26. 2nd DARK outside ②
2人のDKの視線は青山に定まる。
DKαが持つ銃は、未だ長井に向けたまま。
「本物の“桜色の宝”は、俺が持っている」
「何?」
「俺は警察の者だ。ダークから宝石を守るため預かっている」
「……成程。ならばそれを渡してもらおうか」
「渡したら直ぐに人質を解放すると約束しろ」
「それが本物ならな」
俺は小さなネックレスケースを投げ渡した。
受け取ったDKαはケースを開き、そしてすぐさま2つの宝石に息を吹きかけた。
そして、ほくそ笑んだ。
「どちらもレプリカだな」
「!?」
青山は長井を見た。
長井の目が泳いでいる。
「抜かったな長井。今お前はこの少年の命と宝石を天秤にかけて、リスクがあるにも関らず偽物を渡したな。子どもの命より金を取ったんだ」
「……」
「呆れるだろうな、国民は。たった一人の子どもの命すら守れない総理大臣なぞーー」
「分かった。これが本物だ……。投げないぞ」
長井は懐から出したネックレスケースを床に置いて、少し下がった。
受け取ったDKαはそれにも息を吹きかけ、ニヤリと笑って、銃口を下げた。
「引くぞ」
「うわぁぁん!」
するとDKβは人質を解放するどころか、そのまま後退して会場の出口に向かったのだ。
DKαも銃を構えたままそれに続く。
「おい待て、約束が違うだろっ! 人質を解放しろ!」
「それは我々の安全が確立されてからだ。お前も下がれ、さもなければ撃つ」
DKαは銃を俺に向けた。
しかし俺は動じなかった。
「そんなオモチャの銃じゃ脅しにもなんねぇよ!」
2人のDKの動きが止まった。
「……玩具?」
「オモチャだよ! あれだけ漏れなく金属検査をしたんだ! それが本物の訳がない!」
さぁ動揺しろDK!
DKの周りは既に本物の拳銃を持った、私服警官たちに囲まれている。
スキを見て取り押さえる!
しかしDKαは動揺するどころか、嘲笑した。
「あんたは、この俺を馬鹿にしているのか?」
「……は?」
何を言ってるんだあいつは。それは俺のセリフだ。
「……試し撃ちしてやろうか?」
「な……」
「あんたがいい? それとも長井か? あの餓鬼か?
賭けの対象だよ。これが本物ならその人間は死ぬ」
「……!」
こいつ、正気か……!?
それとも何だ、こっちが動揺するのを狙ったハッタリか?
するとDKαはふっと笑って、
「嘘だよ。俺が殺したいのはダークだけだ」
銃口を天井に向けて、発砲した。
「きゃーッ!」
客の悲鳴が響き渡る。
銃口から光線が飛び出し、天井のシャンデリアを割った。
偽物じゃ、ない。何故だ!?
「行け」
今度こそ人質を連れたままDKβは会場を去り、DKαはそれに続く。
「くそ……っ」
「追うぞ!」
青山や松浦・私服警官も銃を構え、少し距離を開けて3人の後を追った。
会場を出たDKは、廊下を出て階段を使い2階へ上がり始める。
「うぇぇ……、助けてよぉ……」
DKβは人質を連れて前へ進んでいるため、俺たち警察に背を向けている。しかしその背中を守るのがDKαだ。警察とDKαの睨み合いが続く。
息ピッタリの2人。かなり緻密に計画した犯行であろう。
DKβはある客室の前で足を止めた。
空いた手で扉のカードキーを差し込み、人質を無理矢理部屋に押し込む。
「嫌だぁぁ! 助けて、助けて!」
泣き叫ぶ声が、余計に青山たちを焦らせる。
そしてDKαも素早く部屋に入り、銃口を最後までこっちに向けたまま扉を閉めた。扉は閉まると自動でロックが掛かってしまう。
「くそ、やられた……!」
部屋番号は203号室。
防音扉だ。中からは音は聞こえない。
「おい、合鍵持って来い! 至急!」
「はいっ」
松浦が叫ぶと、部下の一人が走って行った。
しかし青山はハッとする。
「松浦警部、この船の構造……。客室には一部屋に一つずつ、ベランダに非常はしごがついていたハズです」
「それがどうした」
「下の部屋、窓の鍵さえ開けておけば、直結で中に逃げられます!」
その言葉と同時に、青山は一階に向かって走った。
松浦も気づき、無線に叫んだ。
「合鍵! 103号室もだ!」
青山は多少息を切らして、103号室の扉の前に辿り着いた。
「はぁ……、……?」
周りを見渡しても、静かだ。人影が見当たらない。
逃げられたか……、それともまだ中に?
「青山さんっ、カードキーです」
「よし。松浦警部、こっちはいつでも」
青山は2階にいる松浦と無線で会話する。
「カードキーを差し込むぞ」
「了解」
カードキーを差し込むと、音もなく小さな赤いランプが緑に変わる。ロックが解除された証だ。
「カウント後に突入する」
「はい」
右手で銃を構え、左手でドアノブを握る。
「……3、2、1、突入!」
青山は扉を開けると同時に銃を構えた。
パッと見、DKはいなかったが。右、左、上、下、後ろも。全てに銃口を向けた。異常なし、しかし……。
人質が部屋の隅で震えているのはいい、それよりも先に目に入ったのは、ロープで縛られて床に転がっている男が2人。
「青山、2階は誰もいない。人質も……」
ベランダの上から非常はしごが降りていた。
読みは当たっていたが、もう少し早く気付いていれば……。
「人質は無事です。あと……何故かオマケで転がってるのが2人」
「ん? 誰だ?」
「うわぁん……!」
人質だった男の子が泣き出す。
「おい泣くな。もう大丈夫だ。怖かったな」
「うん……」
青山は頭をぽんぽんと叩いてやると、男の子は泣きやんで落ち着いた。
そして床に縛られて転がっている男2人を見た。
「で? お前らは何をやってんだよ。萩本、中林」
「すみません……、DKにやられました」
申し訳なさそうに言う萩本。
一階に降りて来た部下と、数人がかりで縄を解く。
「今日お前らを一回も見てないと思ったら……、DKにやられたのか」
「そうです。すみません」
何度も詫びる萩本。別に責めてないのに。
「中林はホントツイてないな。まさか前回と連チャンで狙われるなんてな。お前カモにされてんじゃねーか?」
「はは、そうかもしれないですね。すみません」
……ん?
松浦がやって来た。
「青山、DKの捜索だ。オレは本部室へ戻る。中林と萩本は動けるか?」
「はい」
「松浦警部、DKはローブと仮面さえ取れば客に紛れてしまいます。監視カメラで奴らの行方を探すしか手はないかと」
「成程。そうだな」
松浦は人質だった男の子と他の部下たちを引き連れて、部屋を出て行った。
青山は、萩本と中林に言った。
「……まぁ、お前ら2人はちょっと残れ。DKに襲われた時の話を聞かせてくれ」
「突然催眠スプレーで眠らされて、気付いたらこの状況です。青山さん……、今どういう状況ですか? 拳銃を取られてしまいまして。すみません」
渋い顔で、口を開いたのは萩本。
そうか……、DKが持っていた本物の銃はこいつらのだったのか。
青山は先程バイキング会場で起きたことを、簡潔に説明した。
「そうですか……、あの男の子が人質に……」
ますます渋い顔で俯く萩本。まぁ、負い目を感じるのは分かるが。
「いい。もう終わったことだ。それよりDKは、やはりこの部屋を通って逃げたのか」
「そうです。さっきの男の子を連れて、あのはしごを降りて来ました」
「そうか」
ちらりと中林の方を見た。
どうした? 今日はヤケに静かな気が……。
「中林」
「え、はい」
「調子が悪かったら休めよ。勤務中とはいえ、被害者になってしまったんだから」
「……いえ。大丈夫です」
……おかしい。変だ。何だかしっくりこないのは……。
「萩本」
「はい」
「お前はもう行っていいぞ。やばかったら休め」
「……はい」
その時。
一瞬、萩本の視線に寒気がした。
睨まれた……気がする。
それだけじゃない。
何かゾッとする様な……、黒い影を感じた。
萩本も中林も、変だ。
萩本は静かに戸を開き、部屋を後にする。




