17.有り得ないミスだろ……
その翌日の夜。
初日の打ち上げは俺とエリンギが不在だった為、再び仕切り直しとなった。
と言っても、俺は参加せずにまた2段ベッドの上段から、下のちゃぶ台の4人の会話を聞くだけだったが。
「タカ……本当に参加しない?」
乾杯する前に、ひかるが少し寂しそうに聞いてきた。
「しない。勝手にしてろ」
「せっかく5人で成功させたのに……」
「馴れ合うつもりはない。大体、俺は昨日のことまだ怒ってるからな」
「散々謝ったじゃん……」
「いいじゃねーか。参加したくねー奴はほっとこうぜ」
まさかりさんがそう言うと、ひかるは諦めてちゃぶ台の輪の中に戻った。
「んじゃ、ダークの成功を祝いまして!」
「かんぱーい」
4つのコップがぶつかり合う。……流石にまさかりさん以外の3人は酒は避けている。
飲み物を口にして開口一番、まさかりさんがハイテンションで言った。
「よしっ! 一番最初にっ。ティアラいくらになったか知りたい人ー!」
「えっ、もう換金出来たんだ!?」
……は? 俺も聞いてないんだが?
「はいっはーイ」
「はいマイケルくん!」
「やる前にタカが5,000万って言ってたかラ、5,000万!」
「ブブーッ!」
「えっ、違うノ?」
「何と、“ダークの盗品”という箔がついて、5,200万になりました!」
「おおーっ!!」
「おいっ、聞いてないぞ!?」
俺は思わず、ベッドの上から口を挟んだ。
「おう。今初めて言ったからな?」
「普通、そういうことは誰よりも先に俺に言わないか?」
「はぁ? 何でだよ」
「ダークは俺が仕切ってるんだ。そういう大事なことはまずはリーダーに通すのが筋だろ」
「高英がリーダー!? 誰がそんな事決めたんだよ!」
「俺がダークの発案者で、司令塔だからに決まってるだろ」
「んな事関係ねーよ!」
俺とまさかりさんの言い合いに、他の3人は「またか」という顔を露骨にする。
俺は堪らずベッドから降りた。
「経費はざっと200万だな、エリンギ」
「ウン。タカの読み通リ」
「じゃあ配分もやる前話した、経費200万はエリンギが立て替えてるから返す。あとは寄付に4,000万、残り1,000万を山分けだ」
「待てよ! 大体何でそういう大事なことお前1人で決めるんだよ! みんなで相談して決めよーぜ、なあ!?」
「おれはタカに賛成ですけど」
「わしも」
「ボクも。まあ、寄付額をもっと増やしてもいいと思うけド」
「なっ……、マジかよ!」
墓穴を掘ってしまったまさかりさんを、俺は鼻で笑った。
「第一、はっきり言うぞ! 昨日一番何にもしてねーの、オレはお前だと思うぜ!」
「……は?」
「ちょ、まさかりさん! 何言い出すの!?」
「だってコイツがやったの、縄はしごに掴まってハッハッハーって逃げてくだけじゃねーか!」
「まさかり、止めんか。何故そこまでタカに突っかかるんじゃ」
俺はまさかりさんをキツく睨んだが、怯まない。
「『俺が仕切ってるんだ』なんて言って、本当は自分が一番楽な様に作戦考えたんだろ!?」
「何だと?」
「そ、そんなことないっテ! ボクには縄ハシゴに掴まって上空に何分モ、安定しない場所にいるなんテ出来ないシ……!」
「人のことばかり言うが、じゃああんたはどうなんだ」
「あ゛ぁ!?」
俺も声を荒げずにはいられなかった。
「あんたはずっと、一番リスクの少ない車の中にいたんじゃないのか? 現場にいた俺よりずっと捕まるリスクは低かったな?内心、『自分は安全でよかった』なんて思ったんじゃないか?」
「思ってねーよ!」
「それに俺やエリンギの帰りも待たずあんたは何してた? ちっとも反省の色が見られないけどな!」
「もう、2人とも――」
「やめてよ!!」
俺やまさかりさんのみならず、全員の動きが止まった。
……今、誰が叫んだ?
「けんかはやめて!」
甲高い声だった。
「ひかる……、喋っタ……?」
「お……おれじゃない……」
聞こえたのは、明らかに俺たち5人ではない声だった。
全員が顔を青白くして、声の主の方向を見る。
それは俺の二段ベッドの、対角線のベッドの上段。
「そ、そんなとこでなにやってんだ、けい……」
「え、何って? みんなを驚かせようと思ってねー」
さくら号の大家の子、小学四年生の遠藤ケイト――けいが、ひょっこりと顔を覗かせていた。
この大家の餓鬼がさくら号に来ることはよくあった。人懐っこくて他の4人はさておき俺ですら好かれて付き纏ってくる。……邪険にしているが。
しかし、こんな隠れて奇襲のような真似をされるのは初めてだ。皆がいない間に合鍵を使って入ったに違いない。
俺は目眩がして、思わず眉間を押さえた。
さっきの会話、全部聞かれた。
信じられない……、こんなの有り得ないミスだろ……。
「あれ……、もう仲直りした?」
「……」
もうまさかりさんも喧嘩どころじゃなくなった。
「けい……、いつからそこに?」
「んーと。みんなの留守を狙ってずっと隠れてたんだー! すごいでしょー?」
「あ……、そっか。けいはパワフルの合鍵使えるもんね……」
「話、全部聞かれてんジャン!」
「ど、どうするんだよ」
「ねぇねぇ、それよりさぁ」
けいはベッドから下りてくると同時に、最高級の笑顔で俺たちが一番恐れていたことを口にする。
「タカたちがダークなの?」
一瞬、重い沈黙がさくら号を包む。
「な、何言ってるんだヨけい。そんなわけないっテ」
エリンギが少々片言で否定する。
「えー? でも最初にまさかりさんが『ダークの成功を祝いまして――』って言ってたよねー?」
「言ってない言ってない聞き間違いだよーん?」
「え〜、言ったよ〜?」
「いやいや、しかしそれじゃわしらがダークという証拠にはならんぞ。わしらはそう、ダークの大ファンなんじゃ……。ファンが成功を祝うのは、おかしくないじゃろ?」
「そ、そうそう! だ、ダークって、ほ、ほんと凄いよねー? おれも大好き! あははは」
絶望的に嘘が下手なひかるは喋らないで欲しい。
「えぇー? でもでも、その後にタカが『ダークは俺が仕切ってるんだ』って……」
「……」
皆からの視線が痛い。
「ねぇねぇ? ダークなんでしょー? ねぇタカー?」
「……」
大家であるコイツの母親も中々に口達者であるが、その影響か妙に口が達者で勘がいい……。
どうする。ここまで会話を聞かれてしまうと、下手な嘘でも誤魔化すのは難しい。
他の連中は、黙って俺の言葉を待っている。
「ねぇ、おれダークすっごい好きなんだよ? 格好いいし、みんなの注目の的だしっ! 今すっごいドキドキしてるんだよ? まさか本物に会えるなんて、思ってなかったもん!」
不幸中の幸いなのは、会話を聞かれたのは小学生の餓鬼ということだ。
通報してやろうとかいう考えは一切なく、ダークに対する強い興味と憧れで他意はない。
俺は深いため息を吐いた。
「……その通りだ」
「た、タカ……」
俺はけいとしっかり目を合わせて言った。
「俺たちがダークだ」
するとけいの表情は、一気に輝く。
「すっっごーい!」
けいは大興奮して、今度はひかるの服の袖を掴んでぴょんぴょん跳ねる。
まさかりさんが俺に近寄って、怪訝な顔で迫る。
「お前何フツーにバラしてんだよ? アホじゃねーか」
「バカにアホと言われる筋合いはない」
「あ゛ぁ?」
「もうやめんさい」
じーさんが無理矢理、まさかりさんを引き剥がす。
「ん? ところで誰がダークなの?」
けいがひかるの顔を見上げる。
「あぁ、1人じゃなくて、おれたち全員がダーク」
「そうなの? うーん……、どういうこと?」
「えーと。どう言えばいいのかな……」
「おいひかるまで! もう言うなって」
「けい」
俺はけいと視線を合わせてしゃがみ、真顔で低い声で言った。
「知ってしまったな……、俺たちの秘密を。もう、タダで返す訳にはいかない」
「え……っ」
「た、タカ……。どうする気?」
「俺たちは命懸けでダークという犯罪を行った。お前の口は俺たちにとって最大の凶器だ。今日から、俺の言うことに従ってもらう。さもなくば」
「さもなくば……?」
「お前の一番大切なものを盗む。俺たちは、怪盗だからな……。子どもだからって容赦しない」
フフ、と不気味にほくそ笑む俺を見て、けいだけでなく皆が背筋を凍らせた。
「た、タカの言う事ってなに……?」
「共犯になれ。俺たちと同じ罪を背負え」
「えっ」
「6人目だ。次回以降お前もダークに協力しろ」
「えぇーっ!?」
皆から悲鳴のような声があがった。




