表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/156

79.決死の作戦

 


 4度目の作戦会議は続く。


「そして予告状は先程イエロージュエリーに送りつけると言ったが、もう一つ。

 まさかりさん、SNSのアカウントの乗っ取りは出来るか?」

「おぅ……、やろうと思えば」

「国内外の主要メディアのアカウントを乗っ取り、同時刻に予告状を拡散する。

 そしてここに動画サイト――ダークの公開犯罪が見られるようリンクを貼り、世界中の野次馬達を誘導する」

「……!」


 俺はほくそ笑んだ。


「見たいだろ? 過去3回鮮やかに盗み出した、大怪盗ダークのリアルタイム盗難劇は」

「見たいかモ……!」

「事前に時刻を予告しておけば、世界中から必ず野次馬たちが集まる。目標は同接(同時接続者数)最低1,000万人」

「1,000万人……。もしそれを達成しちゃったラ、動画配信のリアルタイム同接記録を更新しちゃうネ」

「長井の手が及ぶ国内のみだとダメだ。世界中の人間が騒げば、警察も動かざるを得なくなる」

「タカ、事前にその動画部屋を通知するということは、警察の妨害を受ける可能性はないかの? サイトにアクセス出来ないようにするとか……」


 じーさんが初めて突っ込んだ。


「……そこはまさかりさんの腕の見せ所だ」

「投げやりじゃねーか」

「それに警察がそこに関して妨害する可能性は低いと見ている。ダークが何をどこで仕出かすか明確でない以上、奴等にとっても動画は捜査のヒントになるからな」

「成程……」

「次に日時の話だ」


 俺は卓上カレンダーに、大きく丸をつけた。


「3月3日23時。理由は2つ。まずこの日は土曜日だ。土曜の夜なら大人は見易く、子どもの目には触れにくいだろう。

 そして俺が狙うのは世界と言ったな。世界と言っても一番は、米国だと思っている」


 エリンギが目を見開いた。


「何故なら動画サイトのユーザーが一番多いからだ。市場規模は日本の何倍もある。

 ニューヨークなら日本との時差は14時間。東京が23時なら向こうは朝9時。しかも土曜日。アジア圏なら言わずもがな夜も始まった頃だし、ヨーロッパなら夕方。一番世界が起きている時間だろう」

「そうだネ……」

「理由はもう一つ。夜の方がよく映えるからだ」

「何が?」

「動画内で、長井邸の一部を爆破する」

「えぇ!?」

「本物のダークの犯行でかつリアルタイム配信だと証拠づける為に、長井邸から動画を回す。合成じゃない事を証明するのに手取り早いのが、爆破だ。ドローン空撮をするのに、爆破が映えるのは夜だろ?」

「タカが『バエ』を気にするなんテ……」

「好きだろ? 動画映え。特にSNS好きなひかるとエリンギ辺りは」

「爆破を『バエ』にする発想はなかったけど……」


 皆がクスリと笑うと、少し和んだ。


「当日の動きだが。今回、二手に分かれるぞ。俺・まさかりさん・エリンギの本隊と、ひかる・じーさんの撹乱隊だ」

「おぉ……、それは新しいのぅ」

「じーさん、免許持ってるよな。普通車なら運転できるな?」

「普通の運転なら。エリンギみたいにテクニカルな事は出来んが」

「ボクも車の運転はフツーだヨ……」

「イエロージュエリーがある銀座から、長井邸のある永田町まで、車でおよそ10分。俺たち本隊が長井邸で動画を回している間、警察が来れないように時間を稼ぐのが撹乱隊の仕事だ」

「大事な仕事だね」

「あぁ。今から具体的な動きを説明するが、どうする? 休憩を挟むか? ここまでずっと話してきて、怒ったり泣いたりして、疲れただろ……」


 時刻は既に日付を跨ごうとしている。

 正直、疲れているのは俺なのだが。


「今、やっちまおーぜ。この色んな気持ちが冷めねー内に」

「そうじゃの。ここまで来たら、全て聞いておきたい」

「……分かった」


 俺は一息ついて、静かに作戦の説明を始めた。







___________







「……これで俺の手の内は全て明かした」


 全てを話し終えた頃には、深夜1時になった。

 俺も含め皆クタクタだったが、全員が真剣に最後まで話し合った。


「これで俺やダークの命運は、裏切り者に託された訳だ」

「……」

「何度も言うが、俺は裏切り者は前者の――本当は脅されているだけで、俺たちを裏切るつもりはなかったと、そういう考えだと賭けた。だから全員に作戦を話した」

「……うん」

「いいかお前ら、よく考えろ。さっきも言ったが今回の作戦の成功率は50%だ。成功率は過去三回に比べると格段に低い。文字通り、決死の作戦だ。失敗すれば何らかの制裁が待っている」

「……分かってるよ」

「しかも今回は盗まない。利益はゼロどころか、経費で赤字だ。それにやり方も綺麗じゃない。長井邸を爆破して、人が死ぬ動画を流す。ヒーローらしくない」


 まさかりさんとエリンギに言ったが、俺はその顔を見れずに俯いた。

 俺はちゃぶ台の上で両手の指を組んだ。その手が、少し震える。


「……逃げたい奴は、逃げていい。それで足を引っ張ることはないし、俺もそいつが裏切り者だとは疑わない。もし誰かが欠けた時は、また作戦を考え直すまでだ」

「え……」


 皆が驚いた様に、目を見開いた。


「そっか、そうだよね……」


 ひかるが、恐る恐る聞く。


「次が、最後のダークって事になるんだよね?」


 他の3人も、固唾を呑んで俺の目を見た。


「長井から全てを奪うという、ダークの最終目的を果たす訳だろ。それに、逃げた奴にまた召集はかけられない」


 俺はフッと笑ってみせたが、4人の口からは言葉が出なかった。


「次が最後、か……」


 やっとのことで、まさかりさんが呟いた。


「なんカ……、これでイロイロな困難から救われるって考えるト、気が楽になるようにも思えるけド……」

「寂しい気もするのぉ……」


 じーさんとエリンギが、感慨深そうにため息をついた。


「タカ」


 ひかるが、俺の震える手の上に自分の手を乗せた。


「おれは一つも迷わないよ。これまでと一緒。タカを一人で戦わせないよ」


 俺はひかるの手の暖かさを感じつつ、口元を綻ばせた。

 ……やっぱり、俺の言葉に真っ先に同調してくれるのは、いつもコイツだ。


 エリンギが俺とひかるの手の上に、更に手を重ねた。


「ボクは、長井を倒してみんなが幸せになるっていう目的ヲ、自分の手で果たしたいかラ。タカだけに任せておけないヨ」


 じーさんも、手を重ねた。


「わしはの、ダークの行く末を最後まで見守りたいんじゃ。途中で投げ捨てるようじゃいかんじゃろ。そんなじじぃじゃ、島根の孫にも顔向けできんわ」


 まさかりさんはこほんと咳払いをして、一番上に手を重ねた。


「そもそも、高英くん。誰が爆弾仕入れて、どうやって長井邸の中に侵入するんだよ。一人で大丈夫なんて、ウソだろぉ?」

「……バレたか」


 俺は苦笑いでごまかす。


「見くびんなよ? さすがにそこまでバカじゃねーよ。だがしかしっ。今回は特別に、オレ様も力を貸してやるよ、特別に」


 まさかりさんがニヤリと不敵に笑った。

 俺も笑い返す。


「その言葉……、信じるからな」


 皆の手の暖かさと重みを感じて、正直、少し、泣きそうだ。


 コイツらと一緒なら、本当に上手くいく気がする。

 実際過去3回上手くいった。だから次も。


 ()()()なら、長井を倒せる。

 絶対に。







___________






 

 同日


 パワフルは泣きながら帰ってきたけいを抱きしめながら、ダークと決別した話を聞いた。


「あの子……、そんな酷い事言ったの」


 パワフルは、タカに対して強い怒りが湧いた。

 しかしけいは、頭を振った。


「タカは……悪くないよ」

「……」

「お母さん……どうしてダークの事、敵に言っちゃったの?」

「ケイトのためよ」

「何で!? おれがダークの事大好きだって知ってたよね? 何でそんな酷い事するの?」


 パワフルはけいから目を背けて、話題を変えた。


「ケイトは、どうしてそんなにタカくんの事が好きなの?」

「え……、どうしてって……。カッコいいから」

「え?」

「小学校でみんな言ってるよ。『ダークカッコいい』って。おれね、みんなには秘密だけど、心の中ではすっごい自慢なんだ。おれもダークの一員だって」

「……」

「特にタカはね、ダークを作った人だから。言うこともやる事も本当にカッコよくて、頭も良くて、みんなの頼れるリーダーで……。

 おれもね、大きくなったらタカみたいにカッコいい男になりたいんだ。だからずっと側にいたい……」

「……。もし、もしも……。タカくんが死んでしまったら、どうする……?」


 けいは、目を見開いてパワフルを見た。


「どうして、そんな事言うの……?」

「……もしもの話よ」


 けいは、抱きしめていたパワフルを突き飛ばした。


「嘘でもそんな事言わないでよ!」

「ケイト……」

「お母さんなんて大嫌い!」


 けいは、泣きながら自室に入り扉を閉めた。


「何言ってるのよ私……」


 パワフルは自分の顔を抑え、大きなため息を吐いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ