表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/156

69.卑劣な拷問

 


 その夜。

 ひかるの奪還に成功したさくら号は、喜びのあまり夜が更けても眠ることはなかった。


 ひかるの熱は下がっていないが、それ以上に皆と話したくて堪らないようで、嬉しそうに談笑していた。

 俺を除く4人は卓袱台を囲んで、この2週間を埋めるような勢いで笑いあった。楽しい話だけをしていた。ダークや喧嘩の話は暗黙の了解でタブーだった。


 俺はひかるの横でその会話を聞いていたが、会話には入らなかった。

 とても笑える気持ちになれなかった。


 コイツらは、気付いているかいないのか……。

 今、ダークは絶望的な窮地に立たされている。


『平野を殺せ』と言う長井と、『長井を潰せ』と言うコンドル。

 この両者の間で板挟みになっているダーク。

 どちらに従おうとも、背いた方からの報復が待っている。


 おまけに谷田貝は、俺とまさかりさんが殴り合いの喧嘩をしたことまで知っていた。

 ……この3人の中に、未だ情報を流している奴がいるという事だ。


 その裏切り者を締め出すまで、今後ダークの作戦を含め、さくら号の会話は全て奴等に筒抜けると思った方がいい……。


 ひかるを助けられて、めでたしじゃない。

 悪夢だ。


 裏切り者が分かったとしても。もう俺たちの素性は知られている。逆らえば殺られる。常に長井に、喉元に銃口を押し付けられている状態だ。

 ……こんなの、もう詰んでいるではないか……。


 俺は、無邪気に笑うまさかりさん・エリンギ・じーさんの顔を見た。

 本当にコイツらの中に、長井に精通している奴がいるのか?

 信じられない……、信じたくない。


「あレ、タカもダークのエゴサしてるノ?」


 いつの間にか俺の横にいたエリンギが、俺の携帯を覗き見た。

 俺はまた、ダークに対する世間の……世界の反応を見ていた。


「勝手に見るな」

「見えちゃったんだもンー」

「何だよ、高英もオレと同じ事してるのかよ〜。マジでスゲーよな。今じゃ世界のどの国でもダークがトップニュースだ。承認欲求爆上がり〜」


 その通り。世界中の注目は前回に比べてかなり上がった。

 災い転じて福となす……と言うべきか。長井狙いだったのが平野に狙いを変え謎を呼んだ事で、逆に更に注目を集めたようだった。

 ……世界から見れば、長井か平野かという話はまさに対岸の火事で、どうでもいいことなのだろうが。


 ダークを追う刑事に化けて逃走した、というシナリオも気に入られたようだ。

 今、世界中がダークの話題で持ちきりである。


「まさかり、お前さんそんなの気にしとるんか」

「当たり前だろ? 今じゃオレたちダークは世界中の人気者だ。エリンギもみんなのヒーローになりたかったんだろ?」

「うン。ボクらは今、日本のみんなの希望の光になってル。これは御曹司のお金の力だけじゃできなかった事だからネ。誇りに思うヨ。ダークを生み出して誘ってくれたタカに、感謝してるくらいだヨ」

「……」


 ……感謝している場合か。まだ何も終わってないのに。

 本当に、コイツら今のダークの状況が分かってない。


「で、タカ。世界の反応はどうなの?」


 唯一、全てを知るひかるが尋ねる。

 俺の最終計画。“12月の国会事件”の真相の動画を世界中に流す。ダークの注目を集めた今、頃合いだ。

 そもそも俺は最初から、大体3回作戦を成功させたら、と決めていた。


 ……だが長井にそれを知られたら先手を打たれ、全てが水泡に帰するかもしれない。

 裏切り者の疑惑が晴れない限り、この計画を3人に話すことすらできない。


 それでもひかるだけは裏切りの線はない、筈だ。

 ひかるだけは、谷田貝が知っていた俺とまさかりさんの喧嘩を知らなかった。何より誘拐され監禁されるという苦渋を嘗めている。


 俺はひかるの目を見て言った。


「上々だ」

「……そっか」


 しかしひかるは、俺から目を逸らし俯いた。


「あのさ。大事な話があるんだ……」


 声色を変えたひかるに、笑っていた皆の表情が変わった。


「……いい? 空気変えて」

「……おう」


 ……喧嘩の話か。

 しかし、コイツらの前で話すのか?

 国会事件に纏わる話はここですべきではない事は、ひかるは分かっている筈だが。


「……まずは、きちんと謝らないとって思って。おれが誘拐されたせいで、ダークの立場一気に悪くさせちゃったよね。おれにはまだ、事の重大さがどれだけ大きいのか把握出来てないけど。

 ご迷惑をおかけしました。ごめんなさい。……ごめんなさいじゃ、済まないとは思うけど」

「謝る事じゃないぞひかる。お前さんは何一つ悪くないじゃろ」

「ううん……。それで、こんなおれをこんなに暖かく迎えてくれて、本当にありがとう。罪悪感も感じちゃうけど……、嬉しい」

「……うン」

「ははっ、何辛気臭くなってんだよ。ひかる、そんなの当たり前だろ。お前もだけど、何回ダークやってると思ってんの」

「うん……」


 ひかるは目に涙を溜め、俯いている。


「……結論から言うと、さ……。

 おれ、さくら号から、出て行くね」

「えぇ!?」


 3人が驚いて叫ぶ。

 俺はぶっきらぼうに即答した。


「バカ、絶対出て行くな。行かせない」

「えええぇぇ!?!?」


 今度はひかるを含め4人が声をあげる。

 ひかるは口をポカンと開けて、目をパチクリさせた。


「な、何で……? タカが出て行けって言ったじゃん……」

「状況が変わったんだよ。お前含め俺たち全員、長井に顔と名前を把握されている。国外にでも逃げない限り、どこだろうと奴の手中だ。それなら俺の目が届く場所に居ろ。また今回みたいな事になるだろ」

「でもタカ、おれの事嫌いなんでしょ……?」


 ひかるは今にも泣きそうだ。

 おい……、それをこの3人の前で言うのは卑怯だろ……。


「ひかる、何でそう思うんじゃ?」

「だって、タカがハッキリそう言ったんだもん……」

「お前っ! なんて事言いやがる!?」

「タカ酷いヨ……」


 ホラ……、4対1になっただろ……。

 お前病院で、俺の事を悪者にしないって言わなかったか?


「嫌いだったら、おれなんてどうなっても良いじゃん」

「良くない。お前がいなかったらダークの足はどうなる」

「でも今回、おれがいなくても成功させたよね? じゃあおれいなくていいじゃん……」

「今回はたまたま、青山に追いつかれればいい作戦だったんだよ。そうじゃなかったら」


 追いつかれていた。と言いかけて、飲み込んだ。


「……とにかく、さくら号にいる以上は部外者でいさせる訳にはいかない」

「じゃあ、おれまたダークに戻っていいってコト……?」

「……そうだよ」


 クソ。言わされた。


「タカ……色々、矛盾してるよ」

「何が」

「おれの事本当に嫌いだったら、病院になんて付き添ってくれない」

「……」

「倒れそうになった時支えてくれないし、熱があるからっておでこ触ってくれない……」


 ひかるの顔が段々赤くなってきた。熱が上がったのか?

 他の3人は何故か口を手で覆い、ニマニマしている。


「喧嘩したきっかけの作戦も。いつものタカだったら、あんな作戦組まない。おれがしくじったからって、わざわざ成功率を下げるような作戦……今まであんな事しなかったのに」

「だから、何が言いたいんだ」

「……おれの勘違いだったら、すっごい恥ずかしいんだけど……。おれのこと嫌いって言ったのも、さくら号から出て行けって言ったのも……」


 ひかるは俯いて、消え入りそうな声で言った。


「おれを、守るため?」

「……」

「……エ?」

「お?」

「あぁ〜っ!!」


 俺が何かを言い返す前に、まさかりさんが突然声をあげた。


「そうだった! ひかる聞けよ! こいつ作戦中青山に背負い投げされたんだけどな、『投げられたのがひかるじゃなくて俺で良かった』って言ったんだぜ!?」

「えっ!?」

「だからそうは言ってないだろ!?」

「確かに……。ひかるを守るためかのぅ。そう言われてみれば、色々辻褄が合うの……」

「ムフフ。タカ〜? ソウナノ〜?」

「違うっ」

「認めろ高英! 今ここで全部吐け!」

「死んでも言うかっ!!」

「エリンギ! 抑えろ!」

「ラジャー!」


 俺が慌てて逃げようとすると、まさかりさんとエリンギに羽交い締めにされて畳に押し付けられる。


「バカ! 離せッ!」

「ほほほ。ほほほほほ。楽しくなってきたの〜」


 じーさんが不適な笑みを浮かべて、俺に歩み寄る。


「わしはの、タカ。変装の技術を習得する為、人間のあらゆるツボや神経の研究もしとるんじゃ……」


 そう言って、じーさんはゆっくりと俺の靴下を脱がせた。


「な、何を……」

「見なさい。これがわしのリーサル・ウェポン。羽ペンこしょこしょ」

「おぉ〜。じーさんゲスいぜ」

「これはタカと言えども耐えられないネ」


 じーさんの手には、柔らかそうな羽ペンが……。

 ちょっと待て。本当に待て。

 俺はこれだけは、本当に無理だ。大の苦手だ。


「ひかる! 助けろっ」


 しかしひかるも、悪魔的な笑みで俺を見ていた。


「やだ。おれ、この事で2週間散々悩んだんだから。酷い事言われた仕返しだよね」

「お前がそんな腹黒だとは思わなかったぞ!?」


 羽ペンが足の裏をくすぐる。


「こしょこしょ〜」

「やめ……っ、あは……ははは……っ」

「ぷぷっ、効いてる! すげー!」

「タカのこんなアヘ顔、初めて見たヨ」

「ひ……ッ、分かった! 認めるからやめろ! これは本当に無理だ! あはははは……ッ」

「エー、認めるの早〜」

「ひかるサン、どうします?」

「え、もっと見たいです」

「ひかる! この裏切り者!!」

「タカ……ひかるがそう言うなら、残念じゃが諦めるんじゃ……」

「じーさ……、あはは……ッ、くそ……っ」


 このバカだが卑劣な拷問は10分くらい続いた。

 俺は気絶しそうなくらい、強制的に笑わされた。


 コイツら、俺にこんな事して一生恨んでやる……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ