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12. 1st DARK inside ①

insideはタカ視点です。

 


 2073年5月5日

 午後6時47分


 マイケル・エレンジ、長井邸にパーティ客として入場。

 エリンギの身分(世界的大企業の御曹司)ともなれば、自ら参加したいと言えば拒まれなかった。


 マイケル・エレンジはサングラスを掛け、受付へ颯爽と進む。


「いらっしゃいませ。お名前は」

「あぁ……、マイケル・エレンジです」


 ここまでの会話で、きっと普段エリンギと関わりのある者には違和感を感じていただろう。いつものエリンギにしては、発音やアクセントが美し過ぎる。

 エリンギは日本に来てもう1年経つが、日本語はペラペラと言えども、やはりどこか引っ掛かる。(特に語尾とかアクセントがおかしい)


「では会場はあちらを真っ直ぐになります」

「分かりました」


 まさか、この短期間で特訓して上達した訳ではない。

 それはマイケル・エレンジがエリンギでないからだ。


「わしじゃ。侵入成功じゃ。今から会場に行く」


 小声で耳に入れているインカムに話しかける、マイケル・エレンジ。


「おぅ。引き続きエリンギの熱演頼む、じーさん」


 無線からのまさかりさんの声。

 変装したじーさんは、ほくそ笑んで静かに了解と呟いた。


 じーさんは現役時代、特殊メイクアーティストとして職についていた。当時はそこそこ世間に名を馳せていて、舞台や撮影に引っ張りだこの存在だった……らしい。

 現役引退後は、趣味が高じてコスプレイヤーに技術を提供しているらしいが。


 変装は、まず変装する人物とあまりにも顔の輪郭が違う場合は、特製の変装マスクを被る。

 今回はエリンギという人種すら超える変装になる。じーさんは準備期間中、エリンギとにらめっこしながらそれを作っていた。


 そしてカツラを被り、頭髪を本人そっくりに整え、カラーコンタクトを入れる。後はある程度化粧して、完成。

 肝心の声は、身体に無害な様々な種類のガスを混ぜ合わせ、本人の声を作っていく。


 体型はどちらも細身なので問題ないだろう。

 厄介なのは、身長。じーさんとエリンギの身長差は20センチ近くある。不自然じゃない程度に、厚底靴を履いたり髪を盛ったりして誤魔化すが、やはり到底20センチも埋められない。

 だが、今回会うのはエリンギとは初対面の人だろうから、身長はなんとか誤魔化せるだろう。


 こうして、少し小さなマイケル・エレンジが誕生したのだ。


「じーさん、どウ? パーティ」


 エリンギから無線。

 この無線は、常に5人の音を共有している。よって会話の内容は全員の耳に入ってくる。

 また、まさかりさんのPC(無線の親)で色々コントロールすることができ、シャットダウンされると無線の電源も落ちる。


「うん。料理は最高じゃが、挨拶がいちいち鬱陶しいの」

「料理おいしイ?」

「そりゃ、もう。ホッペが落ちそうな勢いじゃ、ほほ」

「よかっター!」


 まるで自分が料理したかのように喜ぶエリンギ。


「って、なんでそんなお前が喜んでんだよ」

「エ? そりゃわざわざボクの変わりニパーティ出てくれてるんだシ、おいしくなかったラ申し訳ないでショ。てカじーさん、パーティは初めテ?」

「いや、結婚式なんかには何回か出席した」

「テメー! 今庶民を馬鹿にしただろ!」

「エ、そんなつもりじゃないってバ!」

「あ、でもこんな大きなパーティは初めてじゃの」

「なんだー。よかっター」

「おいお前ら、黙れ」


 他愛ない会話を切り裂く声は俺だ。本当に緊張感のない奴らめ……。


「特にじーさん、必要最低限喋るな。独り言が激しい様に見られる」

「お……、すまん」


 数秒無線が静かになったところで、俺は隣にいるひかるに口を開く。


「ひかる、そろそろだ」


 午後7時38分。


 俺とひかるは、長井邸の敷地の外に身を潜めていた。


「まず、先に」


 俺がバッグから取り出したのは、液体が入った容器。容器のキャップを外して、キャップに書いてある目盛りまで、中身を注ぐ。


「お前から、飲め」

「え、な、何それ?」

「なんだ、俺が毒でも飲ませると思うか?」

「いやっ、滅相もない!」


 恐る恐る、それを受け取るひかる。


「麻酔が効かなくなる薬――“抗麻酔剤”だ。奴等は麻酔銃を携えている。眠らされては手も足も出ないだろ」

「あ、なるほど……」


 言いつつ、ひかるは液体を鼻に近付ける。


「無臭……」

「早く飲め」


 俺が苛立って言うと、ひかるは口をへの字にして、意を決して口に運んだ。


「……っ!?」


 こくり、喉が動く。一口で飲み込んでから、むせた。


「げほっ、うぇまずっ! 水! 水水!」


 ひかるがバッグの中を漁っている間に、俺はひかるからキャップを奪い取って中身を注ぐ。


「うぅ、うぅぅ……」

「おい、大袈裟だうるさい」

「だって、本当にまずかったって! 排気ガスの味した」

「はぁ?」


 一応、臭いを嗅ぐ。

 ……無臭。


「……え、タカもそのキャップで飲むんだ?」

「他にない」

「だって、それって間接キ……あ」


 ひかるがそれを言い終わる前に、俺はそれを飲みほした。


「……」


 ひかるが口をぽかんと開けて、俺の顔を見ていた。


「あれ、味は……」

「……!!」


 俺はひかるが持っていたペットボトルを手から奪い取り、そのまま水を飲んだ。


「あぁ! わぁぁぁ!」

「うるさい! 絞め殺すぞ」


 はーと息を吐いて、ボトルをひかるに突き返す。

 ひかるは顔を赤くして、俯いて無言でキャップを閉める。


「……関係ないだろ。男同士だから」

「そ……、そうだけど、さぁ……」

「行くぞ。喋ってる暇などない」

「う、うん」


 俺とひかるは、それぞれ同じ仮面を被る。

 ダークの被る物とはデザインが違い、形も顔全部を覆う。格好も、全身黒い服にローブ。フードを被り、完全に顔を隠す。


「おい3人、これから俺とひかるは長井邸に侵入する。まさかりさん、カメラは」

「とっくにオレらの思惑通り、乗っ取ったぜ」

「よし、行くぞひかる」

「うん」

「健闘を祈る。グッドラック!」


 巡回する警官の目を慎重に掻い潜り、俺とひかるは長井邸の塀に駆け寄る。

 5メートルはある壁だが、巻き取り式のフックを発射し固定して、俺たちはロープをつたい長井邸の敷地の塀を軽々と乗り越えた。……俺とひかるは同じ陸上部だった。ひかるはともかく、俺だって並以上の運動神経はある。


 そしてその様子を、しっかりと防犯カメラは捉えていた

 本来、長井邸の様にセキュリティが高い設備では、防犯カメラに不審者を捉えるだけでけたたましいサイレンを鳴らす筈だが、作戦通りそれは夜の静寂を破らない。

 が、ただ単に俺たちが不審者だととらわれなかった訳でもない。


 まさかりさんが上手くやってくれた様だ。


 俺とひかるは、息を潜めて小走りで建物に近付く。

 敷地は日本庭園風で、木が至る所に植わっている。

 そこに隠れつつ、侵入予定の邸内の非常口の一番接近出来る所まで近付き、木の陰に身を潜める。


 そこの見張りは、たったの1人。


「なんだ1人か……。2人でやる作業じゃないな」

「え、じゃあおれ見てていい?」

「馬鹿言うな。2人の方が有利だろ、早く片付けるには」


 薄く邸内から伸びる光を頼りに、腕時計を見る。

 ダーク出没宣言時刻まで、20分を切っている。


 俺は頭の中で今からどう動くかシミュレーションし、的確にひかるに指示する。


「ぐずぐずしてる暇はない。じゃあ、作戦通りに」

「わ、分かった……」

「いいか? あくまでも演じるのは、『ダークを殺しに来た冷酷な男』だ」


 そう言って、俺はある程度ひかると離れた木の陰に、身を潜める。いつでも飛び出せるよう、中腰になって。

 そして俺もひかるも、拳銃を片手に構えた。無論、主流のレーザー光線銃だ。


 無線に小声で話しかける。


「ひかる、お前は死んでも引き金を引くな」

「し、死んだら引けないよ」

「しかし間違いなく銃口を向けられるのはお前だから、冷静に」

「分かってるよぉ……」

「よし、行け」


 ガサガサ、ガサガサガサガサ……

 不自然に物音を立てるひかる。


「っ!? 誰かいるのか……?」


 警備が気付いた。

 同時に音が止む。


「……ね、猫か……?」


 恐る恐る、ひかるの方へ近寄る警備。そして腰から、拳銃を抜き取って、構えた。


「動くな、耐えろ耐えろ……」


 俺の位置からは、警備とひかるの距離感が見えている。

 緊張するひかるを、抑える。


 あと3歩、2、1……


「行けっ!」


 俺とひかるは茂みから飛び出して、ひかるは正面から、俺は背後から警備に銃口を向けて挟みうちにする。


「うわ!?」


 完全に固まってしまう警備。

 勝った。


「動くな。銃を置け」


 低い声で促すと、警備は素直にそれに従った。




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