25. 2nd DARK outside ①
警察(青山)視点です。
2073年7月17日
午前8時(出港2時間前)
レインボー号、客の乗船開始。
警察の配置人数:100人
レインボー号は日本最大級の客船だ。
乗客・乗務員併せて最大乗船人数はおよそ1,200人。客室およそ500室。全長約300メートル。
今日乗船する客には全員、乗船前に金属検査を実施する。ダークやDKが、客に紛れて乗船している可能性は極めて高いからだ。
そのため、拳銃等凶器になり得る物は持ち込むことが出来ない様にする。
……幸か不幸か、危険物や怪しいものを持った人間はいなかった。
だがダークやDKの侵入口は、どう考えても今しか考えられない。
出港したら海の上だ。可能性があるとすればヘリだが、前回のことを踏まえ、屋上のヘリポートには多く警官を配置する。
奴等はもう既に、この船内にいると考えていいだろう。
特にDKは危険だ。
『ダークを殺す』その目的の為ならいつ何をしでかすか分からない。
まぁ最も、ダークの様に確実に姿を表すとは言い切れないが。
長井も大勢のボディガードに囲まれ、特に何事もなく船に乗り込んだ。
【ダーク出没予告時間2時間前】
午前10時、こうして私服警官100人と乗員乗客(ダーク出没の為野次馬たちの予約が殺到、客室は満室)を乗せたレインボー号は、予定通りに大阪へ向け出港した。
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客船レインボー号のほぼ中央に、大きなバイキング会場がある。客たちは普段ここで食事を取る。レインボー号の魅力の一つは、ここの食事にもあると言えよう。
バイキング会場は2階建てで、2階部分は中央が吹き抜けになっており、2階からは1階が見渡せる構造になっている。
会場の出入口は1階が6つ、2階から1階へ会場の外に直接繋がる階段が2つ。
長井はどうやら、このバイキング会場をダークの鳥籠としたいらしい。
あろうことか、奴の狙いであるピンクダイヤモンドを、透明なケースに入れて会場のど真ん中に置いたのだ。
松浦と青山は、見るに見兼ねて長井に近寄る。
「……長井さん」
長井は返事をせず、顔だけこちらに向けた。
「警視庁の松浦です」
「同じく、青山です。ダイヤをあそこに設置したのはあなたですか?」
「青山……、下の名は?」
「……青山春樹です」
「青山春樹……、ん……? 名を聞いたことがあるな。何処かでお会いしたかな?」
「いえ、今日が初対面かと」
青山は、自分の問いを無視して勝手に考えだす長井に苛立つ。
……可能な限り、思い出さないで欲しい。
青山には長井に対し、一方的に因縁がある。
およそ半年前。青山の警察としての正義の根幹を覆した、忌々しき特別昇級。
大嫌いだ。
「で、どうしてあそこに?」
苛立ってケースを指差して言う。
長井はニヤリと口端を上げて答える。
「奴を確実に捕えるためだよ。今から警察諸君に、ここに集合を呼び掛けるつもりだったんだ」
「しかし奴が何を仕掛けてくるのか分からない以上、危険です」
「ふふ、私がそこまで馬鹿だと思われるとは、心外だ」
「……」
全く、こいつの笑う顔は気持ち悪くてしょうがない。常に見下されている気がする。
長井は着ているスーツのポケットを軽く叩いた。
何か入っている様だ。
「ここに、本物が」
松浦と青山は、顔を見合わせた。
松浦が言う。
「……あの怪盗も、奪う時は力づくでくるかもしれません。預からせてください。
あなたの身も少しは安全になるし、怪盗が我々の前に現れてくれるなら、捕まえやすくなります」
長井は少し考える素振りを見せてから言った。
「いいだろう。期待してるよ」
「はい。青山、私より武闘派の君が持ってた方がいいだろう」
「分かりました」
願ってもない事だ。
青山自身、またダークと対峙したかったから。
ちなみに青山は、脚力も年齢に対して人並み以上の力を持っているが、格闘術もある程度持ち合わせている。
ダークに触れる事さえ出来れば、小柄な体格のダークを組み伏せることは容易そうだが。
長井は手のひらサイズのケースをポケットから出し、青山に渡した。
ネックレスのケースだ。
『桜色の宝』とは、どうやらネックレスにダイヤが飾られている物らしい。
「危ないので、時間が近くなったら出歩かないでください」
青山と松浦は長井に一礼して、踵を返す。
青山は指輪ケースをショルダーバッグに入れ、腕時計を見る。
午前11時2分
【ダーク出没まで後58分】
船内は広いため、ダークが出没する位置を把握することは出来ない。
が、奴の狙う物は青山が持っている。よって確実に、ダークは青山の前に現れる。
あぁ、笑えてくる。
奴はどんな手を使ってくる?
前回の様に暗闇は使えないぞ。
この2ヵ月半、青山はダークと対峙出来る日を心待ちにしていた。
対等な勝負をしようじゃないか……!
バイキング会場の出入口付近で、再度松浦が口を開く。
「青山、君は一番警備が固いここに留まった方がいいな。オレは本部室に戻って――」
「キャーッ!」
松浦の言葉を遮って、耳をつんざく悲鳴が聞こえた。
2人はハッとして声の方向へ目を向けた。
何だ……? まだ予告時間の1時間前……。
青山たちがいる別の出入口から、後退りする人の波。2人はそれを掻き分けて、悲鳴の元凶を見る。
呆気にとられた。
黒いローブに身を包んだ男が2人と、男の内の一人に首を腕に回され、人質に取られている男の子。
2人はそれぞれ、黒光りする光線銃を持っていた。
DKだ。
(以後便宜上、先陣を切って銃を客たちに向ける男を『DKα』、男の子を人質にとっている方を『DKβ』とする。)
「ひっ……うぇぇん!」
静まり返ったバイキング会場内は、ただ人質の男の子の嗚咽のみが響く。
「長井敏郎! 我々はDKだ。この会場にいるんだろ? 出て来なければこの餓鬼の頭が飛ぶぞ」
先陣を切っていたDKαが声を張り上げると同時に、DKβが男の子の頭に銃口を押し付けた。
男の子は一層強く泣き始める。
青山は腰の拳銃に手をかけた。
大丈夫。徹底して金属検査をしたんだ。あの銃が本物の訳がない。
しかしすぐにでも手が出せないのは、奴等が金属以外の凶器を持っていることが否めないからだ。
「総理、こちらへ」
「いや、いい」
「総理!」
まだ会場内にいた長井は、ボディガードの制止を振り切ってDKの前に現れた。
この状況にも関わらず、意外にも……余裕の表情だ。
「私だ。その子を直ちに解放しなさい」
DKαは長井に銃口を向けた。
「賢明な判断だ。ダークが予告した“桜色の宝”を渡せ」
「……そこのケースにあるではないか」
長井が指差したのは、会場の中央に置かれた偽物の“桜色の宝”が入った、透明なケース。
馬鹿が……!
偽物だとバレたらどうなるか……!
「ケースに鍵が掛かっているんじゃないか? それを寄越せと言っているんだ」
「……では、この鍵とその子を交換だ」
「こちらに貴様の要求を聞く道理はない。早く渡せ。さもなくば……」
DKαは、引き金に指を掛けた。
「わ、分かった。撃つな。受け取りなさい」
長井は鍵を放った。
受け取ったDKαは、すぐさま宝石のケースの錠を開ける。
青山は横の松浦に小声で話す。
本物は先ほど青山が受け取っている。
「松浦警部、どうします?」
「……偽物だとバレたら、従うしかない」
DKαはネックレスのケースを開き、中身をまじまじと見た。
「さて、これが本物か偽物かなのだが。わざわざこんなわかりやすいところに、本物を置くとは到底思えない」
「……」
「本物のダイヤモンドは熱伝導率がとても高い。よって、息を吹きかけて表面を曇らせればすぐに透明に戻る。だが……、ニセモノはどうかな?」
「!?」
DKαは仮面を少しずらし、息を吹きかけようとした。
マズイ……!
「待て!」
青山は2人の前に踏み出した。




