29. 2nd DARK inside ①
ダーク(タカ)視点に切り替わります。
2073年7月17日
豪華客船レインボー号
午前8時(出港2時間前)、客の乗船開始。
警察はダークやDKが乗船客に混ざっていると予測し、乗船前に金属検査を実施した。
乗船待ちの客が何か所かに分かれて、長蛇の列を作っている。
その中に、一人の青年が松葉杖を使って乗船しようとしていた。
「お名前を教えてください」
検査係の警官が問う。
「新田修です」
「新田さんね。……お一人ですか?」
松葉杖を使っているのに、補助者が誰もいないのだろうか。と警官は疑問に思った。
「えぇ……、まぁ」
「そうですか。まあこの船なら移動出来ない様なことはありませんし。エレベーターも付いてますから」
「あ……、どうも」
警官の指示で、新田は腕時計や携帯電話等の貴金属をカゴに入れる。
そして警官は金属探査機で、新田の全身を上から下へ調べ始めた。最初は順調だったが、最後の最後で機械が反応する。
松葉杖の先の方だ。しかし新田は表情1つ変えず、冷静に分析した。
「ネジ……じゃないですか?」
新田の言う通り、松葉杖の先端がネジで固定されているのを確認出来る。
「……そうですね。よろしいですよ。部屋のカードキーは奥に受付があるので、そこで」
「わざわざどうも」
新田はニヤリと笑って、松葉杖をついて船内を移動する。
自分の部屋に辿り着くと、カードキーで扉を開け、閉める。
するとあろうことか、新田は松葉杖を床に置き、両足で歩き出したではないか。
「ひかるです。無事乗船したよ。
タカ、ネジ作戦成功したよ」
「そうか」
笑顔で無線で報告する新田――いや、ひかる。
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俺とじーさんとけいも、金属検査の列に並んでいる。俺たちは今、祖父・兄・弟という家族設定で変装中だ。
「うお、声が違ったから誰かと思ったぜ」
「はは……、おれもびっくりだよ」
まさかりさんがそう言うのは、乗船前にじーさんがひかるを変装させたからである。
「ひかるは準備が出来次第、バイキング会場の偵察だ」
「はーい。おっけー」
「じーさん! 無線ってすごいね!」
「これ健太。おじいちゃんと呼びなさい。ほほ」
俺の横でけいをたしなめるじーさん。
「じーさんも全然キャラが変わってない」
「んん? そうかの……」
「……まぁ、別に違和感ないが」
そして3人とも検査を受ける。
「安藤秀雄さんに、太一くんと健太くんですね。どうぞお進みください」
「どーもー」
無事金属検査をクリアし、俺たちは船内へと進む。
部屋に入るなり、俺とじーさんは別の服に着替える。そしてすぐさまじーさんは、中林と萩本の変装に取り掛かった。
「今ねー。タカとじーさんが変装中」
「どウ? 豪華客船ハ」
「うーん。いい感じぃ、ふふふ」
「おい高英、オレも乗り込んだ」
「分かった」
まさかりさんもじーさんの適当な変装で乗り込んだ。単独行動だがPCによる後方支援のため、基本部屋からは出ない。
「みんないいナ……、船乗ってないのボクだけジャン」
「おめーはいつでも乗れるだろエリンギ」
「そうだよ、ダークの為に乗ってるんだから……。おれはとても満喫出来る気分じゃないよ。今1人だし、すっごい緊張する」
「がんばレひかる。大丈夫だヨ。前回も出来たし」
「うん。がんばる……」
じーさんの終わったと言う声で、俺は鏡を見る。
萩本の顔だ。
「……ふ」
面白いな。本当に。
ここまで似せれるものとは。やはりこの人は天才だな。
「後はこのスプレーの中に入ったガスを、鼻を摘んで全部吸うんじゃ。声も変わるぞ」
「分かった」
俺はじーさんに素直に従った。
既に船は出港している。
変装が完了するなり、俺たちはさらに眼鏡や帽子を被り、その他の荷物を持ち、けいを残して退出する。
「まさかりさん、当たりは付けたか」
「おぅ、既にマーク済み」
まさかりさんは船内の全ての監視カメラをハッキングし、自動顔認識システムで中林と萩本を探し出していた。
「……さて、ここからは運試しだな。2人はペアで動いているようだから、チャンスはあると思うんだが」
「や、高英。お前はマジで何か持ってるかもな。2人揃って今廊下を歩いている、トイレの方向だ」
「どこのトイレだ」
「2階の船尾側だ、急げ」
「分かった。行くぞじーさん」
「了解じゃ」
時計はまだ10時半前。天は俺たちに味方した。
小走りで目的の手洗いに着くと、2人はちょうど手を洗っているところだった。
付近にも中にも、部外者がいないことを確認する。
俺とじーさんは黙って頷き、DKの仮面を被って早足で2人の前に立ちはだかる。
「な、Dけ……っわ!?」
振り向いた瞬間の中林の顔面に、多量の催眠スプレーを噴射した。隣でじーさんも、無言で萩本にスプレーを浴びせる。
悲鳴すらあげることが出来ず、呆気なく2人は床に突っ伏した。
「やっぱり、麻酔銃が使えんのは厄介じゃの」
じーさんがぽつりと呟いた。
確かに、スプレーとは違って麻酔銃なら遠距離で、かつ確実に相手を眠らせることが出来る。相手に近付くリスクが軽減出来るのだ。
しかし今回は金属検査があった為、前回のように麻酔銃や光線銃は持ち込みが出来なかった。
「まさかりさん、監視頼む」
「りょーかい」
まさかりさんの監視カメラで、トイレに部外者が近づかないか見張ってもらう。
俺とじーさんはDKの仮面をすぐに取り、中林と萩本を一番奥の個室まで引きずり、中から鍵を閉めた。
まず、2人の身ぐるみを必要最低限剥がす。
そしてそれをバッグの中に詰め込み、手際良く2人をロープで縛り、猿轡を噛ませた。
2人を個室の中に閉じ込めたい訳だが、当然外からは鍵は掛からない。
俺とじーさんは個室から出て、個室の扉に外側から透明な粘着テープを張り、密閉する。そして予め用意しておいた、『使用禁止』と書かれた紙を扉の見やすい所に貼った。
「よし……」
これで2人が、少なくともDKの作業が終わるまで眠ってくれればいいのだが。
荷物を持って、俺とじーさんは一旦客室へ帰る。
「タカ? 今長井と青山刑事が何か話してるよ」
ひかるから無線だ。
ひかるは再び新田に成り済まし、今バイキング会場の偵察をしている。
「会話の内容は?」
「いや、2階の吹き抜けから見てるから分かんないけど……。あと桜色の宝だけど、会場のど真ん中のショーケースに入れられてる」
「ど真ん中!?」
俺は思わず失笑した。
「さすが長井、自己顕示欲の塊だな。ダークを誘き寄せて、皆の前で捕らえたいという訳だ」
確実にダークが現れるその場所を最初から狙って包囲しておけば、捕まえる可能性は高くなる訳だ。
だがそんな手には及ばない。
「あ、でも。あれが本物かは分かんない」
「いや、高確率でレプリカだろうが。引き続き監視を続けろ」
「りょーかーい」
俺は一人、先程中林たちの服を入れたのとは違う鞄を持って再び部屋を出る。
階段を降り、辿り着いたのは103号室。俺は予めまさかりさんに作ってもらっていたマスターキーを差し込んだ。
誰もいない。当然。
ここと203号室は予め俺が、新田や安藤とは違う名で取った部屋なのだ。
俺は持って来た鞄を部屋の隅へ置き、窓の鍵を開けておき、直ぐさま退出する。
俺が手ぶらで向かったのは、バイキング会場に一番近い一階の手洗い。
その中の一番広いバリアフリーの個室には、既に中林の顔のじーさんと、安藤健太――けいが待っていた。
「おい高英、マスターキーは開いたか?」
無線はまさかりさんからだ。
「大丈夫だ、今の所作戦通り」
「んだよ、ちゃんと報告しろよ。心配したじゃねーか」
はぁ、と息を吐くまさかりさん。
「一々聞いてくるな、あんたは自分の腕を信じちゃいないのか?」
「あぁ? んなもん、信じなきゃやってらんないだろ」
「じゃあ心配する必要ないだろ」
「は? お前だって都度状況を報告しろって言ってくるじゃねーか」
「俺は司令塔だから、全体を把握する必要があるんだよ」
「お前だけじゃなくて全員で共有すればいーだろ!」
「タカ、まさかり。今喧嘩はやめんさい」
じーさんに嗜められ、俺はため息を吐く。
俺はじーさんが持って来ていた、先程奪った萩本の服を着る。さらにその上からDKの黒いローブを羽織る。これで萩本の服は隠れる。
そして萩本が携えていた拳銃を持って、仮面を被った。
「すごーい。かっこいいーっ!」
DKの姿となった俺とじーさんを見て、けいが目を輝かせてこちらを見上げていた。
「けい、本当に泣けるんだろうな」
「任せて! 小学校の劇でおれいつも褒められてるから!」
「タカ、青山刑事が会場出ようとしてる!」
無線からひかるの焦った声。
「……とっとと行くか」
個室の扉を少し開け、便所に誰もいないことを確認してから、俺たちは早足で歩き出した。




