん、作動したか?」
「オッケー。問題無し」
俺はその横で、ダークの衣装に着替え始めた。




