50.お前の事が嫌いだ
2073年12月11日
午後6時過ぎ
さくら号のちゃぶ台を、けい含む6人が囲む。
俺はいつも通り、見取り図を使って作戦の説明をし終えた。
まさかりさんが興奮を抑えきれず、声を震わせて言う。
「遂に、億越えするのか……」
盗品の額は、1億を超える。
より、世界からの注目を集めるために。
「本当に、天下の大怪盗になっちゃうネ……」
「おれ、友達に自慢したいなぁ……」
「けい、お友達に言っちゃうのはダメだヨ」
「ねえ、待って」
皆が興奮している中、ひかるだけは動揺していた。
「おかしくない? タカ。この作戦おかしいよ……?」
黙っていたじーさんも手を挙げた。
「わしも、何か変だと思った……」
「エ? 何ガ?」
俺は腕を組んで、ひかるを睨む。
「何がおかしい? 文句があるなら俺を言い負かしてみろ」
「何で、青山刑事と追いかけっこをするのがタカなの?」
「言っただろう。お前はその時ココにいるから、刑事達と追いかけっこできるポイントに来れない」
「え、何でタカとおれが逆じゃダメなの?」
「だから、お前が変装するのは“小柄な女性”なんだ。じーさんの変装は身長は上に誤魔化せても、縮める事は出来ない。この役はお前しか出来ないんだ」
「なら、おれはこの作戦反対。考え直して」
「何だと?」
俺はひかるを睨みつけるが、ひかるは屈しない。
俺の作戦に異を唱えたのは、(出番が少ないと文句言ったまさかりさんを除き)ひかるが初めてだ。
珍しい光景に、他の4人は驚いた。
「ひかる? 何がダメなノ?」
「青山刑事と追いかけっこするのは、おれじゃなきゃダメだよ。それに今度はタカが警察に撃たれちゃう」
「俺は撃たれない。お前の失敗を生かして、タキシードを光線が通らない素材に改良する。少し値は張るがな」
「タカはさ、青山刑事が走ってるの見た事ないよね? あの人も結構足速いよ。おれだって気を抜いたら、追いつかれるかもしれない……」
そしてひかるは次の言葉を少し躊躇い、しかし意を決した様にハッキリ言う。
「タカじゃ、追いつかれちゃうよ」
「……」
おい。今の言葉は流石にないだろ。
仮にもお前は、俺の後輩だぞ?
俺が黙ってひかるを睨みつけていると、じーさんが口を開いた。
「タカ、わしもひかるの言う通りじゃと思う。青山刑事の足の速さはひかるしか知らん。そのひかるがそう言うなら、この作戦はかなり危ない橋を渡っとる」
「いや、作戦は変えない」
「タカ!」
「どうして、そこまで意固地になるんじゃ」
「要するにお前らが言うこの作戦の欠陥は、俺の足が遅いからだと言うんだろ?」
「……そんな言い方はしてないよ」
「なら答えは簡単だ、俺が速く走れば良い。以上。解散」
俺はさっさと見取り図を片付け始めた。
「ねぇ、おれ反対って言ってるよね? 勝手に終わらないでよ!」
「いいや終わった。改善点はこれ以上ない」
「こんなタカが危険になる作戦なら、おれ参加しないよ!?」
俺は苛立って、ちゃぶ台を叩いた。
「なら、お前が作戦考えろ! 文句言うなら俺を納得させる代替案を出してから言え!」
「ずるいよ! そんなのおれが出来ないって分かって言ってるよね!?」
「タカ、お前さん、もしかして……」
じーさんは、ハッとして言った。
「ひかるを、前線に出さないようにしとるのか?」
「えっ」
「エ?」
「え、何でだよ?」
「……」
俺は目を伏せた。
「何で? もうほとんど前のタイムに戻ったって言ったじゃん。おれが前回撃たれたから?」
「……そうだ」
「え?」
「お前が前回、ヘマをしたからだよ! 俺があの医者にMBを打たなければ、もうダークは終わっていたかもしれない。そんな足を引っ張った奴に、一番大事なポジションを任せられるか!?」
「っ……」
「人に任せるくらいなら、俺が自分でやる」
「おい高英! そんな言い方ねーだろ!」
まさかりさんが立ち上がった。
「お前今日まで、ひかるがどんな想いで頑張って来たのか、何でわかんねーんだよ!? ダークと、お前の為だろ!?」
「ちょ、まさかりさん……」
「大体ひかるが撃たれたのは、お前があの時『警察を待て』って言った指示ミスじゃねーか!」
その言葉に一瞬、空気が凍った。
「何だと?」
「まさかりさん! 違うよ、あれはタカのせいじゃない! おれもあの時は――」
「今更、もう終わった話を出して来るな」
「終わった話だぁ? ふざけんな!」
「大体撃たれたひかる本人ならまだしも、何でアンタにそれを言われなきゃならないんだ?」
「ひかるは優しいからお前を責めれねーんだよ! 謝れ! ひかるに!」
「もういいよ、まさかりさん。それにおれが話したいのは次の作戦の事なのに、話が変わっちゃう」
ひかるは、俺の腕を引っ張った。
「ちょっと、外で話せないかな」
「……」
俺とタイマンで言葉の殴り合いか?
良いだろう。負ける気がしない。
俺はひかるに連れられ、外に出た。
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12月の夜7時。
日は落ち、真っ暗だ。
俺とひかるは外に出て、さくら号の奴等に聞こえない程度の場所まで離れた。
薄暗い街灯がほんのり、ひかるの怒った顔を照らす。
「タカさ、地元から帰ってきてからちょっと変じゃない?」
「何が」
「おれと目を合わせてくれないし、ちょっと避けてるよね」
「……」
「何で? せっかく全部打ち明けてくれたのに、これじゃあさくら号に来た頃に戻ったみたいじゃん……。おれ、何でも協力するって言ったよね? こんな距離感取られてたら、凄くやりづらいよ」
「お前が話したかったのは、次の作戦の話じゃなかったか?」
「……そうだけど」
「じゃあ今距離感は関係ないだろ」
「あるよ! お互いに言いたい事言えなくなったら、ダークだってきっと上手くいかない。おれはこんなモヤモヤしたまま出来ない」
「……じゃあ、ハッキリ言う」
俺は本心が悟られない様に、一度息を吐いてから冷静に言葉を吐いた。
「お前に全部話した事、後悔してる」
「え……」
「無意味だった。俺は具体的な助言が欲しかったのに、お前はただ『協力する』の一言だけで。『俺の笑顔を見る事が夢』なんて言う幼稚な事を吐かれて、本当に、時間の無駄だった」
「そんな……っ」
「第一、俺はな。藤原光里、……お前の事が嫌いだ」
ひかるは愕然として、言葉を失った。
「お前には普通の家族がいて、足が速くて、インターハイのチケットを1年生で手に入れて……。お前は俺の欲しかったモノを全部持ってて、その上であの日、死のうとしていた俺の前に現れた。
本ッ当に、何で死ぬのを止めたのがお前だったんだって、運命を呪った……。あの時のお前は俺にとって一番幸せそうな人間で、高い場所から見下されている様に見えた。一番、あの日会いたくなかったのがお前だ」
「……」
「そんな俺の気持ちなんて知らず、お前はわざわざ男装までして俺を追って来て、しかも一緒に住み始めた。嫌いなお前からそこまでされた俺の気持ちが分かるか?」
「っ……」
「言わないと分からないか? じゃあハッキリ言う。ストーカーまがいの事して、気色悪いんだよ。さくら号から出て行け。ダークにももう、お前はいらない」
ひかるの目から、涙が溢れた。
そうして何も言わず俺に背を向け、ひかるはさくら号とは反対方向へ走り去って行った。
……俺は強く唇を噛んで、さくら号の方へと戻った。
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ひかるは泣きながら、滅茶苦茶に走った。
思い上がっていた。
タカが自分の事を打ち明けてくれたのは、自分に心を開いてくれたからだと思っていた。
違った。
タカはただ、自分の判断が正しいかどうか意見が欲しかったんだ。でもひかるには、タカの考え以上の事なんて言えるハズもなく。
好きでもない女からここまで『ストーカーまがい』の事をされたら、それは『気色悪い』に決まっている。
自分が『タカを助けたい』という気持ちばかりで、肝心のタカの気持ちが見えていなかった。
……自分は本当に、最悪な事をしていた。
河川敷の芝生で、肩で息をしながらひかるは崩れ落ちた。
「わあぁぁぁ……ッ! あぁ〜……!」
河川敷の街灯の薄闇の下、近くは誰も歩いていない。
ひかるは思いっきり声をあげて泣いた。
……本当に、さくら号を出て行った方が良いんだろうか。
タカが自分の事を要らないと言うなら、居なくなった方が、タカの為になるんだろうか……。
ひとしきり泣いても、嗚咽が止まらなかった。
そうして河川敷に座り込んで、本当にさくら号から出て行くべきかひかるは悩み始めていた。
「どうしたの? こんな暗いところで」
ひかるはハッとして声の方を振り向いた。
見知らぬ男が立っている。
「泣いてんの? コレ使いな」
男はひかるにハンカチを差し出した。
ひかるは慌てて涙を袖で拭った。
「すみません、大丈夫です……」
「あぁそう? でも、顔がぐちゃぐちゃで可哀想だなぁ。男か? 痴話喧嘩?」
男は、ひかるの横に腰掛けた。
何だか嫌な感じがして、逆にひかるは立ち上がった。
「あの、本当に大丈夫です……。帰ります」
「うん、まあ、そうだよな……。こんな暗いところで、JKが1人でいるってのは宜しくない。危機管理能力ゼロだ。ま、お前らのリーダーは、そんな事まで把握してねぇか」
「え?」
男は、不気味に笑った。
「悪いけど、帰さねーよ?」
男はひかるに、麻酔銃を向けた。




