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61. 3rd DARK inside ①

 


 2073年12月23日(ダーク作戦前日)

 午後


「こんにちは!」


 小学校5年生の加藤智也(かとうともや)は、祖父の友治(ともはる)と共に、宝石店イエロージュエリーを訪れていた。

 智也が従業員の一人に明るく挨拶すると、従業員も微笑んで挨拶を返した。


「あの、事前に電話していた加藤と申しますが――」

「あぁ、見学されるんですよね」

「はい、そうです」

「係りの者を呼びますので、お待ちください」

「ありがとうございます!」


 智也は大きな声でお礼を言った。


 ほとんどの小学校は、冬休みに入っている頃である。

 智也の学校では社会科自由研究の宿題を課されており、内容は『地域の会社・企業を調べてみよう!』というものである。

 そして智也はイエロージュエリーを調査することに決め、今から建物の全てを案内してもらうことになっていた。


 智也はカメラで、しっかりと入口から何度も撮影していた。


「お待たせしました」


 係員は若い女性だった。


「じゃあ智也くん、まずはショールームに行きましょうか」

「はーい!」

「お祖父さまも見学なさいますか?」

「あ、いや、わしは待っとります」


 智也をお願いしますと、友治は小さく会釈した。


「わしの出番……これだけか」


 彼は一人、苦笑いした。


 智也は係員の女性に連れられ、まずはショールームの写真を取る。

 続いて非常口をパシャリ。

 他の客をパシャリ。


「あ、他のお客様は撮らないでね!」


 叱られたので消す。

 天井をパシャリ。

 便所をパシャリ。


 小学生が従業員のすぐ横でシャッターを切っていたので、誰も不審に思うことはなかった。

 そして智也は、いよいよスタッフオンリーの扉の奥へと足を踏み入れることになった。


「ここがオフィスです」

「おー!」


 智也は可能な限り大きなリアクションを取り、オフィスの隅から隅までシャッターを切り始める。


 そして係員は次の部屋の扉の前で、何やらパスワードを打っているらしかった。

 係員は意図して智也の視界を覆うように背中を向けた。

 ……どちらにしろ、智也の身長では何を打っているのかなんて見えないのだが。


 重厚な扉が重々しく開く。


「おぉーっ! すっごーーい!!」


 智也は最大級のリアクションを取った。


 その部屋は、ショールームの、宝石の入っているショーケースの鍵が保管されている“鍵庫”だった。

 智也の視界一杯に、数え切れない鍵が映った。


「すっごいや! 鍵ばっかし」


 智也は念入りに、上から下までシャッターを切り続けた。恐らくこれまでで、一番多い枚数を取っていたに違いない。


「智也くん。そんなにたくさん取って、何に使うの?」


 待ちくたびれた係員が智也に尋ねると、智也はにかっと笑って言った。


「うん。この写真を繋げてね、この部屋がどれだけ大きいか分かってもらおうと思って!」


 無邪気に笑う智也に、係員も思わず頬が緩んだ。







________________







「やるとは思ってたけど、鍵庫だけで軽く100枚撮ってるぜこいつ」


 さくら号でまさかりさんは、けいが撮って帰ったカメラのメモリーを見て、苦笑した。


「要領余分に入るやつにしといてよかったぜ」

「だってほんとに楽しかったよ! ほんとにいい社会科見学だった! レポートにまとめたいくらい」


 けいはじーさんに変装メイクを落としてもらいながら、興奮気味に言った。


「いーよなお前は気楽で。オレはお前らがいない間最悪だった」

「何がじゃ」

「エリンギは今日どーしても学校行かなきゃって留守にしてたから、オレは高英と2人だけだった!」

「何か話したかの?」

「何も! 可能な限りあいつの顔は見たくねーし。あーこういう時ひかるがいれば和んだのによー」


 まさかりさんは自分のPCを起動し、メモリーカードを差し込んだ。


「けい、じーさん。ご苦労」

「あ、タカー。楽しかったよーっ」


 俺はコーヒーのカップを持って、キッチンから3人の前に顔を出す。


「どうだまさかりさん」

「うるせ、今やってる」


 まさかりさんはけいが取った写真を、画面の中でパズルのように組み立てていく。


「厄介なのは距離感がバラバラなことだが、いや、枚数が多いおかげで助かった。けい、見ろよ」

「おぉー! こんな感じ!」


 写真は4枚に組み立てられ、ちょうど鍵庫の壁四面の写真になった。


「で、これをいじると」


 まさかりさんは写真の一部を拡大していく。

 一つの鍵が画面全体に映し出されると、鍵番号が分かるまで鮮明に映し出された。


「すごいのぉ」

「これはかなり根気のいる作業だな……。高英。鍵番号、なんだっけ」

「“R6223”」

「かーっ。ホントに感謝しろよなオレに」


 ぶつくさ言いながら、まさかりさんは手を動かしていた。







______________







 2073年12月24日

 19時24分


 ホテルの駐車場にレンタカーを止め、変装したエリンギとじーさんはイエロージュエリーに隣接するルビーホテルへと向かった。

 エリンギは髪を黒く染め、じーさんの変装によって日本人の顔に様変わりしている。どこからどう見ても、2人は祖父と孫にしか見えない。


 ルビーホテルは予約必須の人気ホテルだ。

 クリスマスイブでイベントを開催しているのもあり、この日は超満員だった。


原田大輝(はらだだいき)です」

「原田様ですね。こちらの鍵をどうぞ」


 じーさんは手袋をしたまま鍵を受け取った。部屋は、予約する際にこちらから指定した部屋である。

 イエロージュエリーに一番近い部屋で、イエロージュエリーの屋上と部屋のベランダの高さがほぼ同じ高さの部屋。

 それが312号室。


 遅れること数分。

 フロントに、メガネを掛けた大学生くらいの男が現れた。――俺の変装だ。


岩田文哉(いわたふみや)です」

「岩田様ですね。こちらのお部屋になっております」


 俺に指定されたのは、じーさん達とは階も違う部屋だった。

 手袋を着けたまま鍵を受け取り、部屋に上がる。

 俺の部屋には本当に泊まるための荷物を置き、鍵を掛け、ダークセットだけを持ってじーさんの部屋に行った。


 俺の姿を誰にも見られていないことを確認しつつ、じーさん達の部屋の扉を二度叩く。

 じーさんは覗き穴から岩田文哉の顔を確認すると、静かに俺を中へ入れた。


「指紋は付けてないだろうな」

「抜かりはないぞ」

「後にこの部屋は百パーセント警察に調べあげられる。証拠は一切残すな」


 じーさんを先導に部屋の奥へ入ると、奥には原田輝樹(はらだてるき)――エリンギが落ち着かない様子で歩き回っていた。


「ウォ、誰カト思っタラ、タカダッタ」

「エリンギ、いつもの数倍片言になってるぜ」


 無線からまさかりさんが突っ込む。

 まさかりさんはイエロージュエリー近くの駐車場の車の中だ。


「エリンギはいつも逃走係だったから、現場は初めてじゃの」

「ソ、ソウナンダヨ」

「人手が足りないから仕方ない。それとエリンギ、歩き回るな。頭髪が落ちないよう自主的に管理しろ」

「エ、抜けないように踏ん張れってこト……?」

「帽子を被り頭を触るなと言ってるんだ。抜け毛を踏ん張れるのなら、元からハゲてる人間なんて存在しないだろ」

「ぶっ」


 3人がクク……と堪えるように笑い出すと、場の空気はほんの少し和らいだ。


「……さてタカよ。やるか」

「そうだな」


 じーさんは変装の準備を始める。

 俺はメガネを外し、じーさんが指定した場所に腰掛ける。


「怖いの……。自らの手で敵の顔を作り出すとは」

「タカ……、心配だから合言葉作らなイ?」

「はぁ?」

「もし本物の青山刑事と会ってモ、大丈夫な様に」


 じーさんはまず、岩田文哉の顔から木谷高英の顔へと戻していく。


「お前らがへまをしない限りは、まずそんな場面には遭遇しない」

「いいじゃねーか。考えろよエリンギ」

「考えたヨ。ボクが『ボクたち?』ってふるかラ、タカは『ひかる助け隊!』って言ってネ」

「……」


 ……苦笑。


「しょーもないギャグじゃのぅ……」

「いや、エリンギの日本語力の進化が垣間見れたぜ。いいと思う」

「良くない。俺は絶対言わないぞ、そんな恥ずかしいギャグ」

「エー。言わないと帰りの車乗せないヨー」

「それは脅しか? 俺を置き去りにして警察に捕まれば、ひかるも死ぬぞ」

「出た。高英の必殺技・脅し返し。言い返してやれエリンギ」

「エー……、じゃア……。

 If you don't say the password, you'll be treated to sushi(合言葉言わなかったラ、寿司奢っテ)」

「うぉー! ネイティブだー!」

「寿司しか聞きとれんかった……」

「Cut the crap(寝言は寝て言え)」

「うぉ、返した……」

「さすがタカ……」

「グムムムム……」


 数十分の時間を経て、俺は青山春樹へと変装した。



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