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27. 2nd DARK outside ③

 


 萩本が退出し、少し落ち着かない様子の中林に青山は追い討ちをかけた。


「……中林」

「っあ、はいっ」

「合言葉は?」


 青山は半年以上前にやっていたドラマ、“怪盗ブラック”を思い出していた。

 ブラックの犯行手段の中に、変装があった。それは簡単なマスクを被って一瞬で顔を変えれたり、機械で声を変えたりと、あまりにも現実味のない内容だった。

 ただし現実味がないというのはそのブラックの方法で、特殊メイクの知識がある技術者なら、時間をかければ可能なのかもしれない。


 こいつ――目の前の中林が、DKであるという確証がある。


 DKが203号室の扉を閉めてから、青山が103号室の扉の前に辿り着くまで、ざっと30秒あるかないかだった。

 その30秒の間に、DKが非常はしごを降りて103号室から逃げ出すのは、不可能ではないかもしれない。


 しかし、103号室には人質の男の子がいたのだ。一体何の目的で人質を下に降ろしたのかは分からないが、DKがいなくなった後、訳もなく人質が1人で下に降りたとは考えにくい。

 よってDKに指示されて、人質は下に降りざるを得なかった、と考えるのが妥当だろう。


 人質は小学生――中・高学年だろうか。はしごの高さは小学生には高いだろう。そうすんなりと降りられるだろうか?

 ……いや、時間を要した筈だ。


 DKは人質が103号室に降り立つのを見届けてから逃げたとしたら、それは果たして30秒以内に収まり切るだろうか?

 ……無謀だ。計画的な奴等がそんな無鉄砲なことをするとは考えられない。


 だったら萩本や中林に変装して、青山の目が向いてない内に逃げるのが確実だろう。

 ……ただし、変装出来るということを認めることになるが。


「え……っと」


 合言葉を聞かれ、言葉に詰まるニセ中林。この正しい答えは、「そんなもの決めてないっす」だ。

 だがニセ中林が言ったことは。


「……はは、すみません。忘れました」


 予想通り。

 分かった。何か引っ掛かっていた違和感の正体が。


『あーっ。もういい。もーお前には頼んねー』

『く……っ、悔しいっす』

『出直してこい。馬鹿が』

『うぃっす』


 あのアホな言葉遣い。

 そうだ。このニセ中林の言葉遣いは至って普通なんだ。だがあのバカ林のお陰で、普通がとても美しい言葉に聞こえる。


「あの、そろそろいいでしょうか」


 中林は少し早口で言った。

 恐らく萩本も偽物だ。引き離されて焦っている。


「その前に、中林」

「……はい」

「ちょっと両手を見せてみろ」

「は?」


 ニセ中林はさらに怪訝な顔をするも、渋々両手を開いて見せた。

 青山はその左腕を掴み、手錠を掛けた。


「な!?」


 ニセ中林は反射的に一歩身を引くも、手錠の片方は俺が握っているため離れられない。


「何をするんですか!」

「もうそのクサい演技はやめろ、DK。部下の見分けくらい簡単につくんだよ。人間てのは個々に口癖があるもんだ」

「っ……、口癖か……」


 青山は奴の胸倉を掴んだ。


「ダイヤはどうした? それと本物の中林と萩本はどこだ。生きてるんだろうな!?」

「……青山さん、何を言って」

「しらを切っても無駄だからな! 諦めろ、俺の勝ちなんだよ。お前の相方もな、すぐに見つけ出して捕まえてや――」


 ゴッ


 鈍い音と共に、後頭部に激痛が走った。

 目から火が出る。周りの音が耳に入らなくなった。


 たぶん、殴られた。ニセ中林じゃない誰かに。


「っは……ッ」


 青山は何が起こったのか、頭の中で整理出来ないまま床に突っ伏した。


 や……っべ。

 やられた。


 意識が途絶える直前に見たのは、

 ニセ萩本の、ニヒルな冷たい目だった。






______________







【ダーク出没予定時刻12分前】


 レインボー号1階男子トイレの一つに、一人の客が用を足しに来た。

 手洗いの中に、その男以外の人間はいないようだ。個室の方も全て開いている。


 男が何も考えずに用事を済ませている最中、


 んー、んーっ


 奇妙な音に気付き、男は一度肩をびくつかせた。

 個室の方から聞こえる。


「はは……、どんだけリキんでんだよ」


 と最初の内は笑っていたが、その内不審に思う。

 声がやけにくぐもり声に聞こえるのだ。


 んーっ


 おそるおそる、声の方に近寄ってみる。

 個室は使えるものは全て開いている。……と言うのも、1つだけ“使用禁止”とかかれた個室の戸が封鎖されているのだ。

 だがどうにも、声の主はこの中にいるらしい。


 ただ事じゃないと確信した男は、戸を封鎖しているテープを急いで剥がした。

 中の光景に、男は目を見開いた。


「おいっ、大丈夫か!?」


 中には、シャツと下着だけにされた2人の男が縛られていた。

 彼らの私服は奪い取られていたものの、違いなく萩本と中林だ。





_____________






「……まさん、あ……さん!」


 自分を呼ぶ声に、青山はボンヤリと目を開けた。


 ……あれ……。

 ダークはどうなったんだっけ。


「青山さん! 起きてください青山さんっ」


 目の前に、中林と萩本の顔。


「うぉぉ!? 本物!?」

「はい?」


 慌ててのけ反る俺を見て、首を傾げる2人。


「大丈夫ですか……?」

「寝ぼけてるだけっすよね? いやー、でもホント無事でよかったっすよ、お互いに!」


 あ……、中林。本物だ。

 何だこの変な敬語の、実家のような安心感は。


「何だよ、無事だったのかよ……。何事もなかったように笑いやがって……」

「はい?」

「青山さん、早く行きますよ! 立ってくださいっ」


 萩本が慌てて青山の腕を掴む。


「は?」

「あぁもう! 今12時になりましたよ! 僕らはバイキング会場の警備ですよね、行きましょう」

「嘘だろ!?」


 最悪だ。ホント最悪!

 俺が今日、ダークと対峙するのをどんだけ楽しみにしてたことか知らないで……!


 青山は、先程殴られた後頭部をさすりながら立ち上がった。少しよろめきながら、青山たちは会場へ急いで向かう。





_____________






【ダーク出没予定時刻より1分経過】


「……こちらバイキング会場、異常ありません」

「こっち甲板です。異常ありません」

「こっちも……」


 おかしい。12時1分を過ぎた。

 時間が過ぎているのに何故現れない!?


 ……前回も0分59秒の犯行だったとは言え、ギリギリ予告時間内だった筈だ。

 おいおい、まさかの遅刻か!?


「……んなわけねーだろ。あのダークに限って」


 全力疾走でバイキング会場へと戻った青山たちだったが、それは杞憂に終わる。

 ダークが現れない。それは想定外だ。


 会場の真ん中には、未だに偽物のダイヤがケースに入ったまま。


『俺が殺したいのはダークだけだ』


 数分前の黒いローブの仮面の男、DKの言葉を思い出す。

 ニセ中林と萩本は依然行方をくらましたまま。奴等は変装が出来るんだ。また客に成り済まし、今度はダークを狙って……。


「まさか……」


 青山は嫌な予感に汗がにじむ。

 ダークは1人、DKは2人。おまけにDKは拳銃を所持していて……。


「青山刑事」


 聞き覚えのない声が、上から降って来た。




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