24.強烈な違和感
2073年7月15日
青山の刑事の勘が、そろそろだと告げていた。
怪盗ダークが出没するだろうと。
今朝前回と同様に、長井邸にダークからの予告状が届いたと警察に連絡を受けた。
その以前から悪戯で何件かニセの予告状が警察に届いたことがあったが、今回こそは本物と言い切れる。文面が、前回とほとんど違わないことから。
「これがそのコピーだよ」
上司の松浦に、コピーを手渡しで受け取る。
今回から捜査の指揮官は上官である松浦に移った。……仕方ない、捜査本部もでき大所帯になった。警部補の青山では役不足という判断だろう。
予告状は前回と同様のフォントに字面。
文字の回りは、お洒落に金色や銀色で縁取られている。
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海の日の午の正刻
客船レインボー号の船上にて
桜色の宝を頂きに参る
怪盗DARK
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文面を読んで、何故だか心踊る。
またもう一度、奴と対峙出来る……!
「で、そのウシの刻とは何時かな?」
「ぶ……っ」
松浦が真顔で間違えるので、青山は思わず吹き出してしまった。
牛→×
午→○
「う、午の正刻はそのまま、正午です。
明るいので前回の様に照明を落としたりは出来ませんから、こちらに少し有利になるかと」
「……おぉ。そうかそうか」
自分の失態に気付いてないのか、それとも気付かないフリをしているのか、何事もなかった様に頷く松浦。
「で、『桜色の宝』とは? それよりも、長井さんは確実にこの船に乗るんですか?」
「総理に確認した所、確かにその日乗船するつもりらしい。
『桜色の宝』とは、総理が旅先で知人にプレゼントする、ピンクダイヤモンドを指すだろうとの事だ」
今回はダークが盗むものがハッキリしていて、前回よりはやりやすくなりそうだ。
「当然、長井さんには交通手段を変えてもらいますよね?」
「いや、拒否された」
「は?」
「前回のこともあり、一刻も早くダークを捕まえたいと。自分が乗船しなければダークは現れないだろう、是非警察には彼を捕まえて欲しい。とのことだ」
あぁまぁ、ごもっともな意見だ。
寧ろここで逃げてしまえば、世間からバッシングを受けるだろう。
青山が予告状としばらくにらめっこしていると、素朴な疑問が浮かんだ。
「ところでダークは、どうやってこの長井さんの渡航の情報を得たんです?」
「そう。それが問題なんだ」
「……分かってないんですか」
松浦は渋い顔で頷いた。
「情報は今の今まで、一般には一切公開されていない。長井氏にも確認したが、当然非公開だと」
「不思議ですね……」
前回のダークから、奴には有能なハッカーが付いている可能性が高い。
そいつの手にかかれば、情報を盗み出すことなど可能か……?
しかし何だか今一つ、しっくりこない。
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2073年7月16日
ダーク作戦決行前日、夕方
さくら号
長井邸に予告状が届いてから、ひっきりなしにダークのことを報道している。
さくら号の奴等(けいを含む)は大抵の準備を終え、呑気に話を盛り上げている傍ら、俺は一人テレビに釘付けになっていた。
……おかしい。何かがおかしい。
『……また、総理のスケジュールの情報の発信源が分かっておらず、警察は全力でこれを究明していますが――』
そう。この文言。
情報ソースはネット素人の俺でも見れる、長井のブログだ。それが見つけられない程、警察は無能だとは思っていない。そもそも長井本人に聞けばすぐに分かる事なのに。
俺は自分の携帯で長井のブログを今一度確認したが、普通に見る事ができる。
しっくりこない。何だこの強烈な違和感は?
『タカ……、それはダークを捕まえる罠という事にはならんか?』
先日のじーさんの言葉を思い出す。
“罠”。
長井があのブログを発信したのは『船上という逃げ場の無い鳥籠にダークを誘き寄せ、捕まえる』。最初に思った通りそれが目的で、それが“罠”と言う事だろう。
しかしそれなら余計に、ブログの記事の存在を世間にも大っぴらにしていいと思うのだが。
警察が情報統制しているのか……?
いや、だとしてもそうする理由が分からないし、そもそもブログを見れる状態のままにしない。
まさか、他に意図が……?
……考えすぎだとは思うが。
とは言えやはり、この報道の仕方には違和感が拭えない。
念の為……。
「まさかりさん。今一度、あの長井のブログの記事を調べろ」
「は? 調べる? 何を?」
「何でもいい。とにかく何か怪しい点を見つけろ」
「何でも良いって、めちゃくちゃ言うなよ。怪しいってあの記事自体が怪しいじゃねーか」
「確かにそうだ。だが今の『情報源がない』という報道の仕方は何かがおかしい」
「じゃあ何が怪しくて、オレは何を調べればいいのかを明確にしろよ。そんなフワッとした指示じゃ司令塔として失格じゃねーの?」
「……」
「それにダークは明日だぜ? そっちより明日のことに集中させろよ、もう夕方だぜ? 今何か分かったところで、明日の計画は変更出来ないだろ」
確かに、まさかりさんが言うことは正論か……。
焦ったところでもう、意味のないこと。
「……まさかりさん、珍しくタカを黙らせたね」
「口喧嘩じゃ、いつもまさかりが墓穴を掘って勝てないからの。ほほ」
「まぁオレが本気を出せばこんなもんよ。なはは」
馬鹿馬鹿しい。
俺は蔑む様な目つきで、まさかりさんを見下してやった。
「ねぇねぇ。みんなこの前は円陣を組んでダークしたんだよね?」
「あぁ、うん。そうだったよ?」
「やりたいやりたいー!」
「いいぜー! やろーぜ」
あぁ、けいめ、くそ。
俺が場を去ろうとしたその時、横にいたエリンギががっちりと俺の腕を掴んだ。
「俺はやらない。部活じゃないんだぞバカバカしい」
「と、言いつつ前回もやったじゃン?」
「あれは無理矢理……」
「タカよ、ダークを成功させるにはチームワークが必要じゃろ? 君はリーダーを名乗るなら、味方の顔を見て、コンディションを把握しておくのも司令塔の重大な役割だと、わしは思うが?」
「それは円陣じゃなくてもいいだろ」
「いや。円陣を組むのが皆の顔がよく見えて、一番手っ取り早いじゃろ。何より士気が上がるのが良い」
「……」
……じーさんはたまに、的を得た反論に困る事を言ってくる……。
俺の倍以上生きてる事は、あるな……。
6人は円になって、俺は無理矢理肩を組まされる。
もう抵抗するのも面倒で、俺はわざと皆に聞こえる様に溜め息をついた。
「掛け声、今日はエリンギがしろよ」
「いいヨ」
エリンギは少し考えてから、声を張り上げて言った。
「行くゾー!!」
「おーッ!!」
「また普通だ」
「ちょっとはひねって欲しかったのぅ……」
俺はまだ、この空気には馴染めない。
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同日、長井邸
長井は一人、PCの画面を見つめていた。
先日の来訪者からメールだ。それを開くと、写真が添付されていた。
「案外、簡単にトラップに掛かってくれたものだ。
ダークは、5人の怪盗か……。面白い」
長井がほくそ笑む先。
モニターに映っていたのは。
さくら号の5人の写真だ。




