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54.お前らは仲間じゃない


 

 まさかりさんに、加減なしで殴られた。

 その勢いで俺は仰向けに倒れる。


 その上にすかさずまさかりさんが飛び乗り、もう一発殴ろうとした寸前に俺は拳を掴んだ。

 俺とまさかりさんの手と拳は押し合い、小刻みに震える。


「自業自得だと!? 前言撤回しろ高英! じゃねーとオレはお前をぶっ殺す!」

「ふざけるなッ! 俺は事実しか言ってないだろ!」

「誰のせいでこうなったんだよ! ひかるをお前が追い出そうとしたからだろ!? お前が、ひかるの事雑に扱うからいけねーんだろーが!」

「俺がいつ、あいつを雑に扱った!? 少なくともあんたよりは、藤井ひかるの事を知ってる!」

「いいや、お前は何も分かってねーよ! ひかるの気持ちも! オレ達の事も! でも……っ、オレ達もお前の事がわかんねぇ!」


 俺は下から、上から押さえ付けるまさかりさんの拳を握っている。手が小刻みに震えている。

 もう、力が……っ。


「オレ達がわかんねーのは、高英が何も言わないからだろ! 言えよ! お前の心の中全部!」

「出会って数ヶ月のお前らに! 話した所で何が……」

「時間とか関係ねぇ! オレらがお前のこと、どんだけ必死に受け入れようとしてるの分かってんのかよ! このバカフミ!」


 まさかりさんが一瞬力を抜いて、俺の手は宙に空振りする。

 その隙に俺はまた頬を殴られた。視界がチカチカと点滅する。

 まさかりさんは俺の胸倉を掴み、顔を引き寄せる。

 俺はその手を掴んだが、力が入らず引き剥がせない。


「今までのダークは……、何だったんだよ! 答えろ高英!」

「はぁ……っ」

「オレたちはお前を信頼してお前の指示通りに動いた! じゃあお前は!? お前はオレたちを、何だと思って……」


 まさかりさんは途中で言葉を詰まらせた。……涙声だった。

 エリンギの啜り泣く声が、ずっと聞こえていた。

 じーさんは唇を噛んで、黙って腕組みをしている。


「……同盟だ。互いの利益が一致するだけの」


 俺は掠れ声で答えた。


「お前らは仲間じゃない。理解されなくて良い。ダークに、情など必要ない」

「……っ」


 まさかりさんはその言葉を聞いて、俺から手を離した。


「……もういい。お前なしでもダークは出来る」


 震える声でまさかりさんは言った。


「お前なしでも、絶対にひかるを助ける」


 まさかりさんは俺から離れると、キッチンへと走っていった。


「タカ、なんデ? なんでそんなヒドいこと言うノ?

 ひかるのこト、嫌いじゃないんでショ?」


 エリンギは仰向けのままの俺の目の前に屈んで言った。

 ボロボロと、エリンギの藍色の目から涙が零れる。


「大事なことを隠してたボクらも悪いとは思うけド、今の言葉はホント最悪だヨ。殴られて当然。みんなに謝ってヨ?」


 エリンギはそのまま、まさかりさんを追うようにキッチンの方へ消えた。


 俺は痛む体にムチを打って、ゆっくりと体を起こした。……口の中が血だらけだ。


「……タカ」


 和室には、じーさんが残っていた。

 じーさんは、半身を起こしている俺と目線を合わせるようにしゃがんだ。


「……大丈夫か」

「大丈夫に見えるか?」


 喋る度にじわりと、口の中に痛みが走る。


 ……あぁ、前にもこんなことがあったな。と、ぼんやり思った。

 優輝もまさかりさんも、似たような顔で俺を殴った。


「本当はな、みんな気付いておるんじゃぞ。タカが、もうひかるを無視出来ないということに……」

「違う。あいつは今の俺にとって、足を引っ張る存在でしかない」


 早口で言う俺に呆れたのか、鼻からため息を吐くじーさん。


「そして、今お前さんの心の中に、何か得体のしれないもやもやが入ってるのも、何となく分かる」

「……」

「わしらもお前さんの気持ち、理解してあげたいがのう。自分から言ってもらわないと、どうしてもわからんこともあるんじゃ」

「……俺は――」


 口を噤んだ。

『お前らのことが信用出来ない』なんて傷口を広げることを言わなくても、じーさんは分かっている筈だ。


「……一人で解決出来る」


 俺は痛む身体を起こして、印刷が終わったプリンターの紙を抜き取る。

 見取り図を持って、俺は自分のベッドの上へ帰った。


「みんな、あんなこと言ってもタカを信じとるからの」


 見取り図を持っていった俺を見て安心したのか、じーさんはキッチンへ去って行った。







______________








 谷田貝に麻酔銃で眠らされ、連れ去られたひかるはどこかの雑居ビルの2階にいた。


 小さな物置のような部屋だ。

 扉は外から鍵が掛けられ、窓には格子がある。とても逃げようがなかった。


 部屋にあるのは布団とテレビだけ。

 携帯は谷田貝に持って行かれた。


 タカとの通話が終わり、谷田貝が部屋を出て行ってからも、暗い部屋でひかるはずっと泣いていた。

 さっきから泣きすぎて頭が痛くなっていた。

 恐怖よりも、とにかく情けない……。

 タカとの通話はタカが正論過ぎて……何も言えなかった。


 タカの事を助けに来たのに、タカの足を引っ張ってばかりだ。もうタカの言葉は、嫌い以上に自分に対する呆れだった。


 ひかるでも分かる。金額や準備期間・場所の指定。このダークはリスクだらけだ。

 タカの事を信じてない訳じゃないけど、嫌いな自分の事をタカは本当に……助けてくれるんだろうか……。


 ひかるはこの日の夜、一睡も出来なかった。


 そのまま朝を迎え、眠れぬまま泣き腫らした目でボンヤリしていると、部屋の扉の鍵が突然開いた。


「飯だぜミミズちゃーん」


 コンビニの袋を持って、谷田貝はニヤニヤと後ろ手に扉を閉めた。


 ……『ミミズちゃん』って何。


「アレー? すっごい目だけど大丈夫かぁ?? もしかして寝てない?」

「……」

「アハハ。マジで痴話喧嘩の最中に攫っちまったんだなぁ? 悪かったなぁ、タイミング悪くて。ククク……」


 ひかるは三角座りのまま、谷田貝から顔を背けた。

 本当に、この人と会話したくない。


「でもアイツさぁ、オレに『指一本でも触ったら殺す』ってブチギレてたじゃん? お前の事本当に嫌いだったら、あんなキレないと思うけどなぁ〜?」


 何でこの人、そんな事まで首突っ込んでくるんだろう……。干渉しないで欲しい……。


「ま、いいけどよ。飯食えよ」


 谷田貝はコンビニの袋をひかるに投げた。


「お腹、あんまり減ってないです……」

「あ?」


 突然打って変わって低い声を出すので、びくりと縮こまってしまう。


「あー、そんなの知るか。せっかくオレが買って来てやったんだから食え。毒なんか入れちゃいねぇ。食うまでここで見張ってるからな」


 どっかりと谷田貝は床に胡座をかくと、じっとひかるを見つめる。

 男の人と一対一でこの状況。怖かったし、一刻も早く谷田貝に部屋を出てもらいたかった。


 ひかるはあっさり根負けして、静かにコンビニの袋を自分の方へ手繰り寄せた。

 ひかるがサンドイッチにかぶりつくのを、谷田貝はただじっと見ていた。


「……」

「……」


 その時間が気まずくて、ひかるはとにかくそれを口の中に詰め込んで、早く食べ終わろうとした。


「……おいおい。そんな急いで食うことはねぇだろ」

「いや、お腹減ってたんで……」


 言ってから気付いて後悔した。

 自分でさっき、『お腹減ってない』って言ったばかりじゃん……。


 ひかるが赤面すると、面白い奴だな、と谷田貝は笑って言った。


「なんだ。ミミズちゃんはもっと喋るコだと思ったのに。色々聞いたりしねぇのか? 例えば、オレが何者とか」

「……あなたは何者ですか」

「それは教えねぇ」


 一人で笑い出す谷田貝を、ひかるは唖然として見つめていた。

 そうか。今が色々情報を得れるチャンスだ。せめて、何か谷田貝の情報を手土産にしたい。

 相手を逆撫でしない程度の質問をぶつけてみよう。


「……あの」

「あ?」

「……おれが女って、バレてますか」

「おう。え、むしろ隠してたの?」


 だよね……。

『カワイイ子』って言われたし、『ミミズちゃん』って馬鹿にしたような呼び方も……。


 ……いや、おれが聞きたいのはそれだけじゃなくて。


「何でダーク、バレたんですか?」

「教えねぇー」

「おれを人質にしてダークを操って、何がやりたいんですか?」

「高みの見物」

「ダークのこと、どこまで知ってるんですか……?」

「つむじから土踏まずまで」

「……」


 自分から聞けと言ったのに、まともに答えてはくれなかった。……ただ単にこの人は、話し相手が欲しかっただけらしい。


「……タカとは、知り合いなんですか?」

「んん?」

「電話で、『ずっと話したかった』って……」


 谷田貝は、フッと笑った。


「オレ()よく知ってる」

「え……?」

「オレの見込み通りの男なら良いんだけどなァ……」


 谷田貝はそれ以上、何も答えなかった。



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