60. 3rd DARK outside ③
「このシャッターは元々、防火目的じゃなくて、ここから逃げようとする泥棒を閉じ込める目的で作られた。……そう、お前のような」
青山もダークも、肩で息をして向かい合った。
静かな密室に、2人の息遣いだけが響く。
「まるでサンタさんだな。色違いの」
白い袋を肩から担いでいたダークに皮肉を言うと、ダークは苦笑いした。そして袋を静かに床に置く。
「黒いサンタさんは、一体何をくれるんだろうな。……いや、盗むのか」
青山は、ダークから僅か3メートル程の距離を取って、両の手を開いてみせた。
「今、俺以外の警官は全滅。無線の先は誰も聞いてない。……そこの防犯カメラは、お前の仲間がもう乗っ取っているか?」
青山は、この密室に唯一一台だけあるカメラを指差し言った。
ダークは答えなかった。
「つまり、今この会話は俺の仲間は聞いてないって事だ。ちょうどいい、実はお前と腹割って話したかったんだ。お前を捕まえてしまった後は、こうやって一対一で話せないからな」
「……時間稼ぎですか? まあ、いいでしょう。少しなら話し相手になりましょう」
「俺は、正直、敵ながらお前に期待してた」
青山はダークの仮面の目を見つめた。
「大きな声じゃ言えないが、俺もアンチ長井なんだ」
「フッ、公務員としてその発言はいただけないですね」
「前に長井に、したくない仕事をさせられてな。
警察官という立場でありながら、ある事件の隠蔽に加担したんだ。その犯人の息子に、俺は……本当にむごい事をしてしまった。その事を、ずっと悔いている」
ダークの薄ら笑いが、消えた。
青山は、絶対に忘れられない。
“12月の国会事件”の犯人の息子――糸原高俊を。
松浦達と共に真相を知る糸原を口止めする為、彼にMBを投与しに地方まで出向いた。
そうして糸原にMBを投与する寸前、真実を明らかにする筈の警察に裏切られた糸原の、失望と絶望に沈む顔が……今でも深く胸に刻まれている。
「その時俺の警官としての正義は揺らいだ。だから俺はお前の敵でありながら、密かに長井を破滅に追い込む、その目的には共感していたんだよ。
……でもだからこそ、俺の警官としての正義を、責務を果たす為に、忖度なしで窃盗犯であるお前を捕まえる」
「……」
「だけど今、本当に分からない。お前が長井に何の因縁があるのかは知らないが、教えてくれ。何故、急に平野に狙いを変えた? 俺だけじゃない……、お前に希望を持っていた多くの人々が、失望しているぞ」
「……」
「それとも……お前に取って長井を狙うというのは、ただの客寄せパンダに過ぎなくて、注目を集められれば誰でも良いのか?」
ダークは、フッと笑った。
「結局、あなたも人任せですか?」
「は……?」
「この国の人間の大多数は思っています。『この世の中が変われば良いのにな』と。しかし大半は他力本願で、自ら動こうとする者は少数派です。何故なら、自ら動く事はリスクを伴うから。
対岸の火事として安全圏から静観し、火中にいる者が事を成せば手を叩き、犠牲になれば知らぬフリをすればいい。皆都合の良い卑怯者だ」
「……」
「貴方もその烏合の衆の一人だ。正義正義と綺麗事を並べておきながら、結局元凶の長井の言いなりのまま、何もしていない」
「くっ……」
青山は奥歯を噛んだ。
悔しいが、ダークの言っている事は正論だ。
「何の事件を隠蔽したのかは存じ上げませんが。犯人の息子にやった事を悔いているのなら、先ずは本人に懺悔し深く頭を下げたら如何でしょう?
ただし幾ら謝罪したところで、結局貴方が烏合の衆のままでいるなら、彼にとって貴方のしている事は自己満足のパフォーマンスに過ぎないですけどね」
「……」
――その通りだ。しかし、一体今の自分の立場でどうしろと言うのだ。
悪い人間を捕まえるために警官になったのに、その警察自体が悪い人間に支配されている。
相手は国の権力を使い、自分の罪を隠蔽した男だ。イチ刑事の自分が出来ることなど、高が知れている……。
青山が目を伏せた隙に、ダークは麻酔銃を向けた。
「時間です」
ダークは麻酔銃を青山に撃った。
「……っ!」
「もっと話をしたいのですが、警察の方々が目覚められると逃げにくくなるので」
「……」
「また会いましょう、青山刑事」
「……」
「……?」
時間が経つにつれ、ダークの表情は変わっていった。
代わりに青山は、ほくそ笑んだ。
「……なんか、勘違いしてんじゃねーか? 怪盗さん」
「っ!?」
「抗麻酔剤、実は俺だけ自腹切って買って飲んでたりしてな!」
ダークは完全に油断していた。
青山は3歩大股で前に進んでダークの腕を掴み、一気に背負い投げた。
ダークは背中を床に強く打ち付け、その衝撃でシルクハットと仮面が弾け飛んだ。
「あ……ッ」
「拝ませてもらう! お前の素顔を……!」
そして刹那、ダークの顔を見た青山は、動揺した。
ダークは……青山春樹だった。
「は!?」
バチッ!!
次の瞬間、青山は全身に凄まじい衝撃を受けた。
ダークは苦しそうな歪んだ表情のまま、一瞬動揺した青山の一瞬の隙をついて、腹にスタンガンを押しつけていた。
「……ッ」
悲鳴すらあげられず、青山はその場に突っ伏し気絶した。
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「――ました」
「えぇ、じゃあ……――」
「青山が――」
「青山さんが――……」
「おい、おい起きろダーク」
誰かに揺さぶられて、青山は重たいまぶたをゆっくり持ち上げた。
視野一杯に松浦と萩本の顔が映った。
「起きたな」
「……。あ!?」
……ダークは!?
青山は慌てて身体を起こして問う。
「ま、松浦さんっ! ダークはどこに……」
「往生際の悪い奴だな。青山さんに化けようったって無駄だぞ」
「は?」
萩本が眉間にしわを寄せて、訳の分からないことを言う。
「――22時32分! 怪盗ダーク、逮捕する!」
ガチャ
……“ガチャ”?
青山の手に、手錠が。
そして俺の周りで口々に歓喜する警官たち。
青山は、いつの間にかシルクハットとタキシードを着せられていた。
……まるで、怪盗みたいな格好をしている。
「えぇえぇぇ!?」
――そんな馬鹿な!
焦って周りを見渡すが、ニセ青山の姿はない。
「連行します! さぁ来いっ」
「いやちょっと待て萩本! 俺が本物だ! 青山春樹本人だ!」
「その格好でよくそんなことが言えるな!」
「気絶させられた間にすり替えられたんだよ! ……ならもう1人の青山を連れて来い! 化けの皮をはがしてやるからっ」
手錠を掛けられた青山が、今すぐに己が本物だと証明出来るものは……ない。
こうしている間にもダークは、悠々と逃げてしまう!
「青山さんは宝石を持って先に帰られました! さぁお前も来いっ」
「宝石を持ってっただとぉ!? やめろッ! 嘘だろぉぉ!?」
青山の絶叫が、イエロージュエリー中に響き渡った。




