13. 1st DARK inside ②
「お……お前らが怪盗、か?」
黒いローブに身を包んだ俺とひかるに挟み撃ちされ銃口を向けられた警備は、小さく手を上げて恐る恐る問う。
「俺たちが怪盗? ふふ……」
俺は自分でも寒気がするくらい、気味悪く仮面の下で笑う。
ちなみに声だが、俺もひかるも最初から、じーさんのガスで多少変えている。
「笑わせるな。その逆だ」
「逆!? ひぃっ」
銃口を警備の背中に押しつけてやる。
「俺たちは、ダークを殺しに来たんだ。邪魔をするなら、警察の人間も容赦なく殺す」
「ひっ、ちょっとまっ――」
俺は引き金を引いて3数えたその時、警備は地面に突っ伏した。……ただし撃ったのは、左ポケットから瞬時に出した、麻酔拳銃だ。
「タ、カ……?」
ひかるはずっと、拳銃を構えたまま固まっていた。
「あれ、素じゃないよね……?」
「はぁ?」
「め、めっちゃ怖かったぁ……!」
「……あれが素かもな」
「え、嘘言わないでよ……」
ただでさえ緊張してんだから、と加えて、ひかるは俺の後に従った。
非常口の外から侵入するには、7桁の暗証番号を入力しなければならない。当然番号は百万通りある訳で、一から潰していける筈がない。が、
「まさかりさん、非常口」
「任せろっ」
すると時をほとんど待たずして、扉が開いた。これはまさかりさんが、ハッキングでセキュリティを解除したためである。
「開いた! すごいよまさかりさん!」
「フンっ、オレにできねーもんはねーんだよ」
得意げに話すまさかりさん。
俺とひかるはそれを聞きながら、静かに走って邸内を移動する。
そして予定通り、1階の手洗いに身を潜める。この手洗いは会場から遠いので、一般の客が来ることはないだろう。
息を切らすことなく、俺たちは同じ個室に入り、鍵を閉める。
「ふぅ……」
……さて、どうしたものか。
ひかるはカバンからタキシードを取り出し、今にも着替えを始めようとする。
そういえばこいつが着替える所を、見た事がない。朝俺が起きる頃にはもう起きて着替えてるし、学校から帰った後もいつの間にか……。
……当然、か。さすがのバカもそこは考えて……。
じゃあ、今は?
「……おい」
「ん?」
「あっち行け」
「え?」
「狭い」
「あぁ……、うん」
ひかるが隣の個室に移った所で、俺は小さくため息をついたのだった。
ここが面倒だな。もうちょっと自覚しろよ……。
時間もあるし、今話しておくか。
そうして俺とひかるはそれぞれ怪盗の姿に着替えたところで、再び声をかけた。
「ひかる」
「うん?」
「こっち来い」
「えぇ?」
さっきは狭いとか言って追い出したくせに。とか思ってそうな口調で、ひかるは再び俺がいる個室に入る。
「……わ」
俺のタキシード姿を見て、ひかるはにやけた顔を手で隠す。
「……変か?」
「や、逆です。似合ってます……」
俺から目を逸らして、ニマニマするひかる。
何だその顔は。気色悪いな。
同じ格好をしているひかるを俺も見る。
ひかるは身長158センチ。小柄だが、シルクハットのお陰でサマになっている。
俺との身長差は15センチ。靴を多少厚底にしたりしてその差を埋めてはいるが、まあ遠目からならさほど分からないだろう。
俺は自分の唇の前に人差し指を立て、静かにのポーズをとりつつ、インカムを外した。
ひかるは少し怪訝な顔をしながら、同じくインカムを外してそっと手に包んだ。これで小声で会話すれば他の3人には聞こえない。
「なかなか話せる機会がなかったから、今忠告しておく。お前、あの3人になんて言って、自分の足の速さを認めてもらった?」
「え?」
怪訝な顔で俺を見るひかる。
「特に何も言ってないよ」
「……?」
「タカが認めてくれたから、みんなも認めてくれたみたい」
「じゃあこれからも、余計なことは喋るなよ」
「え、余計なこと?」
「例えば、インターハイの記録塗り替えた、だとか」
「……なんで?」
「はぁ? バカかお前は」
わざと大きくため息を吐く俺と、口を尖らせるひかる。
「わざわざ言わないと分からないか……」
「だ、だって訳分かんないもん!」
「でも今言ってしまったらお前、作戦に集中出来なくなるかもな」
「タカが今言わない方が気になって集中出来ないよ!」
「うるさい、聞こえるぞ」
俺はインカムを指差して言うと、ひかるははっとして口を噤む。
「なら言うが、それで精神を乱すな」
「分かってる」
タカは鼻から息を吐いた後、ゆっくりと口を開いた。
「去年そんな大記録を出したのは、俺の記憶の限り、女子の100メートルだけだからだ」
「……!」
ひかるは明らかに動揺して閉口した。
「それを聞いたまさかりさんが……、いや、素人でも調べられるだろうな。お前の名前と顔写真が……」
「分かった! もういいよっ」
俺が勝ち誇った様な表情をしていると、ひかるは泣きそうな表情で俯いた。
「……いつから?」
「ほとんど最初からだ。気付いてなかったのか」
「じゃあ……、おれが女ってことも」
「とっくに」
しかし次の瞬間、ひかるはハッとする。
「もしかして、さっき『狭い』って言ったの。おれが着替えるのを想像した……?」
「は?」
ひかるは突然顔を真っ赤にして、俺の肩を思いっきり叩いた。
「痛っ、はぁ!?」
「着替えるって分かってたんだから、おれだってそれくらい考えてたからね!? 変態!」
「な……っ、被害妄想が甚だしいぞ!? お前が自覚なさすぎるのが悪いんだろ! 男子限定のルームシェアに入居するってバカなのか!?」
「いや、それはちゃんと事前にさくら号見学して、あの3人なら大丈夫そうだなーって」
「そんなに簡単に他人を信用するな!」
「タカ、声が大きいよ……」
はぁ、もう、本当にコイツと話すと調子が狂う……。
「大体、性別偽って嘘ついてたのはお前だろ。逆ギレするな」
それを言うと、ひかるはしゅんとして小さくなった。
「それは、ごめんなさい……」
「……だが俺には性別など関係ない」
「え?」
「俺が必要なのは、俺の目的を果たす事が出来る人間であって、お前がなんであろうと関係ない」
「目的って? そういえば、タカがダークを提案した理由って……」
「お前に言う必要はない」
「か、隠す事ないじゃん! 現に今おれだって、ダーク一緒にやってるのに!」
「じゃあ聞くが、お前は?」
「え……」
「お前には、ダークをやる決定的な理由があるのか?」
「あるよ!」
「何だ? 言ってみろ」
「……!」
ひかるは俯いて、黙りこくった。
ほら、お前だって俺のこと信用してる訳じゃないだろ?
「同じ事だ」
「……」
俺は腕時計を見て、再びインカムを耳につけた。
ダーク犯行予告時間、約5分前。
「エリンギ、もう準備はいいな」
「モチ!」
「まさかりさんは俺の合図ですぐに照明を落とせ」
「分かってる」
「じーさんは、可能な限り夫人に近付け」
「了解じゃ」
俺は個室の鍵を開けて、ひかるの方を振り向いた。
「俺はもう行く。ひかる、お前は作戦通りに」
「うん……」
俺は仮面を被り、外に誰もいないことを確かめた上で外に飛び出した。
これから、俺は屋上で待機。
ひかるは時間が来るまでそのままだ。
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一方大広間のパーティ会場の、マイケル・エレンジに扮したじーさん。
ダークの犯行予告時間が近付き、薄々と警備側の緊張が伝わってくる。
客たちは皆数人のボディガードを引き連れ、他の客たちとの会話を楽しむ。
物騒なパーティだ。ボディガードがいないなんて、恐らく今マイケル・エレンジだけかも知れない。
じーさんは、未だ客との挨拶に勤しむ夫人の姿を、サングラス越しに確認する。
夫人も例外じゃなく、ボディガードを引き連れている。
頭には、狙いのティアラ。
あと5分、だ。
じーさんは夫人ともっとも近いテーブルを選び、彼女に背中を向け座る。
このまま夫人が動かなければ、距離は立ち上がって3・4歩といったところか。
後はこのまま、作戦を実行するのみ……。




