79.決死の作戦
4度目の作戦会議は続く。
「そして予告状は先程イエロージュエリーに送りつけると言ったが、もう一つ。
まさかりさん、SNSのアカウントの乗っ取りは出来るか?」
「おぅ……、やろうと思えば」
「国内外の主要メディアのアカウントを乗っ取り、同時刻に予告状を拡散する。
そしてここに動画サイト――ダークの公開犯罪が見られるようリンクを貼り、世界中の野次馬達を誘導する」
「……!」
俺はほくそ笑んだ。
「見たいだろ? 過去3回鮮やかに盗み出した、大怪盗ダークのリアルタイム盗難劇は」
「見たいかモ……!」
「事前に時刻を予告しておけば、世界中から必ず野次馬たちが集まる。目標は同接(同時接続者数)最低1,000万人」
「1,000万人……。もしそれを達成しちゃったラ、動画配信のリアルタイム同接記録を更新しちゃうネ」
「長井の手が及ぶ国内のみだとダメだ。世界中の人間が騒げば、警察も動かざるを得なくなる」
「タカ、事前にその動画部屋を通知するということは、警察の妨害を受ける可能性はないかの? サイトにアクセス出来ないようにするとか……」
じーさんが初めて突っ込んだ。
「……そこはまさかりさんの腕の見せ所だ」
「投げやりじゃねーか」
「それに警察がそこに関して妨害する可能性は低いと見ている。ダークが何をどこで仕出かすか明確でない以上、奴等にとっても動画は捜査のヒントになるからな」
「成程……」
「次に日時の話だ」
俺は卓上カレンダーに、大きく丸をつけた。
「3月3日23時。理由は2つ。まずこの日は土曜日だ。土曜の夜なら大人は見易く、子どもの目には触れにくいだろう。
そして俺が狙うのは世界と言ったな。世界と言っても一番は、米国だと思っている」
エリンギが目を見開いた。
「何故なら動画サイトのユーザーが一番多いからだ。市場規模は日本の何倍もある。
ニューヨークなら日本との時差は14時間。東京が23時なら向こうは朝9時。しかも土曜日。アジア圏なら言わずもがな夜も始まった頃だし、ヨーロッパなら夕方。一番世界が起きている時間だろう」
「そうだネ……」
「理由はもう一つ。夜の方がよく映えるからだ」
「何が?」
「動画内で、長井邸の一部を爆破する」
「えぇ!?」
「本物のダークの犯行でかつリアルタイム配信だと証拠づける為に、長井邸から動画を回す。合成じゃない事を証明するのに手取り早いのが、爆破だ。ドローン空撮をするのに、爆破が映えるのは夜だろ?」
「タカが『バエ』を気にするなんテ……」
「好きだろ? 動画映え。特にSNS好きなひかるとエリンギ辺りは」
「爆破を『バエ』にする発想はなかったけど……」
皆がクスリと笑うと、少し和んだ。
「当日の動きだが。今回、二手に分かれるぞ。俺・まさかりさん・エリンギの本隊と、ひかる・じーさんの撹乱隊だ」
「おぉ……、それは新しいのぅ」
「じーさん、免許持ってるよな。普通車なら運転できるな?」
「普通の運転なら。エリンギみたいにテクニカルな事は出来んが」
「ボクも車の運転はフツーだヨ……」
「イエロージュエリーがある銀座から、長井邸のある永田町まで、車でおよそ10分。俺たち本隊が長井邸で動画を回している間、警察が来れないように時間を稼ぐのが撹乱隊の仕事だ」
「大事な仕事だね」
「あぁ。今から具体的な動きを説明するが、どうする? 休憩を挟むか? ここまでずっと話してきて、怒ったり泣いたりして、疲れただろ……」
時刻は既に日付を跨ごうとしている。
正直、疲れているのは俺なのだが。
「今、やっちまおーぜ。この色んな気持ちが冷めねー内に」
「そうじゃの。ここまで来たら、全て聞いておきたい」
「……分かった」
俺は一息ついて、静かに作戦の説明を始めた。
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「……これで俺の手の内は全て明かした」
全てを話し終えた頃には、深夜1時になった。
俺も含め皆クタクタだったが、全員が真剣に最後まで話し合った。
「これで俺やダークの命運は、裏切り者に託された訳だ」
「……」
「何度も言うが、俺は裏切り者は前者の――本当は脅されているだけで、俺たちを裏切るつもりはなかったと、そういう考えだと賭けた。だから全員に作戦を話した」
「……うん」
「いいかお前ら、よく考えろ。さっきも言ったが今回の作戦の成功率は50%だ。成功率は過去三回に比べると格段に低い。文字通り、決死の作戦だ。失敗すれば何らかの制裁が待っている」
「……分かってるよ」
「しかも今回は盗まない。利益はゼロどころか、経費で赤字だ。それにやり方も綺麗じゃない。長井邸を爆破して、人が死ぬ動画を流す。ヒーローらしくない」
まさかりさんとエリンギに言ったが、俺はその顔を見れずに俯いた。
俺はちゃぶ台の上で両手の指を組んだ。その手が、少し震える。
「……逃げたい奴は、逃げていい。それで足を引っ張ることはないし、俺もそいつが裏切り者だとは疑わない。もし誰かが欠けた時は、また作戦を考え直すまでだ」
「え……」
皆が驚いた様に、目を見開いた。
「そっか、そうだよね……」
ひかるが、恐る恐る聞く。
「次が、最後のダークって事になるんだよね?」
他の3人も、固唾を呑んで俺の目を見た。
「長井から全てを奪うという、ダークの最終目的を果たす訳だろ。それに、逃げた奴にまた召集はかけられない」
俺はフッと笑ってみせたが、4人の口からは言葉が出なかった。
「次が最後、か……」
やっとのことで、まさかりさんが呟いた。
「なんカ……、これでイロイロな困難から救われるって考えるト、気が楽になるようにも思えるけド……」
「寂しい気もするのぉ……」
じーさんとエリンギが、感慨深そうにため息をついた。
「タカ」
ひかるが、俺の震える手の上に自分の手を乗せた。
「おれは一つも迷わないよ。これまでと一緒。タカを一人で戦わせないよ」
俺はひかるの手の暖かさを感じつつ、口元を綻ばせた。
……やっぱり、俺の言葉に真っ先に同調してくれるのは、いつもコイツだ。
エリンギが俺とひかるの手の上に、更に手を重ねた。
「ボクは、長井を倒してみんなが幸せになるっていう目的ヲ、自分の手で果たしたいかラ。タカだけに任せておけないヨ」
じーさんも、手を重ねた。
「わしはの、ダークの行く末を最後まで見守りたいんじゃ。途中で投げ捨てるようじゃいかんじゃろ。そんなじじぃじゃ、島根の孫にも顔向けできんわ」
まさかりさんはこほんと咳払いをして、一番上に手を重ねた。
「そもそも、高英くん。誰が爆弾仕入れて、どうやって長井邸の中に侵入するんだよ。一人で大丈夫なんて、ウソだろぉ?」
「……バレたか」
俺は苦笑いでごまかす。
「見くびんなよ? さすがにそこまでバカじゃねーよ。だがしかしっ。今回は特別に、オレ様も力を貸してやるよ、特別に」
まさかりさんがニヤリと不敵に笑った。
俺も笑い返す。
「その言葉……、信じるからな」
皆の手の暖かさと重みを感じて、正直、少し、泣きそうだ。
コイツらと一緒なら、本当に上手くいく気がする。
実際過去3回上手くいった。だから次も。
俺たちなら、長井を倒せる。
絶対に。
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同日
パワフルは泣きながら帰ってきたけいを抱きしめながら、ダークと決別した話を聞いた。
「あの子……、そんな酷い事言ったの」
パワフルは、タカに対して強い怒りが湧いた。
しかしけいは、頭を振った。
「タカは……悪くないよ」
「……」
「お母さん……どうしてダークの事、敵に言っちゃったの?」
「ケイトのためよ」
「何で!? おれがダークの事大好きだって知ってたよね? 何でそんな酷い事するの?」
パワフルはけいから目を背けて、話題を変えた。
「ケイトは、どうしてそんなにタカくんの事が好きなの?」
「え……、どうしてって……。カッコいいから」
「え?」
「小学校でみんな言ってるよ。『ダークカッコいい』って。おれね、みんなには秘密だけど、心の中ではすっごい自慢なんだ。おれもダークの一員だって」
「……」
「特にタカはね、ダークを作った人だから。言うこともやる事も本当にカッコよくて、頭も良くて、みんなの頼れるリーダーで……。
おれもね、大きくなったらタカみたいにカッコいい男になりたいんだ。だからずっと側にいたい……」
「……。もし、もしも……。タカくんが死んでしまったら、どうする……?」
けいは、目を見開いてパワフルを見た。
「どうして、そんな事言うの……?」
「……もしもの話よ」
けいは、抱きしめていたパワフルを突き飛ばした。
「嘘でもそんな事言わないでよ!」
「ケイト……」
「お母さんなんて大嫌い!」
けいは、泣きながら自室に入り扉を閉めた。
「何言ってるのよ私……」
パワフルは自分の顔を抑え、大きなため息を吐いた。




