表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/156

49.深刻な問題


 

 2073年現在――


 事実上今の日本は、長井の独裁体制下にあると言っても過言ではない。

 ただし、対立勢力がない訳でもないのだ。


 平野元(ひらのはじめ)は、長井の対立勢力――野党第一党の党首だ。

 真面目な彼の政策は、民衆からも好印象だ。しかし言葉巧みな長井に押さえ付けられ、平野は微力。

 平野の影は薄いが、それでも長井が最も敵対視している人物だ。


 どちらかと言えば、ダークは平野の味方になるのだろう。

 逆に平野の敵に回るようなことをすれば、タカの思惑の一つである『ダークは長井の敵であるという信頼』を民衆から失う事になる。

『長井政権を潰せ』と言うコンドルとの距離も、遠くなってしまうだろう。


 だからダークが、タカが長井以外から標的を変える筈がない。

 ……はずだった――。






______________







 2073年12月3日


 青山は警視庁で、昨年の事を思い返していた。


 12月の国会事件から一年が経った。

 全く、一年と言うのはあっという間で。


 恐らく、この先12月3日が来る度に事件を思い出すだろう。

 そして、糸原高成の()()()()も。

 その都度長井にも己にも、ぶつけようのない怒りが込み上げる。


 害刑制度なんて、なくなればいい。

 そして長井政権も潰れてしまえばいい。


 しかし青山の立場は、長井という国に雇われ、長井に敵対する怪盗ダークを捕まえるというもの。だから今、自分の立場が歯痒い。


「青山、ダークの捜査について進捗はあったか?」


 そんな折、松浦が聞いてきた。

 自身があの船の事件の指揮権を持っていたにも関わらず、『あの時甲板にいたのに逃がしたのは、青山のせい』と遠回しに責任を擦りつけてくる。

 (松浦は催涙ガスで甲板に来れなかった。)


 松浦は出世の為なら何をしても上に胡麻を擂る様な男だ。それも含め、青山は松浦の事が嫌いだ。


「……今、船内の防犯カメラをくまなく見返しています。数が多いので時間がかかってます」

「あれからダークについて音沙汰はないんだな」

「奴は足を負傷しました。それは間違いないですから」

「上は名誉挽回のため、一刻も早く奴を捕まえたがっているだろう。君も怪盗が動くのを待つのではなく、早く逮捕に繋がるものを掴んで来たらどうなんだ」

「……はい」


 そう吐き捨てて、松浦は去っていった。


 ……腹立つ。

 あーーーーっ! ムカつく!


 結局俺任せか!?

 やれやれ言いながら、自分は何もやる気ねーし!

 本当にあいつは、信頼出来る上司じゃないなっ。


 ……もう何か掴んでも、俺だけの物にしてやる。

 松浦の手柄になんかさせてたまるか。


 青山は胸の内でそう誓った。






______________







 2073年12月10日

 深夜


 あるホテルの一室で、谷田貝は持参したPCを開いた。

 メールボックスには、彼の予定通りに長井からのメールが届いていた。


 メールには5枚写真が添付されている。


 上から、目付きの鋭い黒髪の少年、

 柔和な顔で同じく黒髪の少年、

 金髪碧眼の外国人、

 茶髪で癖毛の男、

 白髪が混じった老人。


 どれもカメラ目線のものはない。


 写真のタイトルには、それぞれ彼らの名前が添えられている。ただし1人だけ、『標的』という文字が付け加えられていた。


 谷田貝は1人の写真をかじりつくように見入って、ニタリと笑った。


「ククッ、楽しみだなあ、怪盗さんよぉ。ちゃんとオレの手のひらで踊ってくれればいいんだけどなあ」


 谷田貝は満足そうにほくそ笑んで、天井を仰いだ。


『確認した

 明日実行する』


 谷田貝は簡潔にキーボードを打ち込み、送信ボタンを押した。






_______________







 2073年12月11日


 天気・風向き共に良好。

 足の調子も悪くない。


「位置に着いてー」


 地面はアスファルト。冷たい地面に手と膝をつく。


「よーい」


 見据える先は、100メートル先のゴール。


「ドン!」


 地面を蹴ってクラウチングスタート!

 ひかるはおよそ、5ヵ月振りに全力疾走する。

 風を切る感覚が懐かしい。


「はいひかるゴール!」

「ヒィ~っ」


 一緒に走ったエリンギも、ひかるに遅れてゴールした。

 まさかりさんはストップウォッチを持って、興奮気味にひかるに近寄る。


「はぇーっ! やっぱすげーよお前は! もう完全復活じゃね?」

「何秒?」

「11秒98!」

「うーん……、11秒台だから許容範囲かな……」

「え、まだ納得いってねえの?」


 正直、納得いっていない。青山たち警察との追いかけっこは、絶対に負ける訳にはいかない。


 ひかるはこの前、胸が張り裂けそうなくらい辛いタカの過去と、その目的を知った。

 やっぱり、ちゃんと正当な理由があった。ダークに協力してきて間違いじゃなかった。……それにその事をタカが明かしてくれたのが、ひかるにとって本当に嬉しかった。

 だからもう、タカの足を引っ張りたくない。1秒でも早く助けになりたい。


「よし、タカに復活宣言する!」

「おっしゃあ! 良かったなひかる!」


 まさかりさんも嬉しそうにひかるの肩を叩いた。

 エリンギが真っ青な顔で息を切らしてやってきた。


「まさかりさん、ボクのタイムハ?」

「あん? んなもん知らねーよ」

「エェェェ!?  ボクも全力で走ったの二!」

「ありがとうエリンギ! 助かった!」

「……最近みんナ、ボクの扱いぞんざいだよネ」






___________






 2回目のダークから、5ヶ月が経とうとしている。

 一部のファン(という言い方が適切かはさておき)からは、ダークが次はいつ現れるのか、論争は尽きない。

 しかしそれは一部の話で、既に世間一般の話題からはかなり遠ざかってしまった。


 かと言って、忘れられた訳ではない。3度目の予告状を出せば、また騒がれ注目を浴びる事となるだろう。

 ひかるもそろそろ走れるはずだ。

 時期としては頃合いで、俺も自分のベッドの上で3度目の作戦の仕上げに入っていた。


 ……しかし、俺の中で深刻な問題が発生していた。


「ただいまー」


 100メートルの記録を測りに行ったひかるたちが帰ってきた。

 さくら号の5人でひかるの次に走れるのは俺だ。本当はひかるから、エリンギよりも先に「一緒に走ろ!」と誘われた、のだが。

 即答で断った。

 当然だ。俺は負けると分かっている勝負には乗らない。しかも俺は一応あいつの先輩だ、プライドは捨ててない。


「タカー! 聞いて!」


 ひかるが満面の笑みでやって来るのに続いて、まさかりさんとエリンギも俺のベッドの下に来る。


「藤井ひかる、ダークの足として復帰します!」


 しかし俺はそれを聞いて、ニコリともせずひかるから目線を逸らした。


「そうか。分かった」

「……うん」

「おい高英、もうちょっと喜んでもいいだろ」

「そうだヨ……、なるべく早く復帰出来るようニ、ひかるリハビリ頑張ってたんだかラ……」

「早速今日やるぞ、3度目の作戦会議。エリンギ、けいを呼んでこい」

「ア……、うン」

「おい高英! 何かひかるに一言ねえのかよ!?」

「あーまさかりさん、いいって……」


 俺は一度もひかると目線を合わせず、背を向けた。

 ひかるは、悲しそうな顔をしている。


 俺はひかるに聞こえない様に、小さくため息を吐いた。

 ……本当に、深刻な問題だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ