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23.記憶を消す薬

 


 数十分の後作戦を説明し終えると、皆感嘆のため息をついた。


「まぁ前回もそうじゃが、よくここまで……」

「タカってほんとすごいよねぇ。おれも頭よくなりたいなぁ」

「今回はDK大活躍だネ。けいの役割も上手い様に出来てるシ」

「泣き真似がここで生かされるなんて……。思いもしなかった」

「なぁ高英、オレの出番前より減ってねーか!?」


 約一名まさかりさん、不満の声が聞こえる。


「不服か? あんたには嬉しいことだと思ったんだが」

「オレはもっと目立ちてーし、活躍したいの!」


 あぁもう、本当にこの人は面倒臭いな!

 最近はひかるの存在よりも厄介だ。


「時間帯は正午の真っ昼間だから、照明のことは必要ないからな。あんたにも仕事を与えただろう。それに事前の準備はエリンギのサポートもしてもらう。分かったか? あんたは十分活躍してんだよ」

「わっかりーましぇーん」


 ダンッ!

 俺が卓袱台を叩くと、皆驚いて息を呑んだ。

 まさかりさんが睨んでくるので、俺も鋭く睨み返してやる。


「お前らは、黙って司令塔の俺の言うことだけを聞いていればいい。不服があるなら俺を納得させてみろ」

「なんだその上から目線はぁ……! 年下のくせに、ちょっと頭がいいからっていい気になってんじゃ……」


 ピンポーン


 まさかりさんの言葉を遮るように玄関チャイムが鳴った。

 玄関チャイムによって言葉を遮られたまさかりさんは、一度舌打ちしてからまた続ける。


「……いい気になってんじゃねーよ」


 少し熱の冷めた言い方になってしまった。


 ピンポーン


 間髪を容れず鳴り響くチャイムに、イラッとする。


「ア……、ボクが出るヨ」


 玄関に一番近かったエリンギが立ち上がる。

 そして俺も見取り図を片付け始める。

 パワフルかもしれない。あいつなら有無を言わさず、ずかずかとここに立ち入るだろう。


「ハーイ」


 玄関から声が聞こえる。


「何か用ですカ?」

「あぁ、友達がここに住んでる筈なんですけど」

「ハァ……、名前ハ?」

「いやまぁなんつーか。そいつの名前思い出せなくて……はは」

「……ハイ?」


 声で分かった。優輝だ。

 アイツ、アポ無しで来やがった……。

 しかも会いに来た友人の名前(偽名)を忘れるなんて、あり得ないだろ!


「いや……、確か『たか』ってついたような。ナントカたかナントカ」

「……木谷高英くん?」

「そう! そうですそれそれ!」


 俺が大股で玄関に行くと、優輝はパァと嬉しそうな顔をした。


「タカフミ〜! 久しぶりー!」


 俺は優輝の肩を掴んで玄関の外へ連れ出す。


「来い」

「はぁ? 何でだよ、あがらせろよ。光里にも会いた――」

「いいから!」


 俺と優輝がバタバタと外に出ていくのを、エリンギは唖然として見ていた。





___________





 俺と優輝はフラフラと適当に歩きながら会話していた。


「やー。焦った焦った。お前の偽名うっかりド忘れしてよぉ。ポロッと本名言いかけた、ははは」


 陽気に笑う優輝に対し、俺は深い溜め息をついた。


「あれほど来るなと言ったろ……。それに、来るなら一言言ってからにしろ」

「言ったって駄目っつーだろお前」

「駄目と言っても来るんだろ」

「んじゃ駄目って言わなくていいんじゃね?」

「だからそれは駄目だと言ってるだろ」

「は? 何が駄目だって?」

「だから……、……?」

「……っ、ははっ」


 優輝が笑う。俺もつられて失笑する。

 コイツもアホだが、何故だか一緒にいて気が楽だ。


「……で? 今日は何の用だ」

「あー。やっぱ光里のことだよ。もう光里のこと、知ってんだろ?」

「自分からペラペラ喋るからな。インターハイのこととか」

「さすが秀才高俊くん。バレるとは思ってたけど、こんなに早いとはなー。『バレました』って連絡来た時には、もーオレもどーしようかと思った」

「やっぱりお前が一枚噛んでたんだな」

「住所教えただけだよ。行きたいって駄々こねんだもん、あいつ」


 優輝はひかるが、わざわざ俺を追って来た理由を知っているのだろうな……。

 別にそこまで興味があるわけではないが、聞いてみるか……。


「でよ。高俊。聞きたいんだけど」

「ん」

「女だと知って、どーしてあいつを追い出さなかったんだ?」


 優輝の問いに、一瞬ポカンとしてしまう。


「……女だから、追い出す理由があるのか?」

「いやだって、女禁止だろお前んトコ。それにどー考えたってお前目当てで来てる訳だし、お前なら有無を言わさず追い出すかと思った」

「あぁ……」


 そうか。確かにいつもなら、そうしていた筈だろう。

 ……いや、実際最初はひかるを追い出そうとしたんだった。


「もしかして……、まさかまさかの特別な意味が」


 ……特別な意味?

 ひかるを追い出そうとして追い出さなかったのは、俺の計画に使えると思ったから。

 実際初回のダークではあいつの脚の速さは際立って活躍したし、次回もその予定だ。


 それが『特別な意味』と言うことか?


 あいつが女だとバレないようにかばうのは、それが理由だ。


「……ぅおーい。高俊?」

「ん」

「あー……。やっぱ何でもねーよ。

 お前とはこういう話は合わねーことは知ってるし」

「……こういう話?」

「あーもういいって。つーかオレ、光里とも絡みたいんだけど。やっぱお邪魔していーだろぉ? もーお前らの本名が、他の人達にバレる様なボロは出さねーからよ」

「ダメだ。絶対お前はボロを出す。そんなに会いたいなら今ここに呼べば良いだろ」

「おー、確かに」


 優輝が携帯を取り出そうとしたところを、俺は静止する。


「あいつを呼ぶ前に。聞きたい事があった」

「ん?」

「……大分、シリアスな話になるが」

「な、何だよ?」

「“MB”という、精神科の薬がある」

「?」

「それは略称で、“Memory Breaker”というのが正式名称だ。……その名の通り、記憶を消す薬だ」


 優輝が一瞬驚いた顔をしたのを、俺は見逃さなかった。


「投与してから数日間の記憶が丸ごと消える。当然、『自分がMBを投与した』という認識も残らない。……そして俺は、過去にこの薬を投与した可能性がある」

「そ、そうなのか?」

「優輝、お前何か知ってるな?」

「え〜知らないなあ、そんなの……」


 苦笑いする優輝の肩を、俺は強く掴んだ。


「優輝、お前には国会事件のことを全部打ち明けただろ。それはお前の事信じてるからだぞ」

「う、うーん……」

「隠し事はなしだろ。ここまで俺は、お前の事信用して言ったのに……」


 優輝は非常に苦しそうに、俺の肩を掴み返した。


「高成さんに、口止めされてます……」

「え……」

「だから本当に言えない。マジで。ごめん。でも本当に、お前の為なんだ……。信じてくれ」


 親父が絡んでるのか……? ますます訳が分からない……。

 そして俺が親父の意思に背く事は一切出来ないという事を、優輝は知っている。


 俺は優輝から手を離した。


「……分かった」


 一瞬沈黙したが、優輝は元のテンションにすぐに戻った。


「よしっ、じゃあ光里呼ぶぞ〜」

「本当に切り替え早いなお前……」


 “MB”。

 あの薬は俺の……トラウマだ。


 だが、記憶を消せるというのは随分都合が良い。

 元は精神科の治療薬だが、凶悪犯罪で使われることも多くなった為、一般の販売は禁止されている。


 そしてそのMBを、俺は隠し持っている。

 ……何か不測の事態が起きても、対処できるように。





___________






 数分の後。ひかるが走ってやって来た。


「優輝せんぱーい!」

「光里ー! 会いたかったぞー!」


 いきなり軽く包容した二人を見て、俺は軽く引いた。


「嬉しい、本当に嬉しいです。この3人で会話できる日が来るなんて……」


 ひかるの目が、何故か潤んでいる。


「何でお前が泣くんだよ」

「な、泣いてないよ! タカだって優輝先輩が来て嬉しいでしょ?」

「はぁ? こっちはいきなりコイツに本名バラされかけたんだぞ?」

「あ……、優輝先輩もおれと同じ事しかけちゃったんだ……」

「あっははは。光里、高俊にもうタメ口なの?」


 そう笑う優輝に、俺もひかるもハッとした。


「……敬語使えよ」

「え、やだ。今更すぎるよ」

「もうお前らそんな仲良いのか〜! なんだ良かったー! 心配して損した」

「仲良くない!」

「ふふふ」


 ひかるも優輝も、楽しそうに笑った。

 その後3人で昔の他愛のない会話などした後、優輝はホテルに一泊して帰って行った。



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