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7.能あるタカは爪を隠す

 



「……カイトウ?」


 皆、開いた口が塞がらない。


「……エ? 快投?」

「いや、解答?」

「違う、解党だろ」

「全部違うじゃろ」


 まとめて突っ込むじーさん。

 そして俺を向いて言った。


「窃盗の……怪盗、か?」

「そう。怪盗」


 依然として薄ら笑いを浮かべる俺に、皆が不審な顔をしていた。

 ひかるは引き攣った顔で言う。


「はは、タカも冗談言うんだね……」

「俺が冗談を言うように見えるか?」

「……見えません……」

「分かっタ! “怪盗ブラック”ダ!」

「うわっ、お前それの影響か!? 幼稚だなー」


 はははと笑うまさかりさんに、俺の薄ら笑いは一瞬消える。


「……図星かよ。ウケる」

「それで、長井と怪盗は何の関係があるんじゃ?」


 唯一、興味津々なじーさん。


「長井を狙って、世間に怪盗が長井の敵であることをアピールする。すると怪盗の元には多くの関心が集まる。

 奴が最も恐れるのは過去の不正が暴露されることだ。怪盗が不特定多数の人から信頼され世界からの注目を集めたところで、奴の不正を暴露し叩き潰す」

「お前簡単に言うよな……」


 呆れるまさかりさん。

 エリンギも、苦笑い。

 じーさんだけが、ただ何を言うでもなく頷いている。


「でもサ、ブラックみたいにグライダー使ったりとカ、屋根の上走り回るとか絶対ムリだヨ」


 半信半疑のエリンギが問う。


「うん。確かに」

「そんな現実離れしたことをする訳がない」

「だよネ」

「じゃあ、どーすんのさ」

「ひかる、お前には言ったハズだ」

「え?」


 キョトンとした顔でひかるの顔を覗く3人。

 ひかるもキョトンとしている。


「エリンギ、お前戦車やヘリ操縦出来るって言ってたな」

「エ? うん。家にあるかラ、小さいころから庭で運転して遊んでタ」

「庭広っ!?」

「いや、突っ込むところそこじゃないと思うよ」

「じーさん。あんたのコスプレ……変装のできは認める」

「おぉ、タカに褒められるとうれしいのぅ」

「まさかりさん、あんたハッキング出来るな」

「ばっ、出来ねーよ!」


 は? と俺は眉を潜める。


「出来ねーつぅか、やったことねーし! やること自体犯罪だぞ!?」

「……なんだ、そういうことか」

「そういうことだよ!」


 それなら想定内だ。


「ひかる、お前の足の速さも認める」

「ほんとっ!?」


 ひかるは目を輝かせて喜んだ。


「わし、ひかるが走ったの見たことないの……」

「そういえバ……。じゃ、タカは見たことあるんダ?」

「おれ見せたっけ?」

「……まぁな」


 さくら号に来る前だけどな。


「これで完璧だ」

「……いやいや、余計訳分かんないし」

「怪盗と関係ねーだろ」

「そんなことはない。むしろ大アリだ」

「だから訳わかんねー」

「聞くか? 俺の作った作戦を」


 その言葉に、皆目を丸くする。


「あるの……? もう、そういう計画が」

「根拠もなしに怪盗やろうなどと言わない」

「だよね……」


 俺は自分のベッドから、丸められた1枚の紙を手にする。


「その前に……、基本から説明したい」

「基本?」

「怪盗の、基本だ。まず俺たち5人が怪盗することについて」


 5人は卓袱台を囲んで、俺の話に聞き入る。


「5人でやると言っても、怪盗が5人できるわけじゃない」

「5人で一人の怪盗、というわけじゃな?」

「そう」


 やはり話が一番早いのはじーさんだ。

 ふーんと、さぞ興味もなさそうに相槌するまさかりさん。


「何としても、1人を演じるんだ。警察の追手や捜査を混乱させられる」

「なるほど……?」


 ひかるがへの字の口をするのを見て、俺はこいつが理解出来てない事を悟った。


「まぁやれば分かる。2つ、人間を殺さない。傷つけない」

「と、当然だヨ!」

「ただし気絶させるのはあり。重傷にならない程度に」

「まジ……」


 怪訝な顔のエリンギ。


「しかしのぅ……。あまり怪盗が暴力的だとかっこがつかんのぅ」

「確かに……。怪盗っていったら、目的のものを鮮やかに盗みだして、誰をも傷つけることなく、余裕を持って笑って逃げ去る。……ってイメージあるよ?」

「うン。そうじゃなきゃかっこよくないよネ」

「ブラックも誰も傷つけねーしな」

「その通り。だから、その役を作ればいい」

「役?」

「まぁこれも……、やれば分かる」


 またもや、皆腑に落ちない顔をしている。


「最後、俺たちの目的は長井総理の不正を暴き潰すこと」

「なんかスケールでけー」

「だから長井か、長井の身辺の人間しか狙わない」

「……なるほど」


 皆、それだけは納得いったようだ。


「分かったか。これが怪盗の基本的なルールだ」

「はーい」

「それを踏まえて、説明するぞ」


 俺はようやく、手に持っていた紙を卓袱台の上に広げた。


「なにこれ……?」

「誰かの家?」

「長井邸の見取り図だ」

「長井邸!?」


 長井邸=首相公邸のこと。

 長井が総理になってから、立て直したことでこの名前がついた。


「よく見つけたな、これ」

「インターネットで素人の俺でも手に入る。改築に多額の税金をかけたんだ、公開されなきゃ批判あびるだろ。長井のお友達の金持ちからも」

「そりゃそうか……」


 紙の上には何色かでたくさんの線が引いてある。

 これは各個人の動きを示している。


「やるとしたら、この長井邸で盗む」

「い、いきなりここなんだ……」

「予定は5月5日、こどもの日」

「ゴールデンウィーク? またどうして」

「その日が、長井と夫人の結婚記念日だからだ」

「へぇ……?」

「当日、長井邸でパーティをするらしい」

「なんで知ってんだよ」

「……これだ」


 俺は携帯をテレビに同期させて、画面を映した。


「長井のブログだ。パーティをする旨と、招待客を募っている。無論、誰でも参加出来る訳じゃないだろうが」

「セキュリティ、ガバガバじゃねーか……」

「長井邸内なら強襲されないという自信があるんだろ。実際警備システムは固い。……で、当日夫人にティアラをプレゼントするらしい」

「それもブログに書いてあるノ?」

「いや、それはこれだ」


 画面を変える。ニュース記事だ。


「4日前の、“首相動静”だ」

「なにそれ」

「読んでみろ」

「『19時11分。宝石店“イエロージュエリー”にて、ダイヤモンドのティアラを購入。結婚記念日が近いため、夫人へのプレゼントとの事』」

「なにこれ、めっちゃプライベートじゃん」

「総理も大変じゃの……」


 感情のない言葉で、じーさんはぽつりと呟いた。

 俺は携帯をしまって続ける。


「本題に入るぞ」

「え? まだ本題じゃなかった?」

「一番問題なのは、いかに怪盗らしく盗むかだろ。今から作戦を説明する」


 俺は今度こそ、長井邸の見取り図を使って説明を始めた。

 引いてある線をなぞり、4人の目がそれを追う。

 始めは冗談だと思っていた奴等も、徐々に真剣な表情になっていく。


 俺は、本気で事を成すぞ。





___________






「――これで全てが上手くいく」


 4人は息をするのも忘れて、俺の顔と指を交互に見入っていた。


「すごい……」


 ひかるは思わず感嘆の声を出す。


「さすがタカじゃの。会った時から知的なオーラは感じておったが、本物じゃった」


 じーさんも納得して頷く。


「よク考えつくネ……、感心するヨ」


 エリンギは苦笑い。


「高英、これを聞く限り、オレたち全員参加しなきゃなんねーように聞こえるんだけど」


 腕を組んで、顔をしかめて言うまさかりさん。

 それを見て、俺は首を傾げた。


「そのつもりで言ったんだが?」

「ざっけんな!」


 まさかりさんは板が割れるんじゃないかと思うくらい、激しく卓袱台を叩いた。

 物凄い剣幕のまさかりさんを前にしても、俺はピクリとも表情を変えなかった。


「オレはやらねーからな!」




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